原著論文

Hoso, M.*, Asami, T. & Hori, M. (2007)
Right-handed snakes: convergent evolution of asymmetry for functional specialization. Biology Letters 3(2): 169–172. (doi:10.1098/rsbl.2006.0600) [times rejected: 4]
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東南アジアには、カタツムリやナメクジだけを食べるヘビがいます。しかし彼らにはカタツムリの貝殻を砕くことができません。殻から中身を器用に引き抜いて食べるのです。

石垣島と西表島にすむイワサキセダカヘビ Pareas iwasakii の場合、這っているカタツムリに背後から近づいて、頭を左に傾け、腹足の根元にかみつきます。かみつかれたカタツムリは、そのまま殻の中に引っ込もうとしますが、ヘビは殻の中に引き込ませた下顎を左右交互に抜き差しすることで、中身を引っぱり出して食べてしまいます(動画はこちら)。

ところで、カタツムリのほとんどの種は右巻きです。私はイワサキセダカヘビが右巻きのカタツムリを食べるのに特殊化しているのではないかと考えて、下顎の形態に注目しました。

すると、歯の数が左右で著しく異なり、右側により多くの歯が生えていることがわかりました。下の写真は、アリザリンレッドで赤く染色したイワサキセダカヘビの下顎標本です。右の歯が25本あるのに対して左の歯は16本しかありません。歯の数は、どの個体を見ても同じぐらい左右で異なります(下図中央)。それは卵から孵化する前から同様だったので、遺伝的に決まっていると思われました (Hoso 2007 参照)。

この左右の違いは、セダカヘビのほとんどの種で共通していました(下図右)。ただ、一種だけ例外的に違いのないセダカヘビが見つかり、非常にがっかりしたのですが、なんとこの種はナメクジを専食するセダカヘビだということが後で文献からわかりました。状況証拠はバッチリですが、果たしてこの歯列の非対称性は、本当に右巻きのカタツムリを食べるための特殊化なのでしょうか?

非対称性指数: 下顎の歯の本数について、(右-左)/(右+左) を100倍したもの。0 だと左右対称。

そこで、オナジマイマイの右巻き野生型個体と左巻き突然変異個体をイワサキセダカヘビに与えてみるという実験をしました。その結果、左巻きを与えた場合には、右巻きを与えた場合よりも食べ終わるまでにはるかに手間取ることがわかりました。左右非対称な歯列は、右巻きのカタツムリを効率的に食べるのに役立っているのでしょう。

右巻きの巻き貝の捕食に適した左右非対称性は、巻き貝専食の昆虫やカニにも見つかっています。つまり、陸上の脊椎動物と水生の節足動物の間で、おなじの役割に特殊化した左右非対称性が収斂進化したことになります。

また実験からは、ヘビにはカタツムリの巻き方向にあわせて頭を傾ける向きを変えることができないということがわかりました。そのため、左巻きに対しては下顎をうまく殻の中に引き込ませることができず、しばしば食べることができませんでした(動画はこちら)。これは、左巻きのカタツムリが右巻きより有利になることがあるということを示す、初めての事例です。

一方で、東南アジアのカタツムリでは比較的多くの種が左巻きだという謎が知られています。このことは、ヘビが“右利き”に進化したため、左巻きが有利になり、その結果としてカタツムリの左巻きへの進化が促進された可能性を示唆しています。そしてその可能性は、私ののちの研究によって検証されたのでした (Hoso et al. 2010)

Featuring

速報系ニュースサイト: Yahoo! News, FOX News, MTV Premier, Sina.com(新波), China View(新華網), EViewWeek(視野), EINnews.com

科学記事紹介サイト: Hayadan, LiveScience, Complexity digest (ComDig), TechSci.net 

科学雑誌: Nature, Science, Pour la Science, ニュートン, Harmony: Sanki engineering magazine, CERN courier, Smithsonian Magazine, Natural History Magazine, BBC Wildlife Magazine, Science & Vie

海外紙: New York Times, Der Spiegel, Detroit Free Press, Columbus Dispatch, Indian Express, Turun Sanomat

国内メディア: 朝日新聞、朝日小学生新聞、京都新聞、産経新聞、毎日新聞、八重山毎日新聞、 科学新聞、時事通信、共同通信、Yahoo! ニュース、goo ニュース、excite ニュース

・・・などで、本研究は紹介されました。言語で言うと、英語と日本語のほかに、中国語、フランス語、ドイツ語、マジャール語(ハンガリー)、フィン語(フィンランド)、ヘブライ語(イスラエル)で伝えていただいたことになります。

Dr. Brian Charlesworth (Editor-in-Chief at Biology Letters) による Editorial において、2007年に掲載された中で especially enjoyable な例のひとつとして取り上げられました [PDF]。

Referee's comment

This is a very fine, iinterestting paper.
意訳: これは、ひっっじょうに精緻で面白い論文だ。

The authors of this study have done a nice job.
意訳: この研究の著者たちは、ほんといい仕事をしたよ。


写真は、イワサキセダカヘビの標本をレントゲン撮影したもの。頭部をちょっと斜めに固定して撮るというコツをマスターしたことで、解剖することなく、歯の数の左右の違いを調べることができました。計測に用いたセダカヘビ類の標本の多くは、北米各地の博物館と琉球大学に所蔵されていたものです。標本調査にご協力いただいたフィールド博物館スミソニアン博物館アメリカ自然史博物館カリフォルニア大学バークレー校付属脊椎動物博物館王立オンタリオ博物館の職員の皆様、それから太田英利先生に改めて感謝いたします。

イワサキセダカヘビは非常に珍しいヘビなので、計測に用いた標本も実験に用いた生体も、入手が極めて困難でした。多くの方のご協力と、先人たちによる博物館標本の蓄積があったからこそ、この研究は遂行できたと言えます。今後も地道に研究を積み重ねていく所存ですので、よろしくお願い申し上げます。

Acknowledgments.--We thank A. Iwata, S. Kobayashi and K. Mochida for helpful facilities in the field and experiments, M. Kaga and M. Tokita for help with measurements of specimens, K. Momose, K. Murase and T. Shimada for comments on the study design, B. Grant, Y. Kameda, M. Kato, A. Mori, J. Murray, M. Sasabe, A. Savitzky, T. Sota, Y. Takami and S. E. Vincent for comments on writing, T. Hirata, M. Matsui and H. Ota for providing snake specimens and M. Okamoto for the original sinistral mutant of B. similaris. This work was partly supported by a grant for Basic Science Research Project from Sumitomo Foundation, a grant-in-aid for Science Research on Priority Areas, a grant for the Biodiversity Research of the twentyfirst century COE from Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology of Japan and a PRESTO grant from Japan Science and Technology Agency.