契丹語動詞の活用語尾について

本サイトは、契丹語・契丹文字の最新の研究成果を紹介するとともに、関連の剽窃行為をも筆誅することで、研究の「新展開」を遺漏無く公示するものである。
 
契丹語動詞の活用語尾は、その意味と機能より、
1.終止形、2.形動詞形、3.副動詞形、4.命令・願望形
 の4種類に分類される(愛新覚羅烏拉煕春『契丹言語文字研究』2004・『契丹語諸形態の研究』2011a)。

 一、副動詞語尾-əl/-al/-ol。
 愛新覚羅烏拉煕春・吉本道雅『韓半島から眺めた契丹・女真』(2011b)下編第1章「韓国国立中央博物館所蔵契丹小字銅鏡」(p.127)に見える副動詞語尾-əl/-al/-olは、-lを共通形として副動詞語尾すなわち完了連用形をなし、①動作の連続性、②動作の因由性という文法的意味を示す。モンゴル語の中断接合副動詞語尾-ɢad/-gedと似たところがあり、すなわち「~してから」「~して、そして」という意味を示す。-əl/-al/-olは、述語動詞の過去時語尾と呼応することがよく見られる(愛新覚羅2011a)。

 語尾-olはもっぱら広円唇母音語幹に接尾される。この表音字について、かつて清(2010)は終止形と解読し、ɔiと発音するとした。呉英喆はそれを踏襲している。ところが、下の例から見ると、清・呉の推測は適切でないことがわかる。
       ʤi  juen   po-ol    suŋ oŋ-n  ir   təməlgəlir.
         知院  成ってから  宋王の 号  封ぜられた。
『耶魯碗迪魯古副使位誌碑銘』第2行の人名qomolは、『遼史』の国舅帳始祖「胡母里」の契丹語表記であり、それの三番目の表音字はまさにこのolにあたる。

 語尾-əlはもっぱら狭母音語幹に接尾される。この表音字について、かつて清(2010)は終止形と解読し、iiと発音するとした。呉英喆はそれを踏襲している。ところが、下の例から見ると、清・呉の推測は適切でないことがわかる。
qahan   min-d   os-əl    ~~~ guŋ-n   ir  təməlgəlir.  
   可汗が即位してから       公の  号 封ぜられた。


二、契丹語の動詞語尾にも「性」の区別が見られる(愛新覚羅烏拉煕春2004『契丹言語文字研究』pp.60-62。呉英喆2007はこの文法的事情のみならず例文をも盗用している)。
男性語尾:-ər        au odŭlhar huaŋ di ~~~~ordu-d  sa-ai  lior-ər.
                                         重煕皇帝は                 斡魯朶で おり 崩じた。
   女性語尾:-ən       suæn   ii  nəu’ə mə~~~~nadbudi   lior-ən.
                                           宣懿皇后は                   捺鉢にて崩じた。

   男性語尾:-bur      huaŋ  tai  ʃug  zu  ~~~~sumən  shad  sa-ai  tur-bur.
                                           皇太叔祖は          行宮で   おり 薨去した。
   女性語尾:-bun     soŋ ŋui gui oŋ-n pi~~~~turbun.
                                           宋魏国王の妃は       薨去した。

三、モンゴル語の動詞終止形語尾は連体修飾語にならない。しかし、契丹語の動詞語尾は終止形と連体修飾語ともに兼用される(愛新覚羅烏拉煕春2004『契丹言語文字研究』p.147,169)。

 四、契丹語の一部の動詞語尾の発音が、中期モンゴル語のそれと近似していることは、愛新覚羅烏拉煕春2004、2011aに指摘している(中期モンゴル語の形式は小沢重男1979『中世蒙古語諸形態の研究』による)。
  中世モンゴル語     契丹語
    形動詞語尾       -qu/-gu                      -qa/-gə
    副動詞語尾                  -ʤu/-ʧu                      -ʤi/-ʧi
    動詞語尾          -u/-i                         -i/-ui/-ai
(副動詞としての働きももつ)


五、人名に用いられる契丹語動詞語尾に見られる「性」の区別
  愛新覚羅烏拉煕春『契丹古俗妻連夫名与子連父名』(『立命館文学』602号,2007)において、契丹男子にかぎって、長男は父の「字」の語幹をとって名付けられるという習慣が古くからあったことを指摘した。父の「字」の語幹に接尾されるのは形動詞語尾または出実形容詞語尾の女性形-nであり、この語幹+女性語尾-nは同時に女子の「名」にも用いられる。契丹男子の「名」の語幹に接尾されるのは形動詞語尾または出実形容詞語尾の男性形-rである。それは女子に用いられない。詳細は
http://www.apu.ac.jp/~yoshim/B1.pdfを見よ。