第114回 京都大学丸の内セミナー




未災の地盤-首都直下地震で起きること-

令和2年1月10日(金)18:00より

 釜井俊孝(防災研究所 教授)




 わが国では、都市への人口集中が進んだ結果、現在では国民の約7割が人口集中地区に住んでいます。今回のセミナーでは、その都市域で頻繁に発生している「宅地の災害」について、概観したいと思います。
 そもそも、都市のさまざまな場所で見られる斜面災害は、その場所特有の性質を持っています。その点で、災害は、都市の膨張と成熟(高集積度化)を反映した歴史的必然性の産物であるのです。特に、ある種の宅地崩壊は、いわば都市開発の鬼子として生み出された災害であり、そこには都市の様々な問題を凝縮された形で見ることができます。つまり、宅地崩壊は自然現象と社会経済現象が交差する所に発生する災害です。それゆえ、この災害の本質を理解するためには、地形・地質学、土木工学、建築学、歴史学、社会学といった様々な角度から、総合的に見る視点が必要とされています。この点は、人間の臨床治療において、総合診療科が必要とされる理由と同じです。
 宅地の問題の難しい点は、欠陥があったとしても、災害が起きなければ、まずバレることはないという点です。そこには、戦後社会の矛盾が凝縮されているので、私の話を聞くと、絶望的な気持ちになるかも知れません。しかし、良薬は口に苦しとも言います。建前の世界に安住すること無く、苦い現実ではあっても実態を知ることが、明るい未来への第一歩だと思っています。
 そうした観点に立って、このセミナーでは豪雨災害における宅地の災害、そして、「遅れてきた公害」としての谷埋め盛土問題とそれぞれの災害の歴史的意味について述べたいと思います。また、宅地崩壊の背景である持ち家社会の成立過程と持ち家社会における様々な問題点を描写することで、次の首都直下地震で予想される宅地の被害について、理解を深めたいと思います。最後に、生存戦略としての等高線都市について述べ、未災の思想ついて提言します。
 戦後、しばらく続いた地震空白期は終焉しました。さらに、既に極端気象の時代になって、毎年のように異常な豪雨が発生しています。また、高度経済成長期から半世紀を経て、造成地の盛土や擁壁の老朽化が目立つ様になりました。つまり、災害の誘因が高まっているのに対し、それを受け止める宅地の災害耐性は逆に弱まっているのです。このセミナーでは、こうした「宅地崩壊の時代」にどう立ち向かうのかを共に考えていきたいと思います。

参考図書:『宅地崩壊』(NHK出版新書、2019年4月刊)


 写真1 地震によって突然に「危険」とされた宅地。



写真2 2011年東北地方太平洋沖地震によって崩壊した谷埋め盛土(福島市)。

 

こうした宅地の被害は、「遅れて来た公害」として最近の地震で顕在化している。情報の公開と責任の分担が必要とされている。


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