アブストラクト
圏論において厄介者扱いされる概念に、クラスと集合、大きいか小さい(small)かというものがあります。
クラスとは何でしょうか。小さいとはどういうことでしょうか。これらを理解するには、
「集合とは何か」という問いを数学的にきちんと整理(公理的集合論の枠組み)して捉えなおす必要があります。
(注:この講義では圏論自体や圏論の基礎付けについての話はほとんどありません。僕もあまり知らないので・・・)
現代数学の(ほぼ)全ては集合論の中で展開できると言われています。その強力さの故、多くの人の集合論の
感覚は、素朴集合論の内にとどまっています。集合論の公理では語られてない外の世界の広がりをイメージできますか?
あなたにとっての空集合Φ(要素を持たない)が、他の世界から見ると自然数の集合N(要素を無限個持つ)に見える可能性を想像できますか?
自分の世界ではAの濃度よりBの濃度が大きく見えるのに、外から見ると同じ濃度に見える状況を考えることが出来ますか?
虚数は実在し得ないと実数(体)の世界にとどまり続けるのではなく複素数(体)へと体を拡大したように、
集合の世界も自分の絶対的な世界からもっと広い視点へ目を向けてみましょう。
このようなことを自然にイメージできるようになると、クラスと集合の違いを十分感覚的につかめるようになるでしょう。
そして、
連続体仮説:「自然数濃度と実数濃度の中間の大きさの濃度は存在しない。」
が成り立つ世界も成り立たない世界もありえるのではないかということが自然に思えてきます。
コーエンは強制法(現代集合論の基本となったテクニック)を用いて連続体仮説の独立性を示しフィールズ賞を受賞しました。
体とは違い集合論は公理が非常に強力ですから、単純に世界の拡張を行ってもそれが再び集合論の公理を満たすかは分かりません。
(体の拡大では、変数を用いて有理多項式を作る方法が一般的ですね。)
強制法は、集合論の公理を満たしつつ世界を拡大する方法を与えてくれます。
この講義では、強制法を用いた集合論(ZFC)のモデルの拡大によって連続体仮説の独立性を示すことを目標に、
公理的数学と証明可能性、ZFCの公理、順序数と基数、クラスモデルと集合モデル、絶対性、ジェネリック拡大などについて順に説明していきたいと思います。
最後に強制法の具体的な取り扱い方を中心に具体的なモデルの構成をいくつか説明したいと思います。
なお、強制法の感覚に慣れ親しんでもらうことが目的ですので、説明の順番や内容は色々変わるかもしれません。