アブストラクト
連続体仮説に関して話せることは何もありませんので、それについては佐藤さんと竹内さんの
二人から大いに勉強させていただくこととしまして、今回のセミナーでは、自分の専門である
モノイダル圏(monoidal category)に関する入門的な話をしたいと思います。
モノイダル圏というのは、簡単に言えば、対象の間に『積』が定義されており、その積に関して
対象たちがモノイドになっている(つまり、積が単位律と結合律を満たす)ようなものです。
このような説明よりも、実際に例を見てもらったほうが雰囲気を掴みやすいことでしょう。
以下のようなものは、モノイダル圏です:
(1) 集合の圏では、対象(=集合)同士の直積が定義されている。
(2) 体 K 上のベクトル空間の圏では、対象(=ベクトル空間)同士のテンソル積が定義されている。
(3) 圏 C 上の自己関手の圏では、対象(=関手 C → C)同士の合成が定義されている。
それぞれには『単位元』の役割を果たす特別な対象があります(何か、考えてみてください)。
モノイダル圏の有用性のひとつとして、その記述能力の高さが挙げられます。モノイダル圏を
フレームワーク(枠組み)として用いると、多くの概念を簡潔に記述することができます。
ある分野の代数学においてこの傾向は顕著であり、現在ではこれまで知られていた理論の
モノイダル圏への一般化が盛んに研究されています。また、時間の都合上、セミナーでは
触れられないと思いますが、結び目不変量として有名なジョーンズ多項式およびその一般化を
『モノイダル関手』として捉えることができることも知られています。
さらに、私は詳しくありませんが、証明論や計算機科学などでも用いられているそうです。
今回のセミナーを通じて、様々な分野で用いられているモノイダル圏の有用性を感じ取って頂くとともに
それぞれの専門分野においてもフレームワークとして役立てていただければ幸いです。
今回のセミナーでは、まずモノイダル圏とは何か説明し、次にモノイダル圏の理論における
基本定理とも言える Mac Lane's coherence theorem について解説します。この定理は、この分野では
常識的に用いられているものですが、その意味するところを理解するのは少し難しいように思えます。
通常の教科書には載っていない『ちょっと変な例』をいくつか用いて、Mac Lane の定理から何が分かるのか
そして何が分からないのかを説明する予定です。
このようにしてモノイダル圏の基礎事項を押さえたところで、モノイダル圏におけるモノイドを導入します。
上記の (1)~(3) のモノイダル圏におけるモノイドは
(1) (通常の意味での)モノイド
(2) K-代数(=体 K 上の単位的かつ結合的多元環)
(3) モナド
となりますが、このように、いろいろなものをモノイドとして捉えることができます。
さらにいくつかの例を紹介した後、もし時間があれば、ちょっと変わった、興味深い例として
八元数はあるモノイダル圏におけるモノイドとなるという Albuquerque-Majid の結果を紹介したいと思います。