創刊の辭

 平成二年も、はや盛夏を迎へ、昧爽の池面に赤く白く蓮の花が開く季節となりました。

 戦後、数へれば既に四十五年。この間、吾が国の思想界哲学界も各方面に研究を展開し、多彩な成果を次々に公表して来られましたことは、洵に御同慶の至りであります。特に、一時期逡巡停滞の観のあったヘーゲルおよびドイツ観念論一般の研究の、ここ数年来の活況は実に瞠目すべき者があり、同学の者として欣びに堪へません。

 私どもは久しい以前から相集まってヘーゲルのテキストを読み、更に昭和六十年四月からは、年に数回のセミナーを開き、又随時外国から専門研究者を迎へもして、この偉大な哲学者を学んで参りましたが、次第に、私どもの研究を公けにして各方面から一層の御教示を仰ぐべきではないか、といふ気運が生まれ、かくして取纏められたものが即ちこの「ヘーゲル學報」であります。

 自ら通観致しますと、各自の研究方法や内容には相当の多様性が認められますが、西洋哲学の久しき伝統に深く敬意を払ひ、ヘーゲルをはじめ哲学史上の大哲から学びつつ自らも哲学の道を歩まうとする広義の理想主義的姿勢において、また恣意的構成を排し原典を原著者の精神から理解しようと意図する対話的思考において、共通のものが見いだされるやうに思はれます。
 私どもは今後この方向で、少くとも毎年、この専門研究誌を刊行すべく努力して参りたい、と存じてをります。 

 この創刊号は、京都ヘーゲル讀書會を中心に編輯されましたが、今後は会員以外の方からも、又ヘーゲル哲学および西洋近現代哲学の研究者ばかりでなく、広く学界読書界の各方面からも御教示をいただくために、場所を誌上に積極的に作り、以て学術研究一般の発展のために、私どもなりに微力を尽くして参りたい、と願ってをります。

 素志のあるところをお汲みいただき、御理解と御指導とを賜はりますやう。お願ひ申しあげる次第であります。

平成二年七月
京都ヘーゲル讀書會