アブストラクト
まず、、前回・前々回とズレにズレて紹介できていないままの圏論的層の定義からスタートし、グロタンディーク・トポスを概観します。
トポスとは何かを理解する上で古典論理と集合論の対応(これは高校数学で習う論理における“かつ”・“または”と集合における“∩”・“∪”の対応に他なりません)が重要になります。
全事象Aのうち、性質Sを満たすもの、命題Sが「真」となるもの、とは集合論的にはただ単に集合Aの部分集合Sを規定することになります。
この部分集合たちは通常の“∩”・“∪”によって古典束(ブール代数)を成しますが、実はこの代数構造が2点集合Ω={真、偽}という非常に単純なものによって統制されているのです。
そこで、(月並みな言い方をすれば)このΩをそれとは似て非なるものにしようとしたものが直観論理、ひいては直観束(ヘイティング代数)になるわけです。
直観論理にも、“かつ”や“または”が存在し、分配則などを満たす点で古典論理と似ていますが、二重否定が元に戻らないという点が非なるところです。
そして古典論理と集合論との対応に相当するものが、直観論理とトポス理論になるわけです(ちなみに直観は特別な場合として古典、トポスは特別な場合として集合論を含みます)。
例えば、ある圏Cから集合の圏Setへの(反変)関手圏C^は(関数環が値域の構造を反映するのと同じく)集合の圏の構造(これは古典論理)を反映しつつも似て非なるトポス(これ直観論理)となります。
ところで、この圏を位相空間Xの開集合系のなす圏O(X)とすれば、この関手圏はその位相空間X上の前層の圏O(X)^になりますが、幾何学ではこの圏を“絞り込んだ”圏である層の圏Sh(X)を使います。
ちょっと不思議なのは、この絞り込んだ圏Sh(X)にもトポスの構造が入るところです。
「じゃあ、一般の圏にも位相入れたら、層の圏Sh(C)的なの作れて、トポスになんじゃね?」
というわけで圏Cにグロタンディーク位相なるものを入れて作ったトポスがグロタンディーク・トポスです!!
こんなアナロジーがとれてしまうのは驚きですが、これが何の役に立つんでしょうか。
強制法で連続体仮説の成り立たない反例を作るには、そもそもそのモデルがZFC公理系を満たしていなければ意味がありません。
ところが、ZFC公理系は当然ながら古典論理の範疇にあるので、先の集合の圏への関手圏は集合の圏に似てはいても、そのままでは直観論理状態で使い物になりません。
ところがところが、この直観論理状態のトポスには「二重否定が元に戻らない」ことを利用して“二重否定位相”なるものを作ることができて、これを使って圏を“絞り込む”(層の圏を切り出す)と
なんと、古典論理状態のトポス(しかも集合の圏とは違うもの、コーエン・トポス)になります!!
これでめでたくZFC公理系を満たす新しいモデルが作れ、しかもこのモデルが連続体仮説をダメにすることがわかるのです。
本講義では、いちばん面白いと思われる、この層への絞り込み(特に二重否定位相を使った絞り込み)を詳しめに紹介したいと思っています。
他の技術的に煩雑な部分に関しては時間的なこともあり、細かい証明までは立ち入らない予定です。。