細 将貴

Copyright

原著論文

Hoso, M. (2012)
Cost of autotomy drives ontogenetic switching of anti-predator mechanisms under developmental constraints in a land snail. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences 279(1748): 4811-4816. 
[times rejected: 3]

| abstract |

「カタツムリのシッポ切り」

  • トカゲのようにシッポを切って逃げる(自切する)カタツムリを発見。
  • 自切が、対ヘビ専用の特殊な適応であることを実証。
  • 自切には、成長の遅れというコストがともなうことを確認。
  • 成熟すると、自切による防御から、殻(殻口部の変形)による防御に切り替わることを発見。
  • 殻による防御には、コストが安いという利点の反面、成長途中に備えることができないという制限がある。このコストの違いと制限が、防御戦略の切り替えを促したと考えられる。

捕食者に襲われたときに、体の一部を切り捨てて命からがら生きのびる ― トカゲなどでおなじみの自切行動が、カタツムリで見つかりました。カタツムリを食べるヘビに対抗して進化したと考えられます。

イッシキマイマイ (Satsuma caliginosa caliginosa) は、八重山諸島の石垣島と西表島に生息するカタツムリです。イッシキマイマイの天敵として、イワサキセダカヘビというカタツムリをもっぱら食べる特殊なヘビが知られています(Hoso & Hori 2006)。今回、実験でイワサキセダカヘビにイッシキマイマイを与えると、イッシキマイマイは噛みつかれた尾部(腹足の後端部分)をしばしば自切して生きのびることがわかりました注1

図1.尾部をなくしてしょんぼりしている幼貝(左)と再生尾をもつ野生の成貝(右)。

食べられてしまった尾部は数週間のうちに再生しましたが、すっかり元通りというわけにはいきませんでした。全体に色あせ、表面の細かなシワのパターンがなくなっていました(図2)。トカゲの自切にそっくりです。

図2.野生個体の腹足後端部分。左から無傷、再生中、再生後。

そこで野外調査をおこなったところ、10%を超えるイッシキマイマイが再生尾をもっていることがわかりました(図3注2)。なお、イワサキセダカヘビのいない与那国島に生息する、イッシキマイマイの亜種ヨナクニマイマイ (S. c. picta) は自切をおこなわず、実験ではイワサキセダカヘビにやすやすと食べられてしまいました。また野外調査でも再生尾をもつ個体はほとんど見つかりませんでした。

図3.再生尾をもつカタツムリの各地での割合(青)。

以上のことから、イッシキマイマイの尾部がヘビによる捕食に際して切れやすくなっていること、自切が実際に野外でおこなわれていること、そしてヘビからの捕食圧がことのほか高いということがわかりました。また、イワサキセダカヘビを除けば捕食者の種構成に顕著な違いが両地域間にないことから、イッシキマイマイの自切はヘビに特別に対抗して進化したと考えることができます。

このようなカタツムリの自切は、セダカヘビ科のヘビ類の分布する東南アジアや、同じくカタツムリ食で知られるマイマイヘビ類の分布する中南米においても、見つかる可能性があります。

ところで、一般に自切にはさまざまなコストがともないます。そこで一部のイッシキマイマイの尾部を切断し、野外と実験室の両方で成長速度を比べるという実験をおこないました。その結果、尾部を失うと、失った尾部を再生させるために殻の成長が一時的に遅くなってしまうことが確かめられました(図4)。生き残る上であきらかに利益のある自切ですが、他の手段で逃げることができるなら、使わないに越したことはないはずです。

図4.殻径の成長速度(mm/日)。白:無傷、グレー:切断。写真は再生中のイッシキマイマイ。

実は、イッシキマイマイは別の方法によってもイワサキセダカヘビからの捕食を免れていることがわかっていました(Hoso & Hori 2008注3)。それは、成長の終わる寸前にできあがる、殻口の奇妙な変形を活用した防御です(図5)。カタツムリは殻口に炭酸カルシウム等を継ぎ足しながら成長していくため、このように殻口を変形させられるのは、成長が完了したあとに限られます。つまり変形した殻口という適応形質の利用には、制限(専門用語で発生拘束、あるいはより広い意味で制約といいます)が課されているということです注4。なお、殻口部の変形はイッシキマイマイの成貝に特有で、ヨナクニマイマイをはじめとする他の多くのカタツムリには見られません。

図5.イッシキマイマイ成貝の殻。殻口部にコブ(矢印)ができている。

実験の結果をよく見ると、成熟し、殻口が変形したあとには、自切が起こりにくくなることがわかりました(図6)。変形した殻口による防御が可能になったため、自切のコストを節約するよう、イワサキセダカヘビに抵抗する手段が切り替わったというわけです注5

図6.ヘビに襲われたカタツムリの生残率。白:ほぼ無傷で生残、グレー:自切して生残。

防御形質の利益をあきらかにすることを目的とした研究が、これまでに数多くなされてきました。しかし、防御形質を用いるのに要するコストや課された制限については、十分には検討されてきませんでした。本研究は、自切という防御形質にかかるコストと、殻口の変形という防御形質における制限のふたつを考慮することによって、カタツムリによる対ヘビ防御戦略の切り替えをうまく説明することに成功しました。生き物一般の話として、その生活史の進化をより深く理解するためには防御形質のコストと制限を考慮することも重要であるということを、この研究は示唆しています。

注釈

注1) これは、単にヘビがイッシキマイマイの尾部を食いちぎったということではありません。まず、上に述べたように、尾部の切れやすさには地域ごとに違いがあり、切れやすさが適応進化の産物であることに疑いの余地はありません。次に、一般にヘビの歯は獲物に突き刺さるようにできており、ナイフのように肉を切るには適していません。イワサキセダカヘビにとっても、肉の一部だけを切り取るよりも全体を殻から引き出せたほうがいいはずです。ただし、トカゲの尾に見られるのような、敢えて切断されやすくできている特殊な構造は、残念がらイッシキマイマイの尾部には見つかりませんでした。自切の起きる仕組みを解明することは今後の課題です。

注2) このすべてがすべて、イワサキセダカヘビに遭遇して自切を起こした結果だとは考えていません。鳥につつかれるなど、何らかの事故によって尾部にダメージを負った個体もカウントしているはずです。

注3) 実をいうと、イッシキマイマイが自切をおこなうということは、この研究をおこなった時点でわかっていたことでした。議論が複雑になることを避けるため、以前の論文ではそのことには敢えて触れていません。

注4) 例外的に、成長の途中でも殻口部に突起をもつカタツムリがタワラガイ科などに知られています。それらがなぜ・どのように殻口部の部分的な破壊と再構築をやってのけているのかは、わかっていません。

注5) 本研究では検討していませんが、自切のコストが成熟後に著しく高まる可能性や、殻口部に変形をもつコストが成長途中には高いという可能性など、別の解釈もできなくはありません。しかし、それらを妥当と考える根拠は今のところありません。

Acknowledgments. -- I thank H. Ota for providing live snakes and M. Schilthuizen for comments on writing the manuscript. I also thank M. Kawai, Y. Kawai and Iriomote Station of the Tropical Biosphere Research Center for the helpful facilities in the field. CT-scanning data were provided through the courtesy of O. Sasaki. This work was partly supported by a JSPS postdoctoral fellowship for research abroad.