原著論文

Hoso, M.*, Kameda, Y., Wu, S. P., Asami, T., Kato, M. & Hori, M. (2010)
A speciation gene for left-right reversal in snails results in anti-predator adaptation. Nature Communications 1: 133. (doi:10.1038/ncomms1133) [times rejected: 10]
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和文抄訳 (Nature Japan) |

種分化のメカニズムを解明することは、進化生物学最大の研究命題のひとつです。なかでも、巻き型が左右逆転することによって起きるカタツムリの種分化はひときわ謎めいていると言ってよいでしょう。というのも、その過程で自然選択に逆らう必要があるからです。この理論上の矛盾を解く鍵は、カタツムリを食べるという一風変わったヘビにありました。

カタツムリの巻き型は、たったひとつの遺伝的変異によって逆転します。おもしろいことに、巻き型が逆転すると通常の個体とは交尾することが難しくなります。そのため、ある地域に逆巻きの突然変異個体が出現して数を増し、その地域の集団全体が一匹残らず逆巻きになってしまうと、その集団はもはや他の地域の集団と遺伝子を交換することができなくなります。種分化の完成です。

ところが、出現したばかりの逆巻き突然変異個体のまわりには、交尾できる相手がほとんどいません。そのため逆巻きの子孫が残される可能性はとても低く、次世代ではさらに数を減らしてしまうはずです。よって巻きの逆転によるカタツムリの種分化は、理論上、まず起こらないと予測されます。おそらくはそのため、ほとんどのカタツムリの分類群は巻き方向を右巻きに保ったまま多様化してきました。しかし、左巻きに進化したカタツムリも少なからず実在するのです(図1)。左巻きのカタツムリがどうして進化できたのかは、ながらく謎とされてきました。

図1.左巻き(左)と右巻き(右)のカタツムリ。この2種は共通の祖先から種分化したものです。

東南アジアには、カタツムリをもっぱら食べる特殊なヘビ類(セダカヘビ)が知られています。日本にも石垣島と西表島にイワサキセダカヘビという種が知られています。これまでの研究により、これらのヘビが多数派である右巻きのカタツムリを効率よく捕食するために特殊化していることがわかっていました(便宜的に「右利きのヘビ」と呼びます;Hoso et al. 2007;図2)。その結果として、左巻きのカタツムリはヘビに襲われても高確率で生き残ることができます。この食べられにくいという左巻きのアドバンテージが、交尾しづらいという不利を補い、結果として左巻きへの進化を容易にしたのではないかと私は考えました。本研究は、この「右利きのヘビ」仮説を検証したものです。

図2.イワサキセダカヘビの頭部の骨格(左)と,右巻きのカタツムリを捕食しているところ(右)。下顎の歯の本数が左右で異なり、右の方が多いこと、そして右巻きのカタツムリを効率的に殻から引っ張り出して食べるということがあきらかになっていました(Hoso et al. 2007)。スケールバーはいずれも10mm。

もし仮説が正しければ、セダカヘビが分布する地域と分布しない地域の間には、左巻きカタツムリの多様性に大きな違いがあるはずです。そしてその違いは、ヘビの捕食を受けやすく、また左巻きになったときの防御効果の大きい、大型のカタツムリで顕著になると予測されます。さらに、逆巻き同士の交尾がより困難な、平巻きのカタツムリで顕著になるとも予測されます(細長いタイプの殻をもつカタツムリでは交尾の様式が異なるため、多くの場合、巻き方向が変わっても交尾に大きな支障がないことがわかっています)。そこで有肺亜綱柄眼目に属するほとんどすべてのカタツムリの分布とサイズを文献から調べ、左巻きの属の割合を比べました。すると、まったく予想通りの傾向が見つかりました(図3)。

図3.セダカヘビの分布する地域(黒いバー)と分布しない地域(白抜きのバー)のそれぞれで、カタツムリの全属を平巻き(左)と細長(右)の2タイプに分け、サイズレンジごとに左巻きの属の割合をみたもの。バーの上にある数字は各レンジに当てはまった属の合計数。

セダカヘビの分布域で種分化した左巻きカタツムリの例を、琉球列島に見ることができます。ニッポンマイマイ属という分類群のカタツムリには、左巻きの種が多数知られてします。またこの仲間で右巻きのイッシキマイマイは、野外でセダカヘビに食べられているばかりか(Hoso & Hori 2006)、殻の形を特殊化させてセダカヘビから身を守るという進化を遂げていました(Hoso & Hori 2008)。ニッポンマイマイ属とセダカヘビの間には、浅からぬ因縁がありそうです。

DNAの配列の違いを利用したニッポンマイマイ属の系統解析の結果、これらの左巻きの種は、セダカヘビと分布の重複する非常に狭い地域で、右巻きの系統から何度も独立に進化してきたことがわかりました(図4)。以上の結果は、すべて「右利きのヘビ仮説」を支持します。

図4.ニッポンマイマイ属の分布(左)と系統関係(右)。左巻きの種(赤)はセダカヘビ類の分布(オレンジ)する琉球列島の南部に集中して分布し,しかも右巻きの系統(青)から複数回にわたって起源しています。

適応進化が種分化の原動力になるという可能性を最初に着想したのはダーウィンですが、本研究ほどはっきりと実証した例はこれまでほとんどありません。特に、捕食者に対する適応進化の結果として種分化が起きることを示した研究は稀です。また本研究により、たったひとつの遺伝子の変異が、種分化のみならず適応進化にも甚大な影響を持ちうることが示されました。このことは、「大きな効果をもつ突然変異はそのほとんどが有害であるため、進化には寄与しない」としてきた進化遺伝学の常識に一石を投じる成果です。

Featuring

本研究は NatureResearch Highlights および Nature Newsで紹介されました。他にもいろいろありましたので、近いうちに取りまとめます。

Referee's comment

This is certainly a most interesting paper, and an important one for understanding how predation might influence speciation.
意訳: 研究としての評価はまあ置いとくとして、すっげーおもしろかったよ。

Contributions.--M. Hoso produced the original idea, conducted predation experiments and carried out literature survey; M.H., Y.K. and S.P.W. obtained and analysed the data for molecular phylogeny. All the authors contributed to production of the paper.

Acknowledgments.--We thank A. Mori, H. Ota and F. Sato for facilitating our behavioural experiments. We also thank M. Brockhurst, S. Chiba, R. Cogni, R.H. Cowie, A. Davison, B. Grant, C.C. Hwang, M. Kawata, K. Momose, J. Murray, and P. Nosil for helpful comments. This work was partly supported by grants-in-aid for JSPS fellowship (08J02138) to M.H., and for scientific research A (18207002) to M.K. and B (20405007) to T.A. and by the Global COE Programs 'Center for ecosystem management adapting to global change (J03)' and 'Formation of a strategic base for biodiversity and evolutionary research from genome to ecosystem (A06)' of the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology (MEXT) of Japan.