第60回国際脂質生物学会議の開催

第60回国際脂質生物学会議 (60th ICBL) 開催報告

日時:平成31年6月17日(月)- 6月21日(金)
場所:一ツ橋ホール(日本教育会館3F・神保町)

 令和元年6月17日から21日までの5日間、有田誠領域代表をChairとして、第60回国際脂質生物学会議(60th ICBL)を一橋ホールにて開催した。ICBLは欧州の各都市で毎年開催される学会であり、一会場のみの口頭発表、30演題程度を全員で丁寧に見て回るポスター発表、いずれかの午後に近郊名所を訪れるexcursionから構成され、日本で開催されるのは実に31年ぶりであった。今回のICBLは、「リポクオリティの生物学」をテーマに掲げ、招待講演者を選定するとともに、リポクオリティに相応しいセッションで構成した。
 まず本ICBL会議は、サテライトシンポジウムである第2回リポクオリティ国際会議に続いて、本学会運営の功労者に因んだVan Deenen Lectureという基調講演で幕を開けた。今回の基調講演は、31年前のICBL日本開催にも携わり、Van Deenen博士との交流もあった井上圭三先生(帝京大学副学長・東京大学名誉教授)によってなされた(図1)。その内容は、脂質解析がまだTLCのみであった時代に、生体膜の不均一性やリモデリング、脂質結合タンパク質、ホスホリパーゼに関する先駆的な研究を手掛けてきたが、当時は種を蒔いて芽が出た程度で開花させるまでは叶わなかった。しかし、時を経て、こうした研究の重要性を認識していた後進達が、分子生物学や最新の質量分析技術を駆使することで、人を紡いで当時のテーマを花開かせてくれたという素晴らしいストーリーであった。

図1.The Laurens van Deenen Lecture.帝京大学副学長の井上圭三先生に、生体膜脂質の動的な代謝調節
について講義いただいた. その先見性と独創性に満ちた研究の方向性に盛大な拍手が送られた.


 本ICBL会議の目玉の一つは、日本が世界に誇る脂質生物学者4名による特別講演であり、2日目から毎日特別講演を開催した。清水孝雄先生(国立国際医療センター研究所)、成宮周先生(京都大学)、長田重一先生(大阪大学)、五十嵐靖之先生(北海道大学)による講演である。どの講演も歴史的な背景から最新の知見まで網羅した迫力溢れる講演であり、これだけ聴いても十分に元が取れる内容であった(図2)。
図2.ICBL2019における特別講演.本邦の脂質生物学者4名による特別講演は、組織委員会
から本会議に出席いただいた皆さまへのGIFTであると有田Chairから説明があった.


 口頭発表のセッションは、リポクオリティのテーマに則した形で構成され、脂質メディエーターから代謝性疾患、生体膜、ω3脂肪酸、リピドミクス技術、ホスホリパーゼ、細胞内シグナル、スフィンゴ脂質などどれも中身の濃い、聴き応えのあるものばかりであった(表1、図3 & 4)。

図3.Oral sessionの様子.質の高い発表が多く、活発な質疑が交わされた.

図4.Oral sessionでは最終日まで途切れることなく熱い議論が交わされた。


 会議4日目午後には、AMED脂質領域によるサテライトシンポジウムが開催され、微生物由来の脂質や長鎖脂肪酸合成酵素の役割など、これもまた中身の濃い発表ばかりであった。なお、4日目午後には、AMEDシンポジウムと平行する形でICBL名物のexcursionを企画し、酒蔵見学、お茶体験、お香体験、チームラボの四つが開催された。手作り感満載のツアーであったが、どのツアーも大きな混乱なく、参加者は日本の文化を堪能してくれたようであった。6月中旬という季節にも関わらず、(領域代表の日頃の行いのお陰か?)天候にも恵まれ、一日も雨が降らなかったことが幸いしたように思う。なお、この日の夜には学士会館にてGala Dinnerが開催され、樽酒の鏡開きで食事が開始された(図5 & 6)。

図5.最終日前夜に開催された学士会館でのGala dinnerの様子.樽酒の鏡開きで食事が始まった.

図6.Gala dinnerでのスピーチの様子.日本脂質生化学会会長の梅田真郷先生にお話いただいた.


 欧州の各都市で開催されるICBLの参加者は、例年150名程度と聞き及んでいたが、今回のICBL Tokyoは450名超の参加があり、主催する立場としては嬉しい悲鳴であった。Welcome receptionでは会場に収まりきらないほどの賑わいであったし、ポスター発表に至っては、例年30程度のところが200超の演題が出され、とても1時間x 2日では全てを見切れなかった(図7)。また昼食会場を兼ねたポスター会場内に十分な食事スペースを設けることができずに、参加者に不便な思いをさせてしまったかもしれない。とはいえ、そんな素振りを少しも見せず、最後まで熱心に議論いただいた参加者各位に感謝したい。

図7.ウェルカムレセプションとポスター発表の様子.会場に入りきらないほどの参加者で賑わった.


 そんな中、本ICBL会議最終日には、若手研究者賞の口頭発表があり、どれも秀逸な発表で質の高いセッションとなった。また多くのポスター発表の中からも、3演題にポスター賞やスポンサー賞が贈呈された(図8-10)。また海外からの若手研究者12名がLipoQuality主催Travel Awardを受賞し、ICBLのみならず、理研横浜での International Workshop on Lipidomicsに参加して熱い議論を交わした(図11)。Hotな研究領域の裏には必ず若手育成の息吹が感じられるが、本ICBL会議もそんな雰囲気の漂う会となった。
図8.最終日に開催されたYIAセッションの演者達.どの発表も興味深く、質の高いセッションであった.
図9. 若手優秀発表賞(YIA)とAmbiotis賞の受賞者.どちらも日本人が選ばれた.

図10. ポスター賞の受賞者達.今回は100以上のポスター発表の中から選出された.
図11.LipoQuality Travel Award 受賞者の12名.22日に理研で開催された
International Workshop on Lipidomicsに参加して熱い議論を交わした.


 最後に、60th ICBL Organizing Committee(図12)を代表して、本会議の運営・開催に献身的にご協力いただいた有田研(慶應大薬・理研・とくに三辻さん)メンバーに深甚の謝意を表したい。(文責・杉本幸彦)

図12. 60th ICBL Organizing Committee. 有田Chairのリーダーシップの下、素晴らしい会となり、胸をなでおろした.