はじめに



 非上場会社であっても、有価証券報告書の提出が必要となり、金融商品取引法監査を受けなければならない可能性があります。

 このサイトでは、思いもかけぬ事情から有価証券届出書や有価証券報告書を提出することとなり、金融商品取引法監査が義務付けられた会社を対象に、制度の解説をさせていただきます。





 <目次>

1.有価証券の募集または売出

2.開示書類について

3.金融商品取引法監査とは

4金融商品取引法監査が大変な理由

5. 違反した場合の罰則

6. 誰を監査人として選ぶべきか




1.有価証券の募集または売出

 金融商品取引法では非上場会社であっても、1億円以上の発行価額で「有価証券の募集」や、1億円以上の売出価額で「有価証券の売出」を行った会社は、有価証券報告書の提出が義務付けられています。(金商法2413号、415号、231号、金商法施行令1条の5)。

 では、具体的に「有価証券の募集」、「有価証券の売出」とはどのようなことをいうのでしょうか。ここでは、一般的なケースである株式の募集・売出を行うことを前提にわかりやすく解説していきます。
 

① 有価証券の募集

 金融商品取引法において、「有価証券の募集」とは、新たに発行される有価証券の取得の申込の勧誘であって、多数の者を相手方として行う場合として政令で定められている勧誘をいいます(金商法231号)。また、金商法施行令では、法231 に規定する多数の者を相手方として行う場合として政令で定める場合とは、50名以上の者を相手方として有価証券の取得勧誘を行う場合とすると規定されています(施行令1条の5)。

 言いかえれば、「有価証券の募集」とは、これから新規に株式を発行することを計画する場合において、50名以上の方を対象に、「株式を取得していただけませんか?」と勧誘することをいいます。

 なお、会社が所有する株式の処分は、有価証券の売出ではなく募集に該当します(金融商品取引法第2条に規定する定義に関する内閣府令91号)。 

② 有価証券の売出

 金融商品取引法において、「有価証券の売出」とは、既に発行された有価証券の売付の申込またはその買付の申込の勧誘であって、均一の条件で多数の者を相手方として行う場合として政令で定める場合と規定されています(金商法241号)。また、金商法施行令では、法241 に規定する多数の者を相手方として行う場合として政令で定める場合とは、50名以上の者を相手方として有価証券の取得勧誘を行う場合とすると規定されています(施行令1条の8)。

 言いかえれば、「有価証券の募集」とは、オーナー社長などが大量に保有している株式を第三者に譲渡する場合に、50名以上の方に対して「私たちが持っている株式を買いませんか?」と勧誘することをいいます。

 企業が、はじめて株式公開をする場合などは、社長などの創業者が保有している株式を売り出すことが多く、ほとんどが、金融商品取引法に規定されている「有価証券の売出」に相当します。


2.開示書類について

  有価証券届出書・有価証券報告書

 金融商品取引法では、50名以上の方を対象に1億円以上の「有価証券の募集」または「有価証券の売出」を行う場合、内閣総理大臣への届出が必要になるとされています(金商法415号)。具体的には、内閣府令で定めるところに従い「有価証券届出書」を作成して、内閣総理大臣に提出をする必要があります(金商法51項)。また、有価証券届出書の提出を行った会社は、事業年度経過後3ヶ月以内に「有価証券報告書」を作成して、内閣総理大臣に提出する必要があります(金商法2413号)。

 すなわち、3月決算の会社であれば、6月末日までに有価証券報告書を提出する必要があります。

 内閣総理大臣に提出された「有価証券届出書」「有価証券報告書」は、EDINETという電子開示システムを通して、誰でもインターネットで閲覧することができます。したがって、非上場企業であっても、1億円以上の「有価証券の募集」または「有価証券の売出」を行った会社は、EDINETを通して企業内容が日本全国に開示されることになり、株主以外の一般人であっても財務内容を閲覧できることになります。

(留意事項) 通算規定について

有価証券届出書は、50名以上の方を対象に1億円以上の「有価証券の募集」または「有価証券の売出」を行う場合に提出する必要が生じますが、複数回にわたって少数の方を対象に1億円未満の新株発行などを行った場合であっても、通算規定により、提出義務が生じるケースがあるので留意が必要です。

 具体的には、少数の方を対象に1億円未満の募集・売出を行った場合であっても、下記のようなケースに該当する場合は、通算規定により有価証券届出書を提出しなければならない可能性があります。

  • 50名未満への取得勧誘であっても、6ヶ月以内に発行された同一種類の有価証券の取得勧誘対象者が、6ヶ月間の通算等により50名以上となる場合には、有価証券届出書の提出が必要(施行令1条の6、開示府令243号)。 
  • 50名未満への売付け勧誘等であっても、1ヶ月以内に、同一種類の有価証券の売付勧誘等が行われており、相手方の人数の合計が50名以上となる場合には、有価証券届出書の提出が必要。(施行令1条の83、開示府令243号の2)。
  • 1億円未満の募集・売出し(50名以上に勧誘)であっても、1年間の通算等により同一の種類の有価証券の募集・売出価額の総額が1億円以上となる場合は、有価証券届出書の提出が必要(開示府令242号)。 

② 有価証券通知書

 金融商品取引法では、50名以上の方を対象に1千万円超、1億円未満の「有価証券の募集」または「有価証券の売出」を行う場合、有価証券通知書を内閣総理大臣に提出しなければならないとされています(金商法46項)。 

半期報告書

 金融商品取引法241項の規定により有価証券報告書を提出しなければならない会社(ただし、四半期報告書を提出する会社以外の会社)は、内閣府令で定めるところにより、事業年度ごとに、当該事業年度が開始した日以後の6か月間の財務状況などを記載した半期報告書を、当該期間経過後3ヶ月以内に、内閣総理大臣に提出しなければならないものとされています(金商法24条の51項)。
すなわち、3月決算の会社であるならば、9月末日で中間決算を行い、12月末日までに半期報告書を提出しなければなりません。

 なお、非上場会社については、四半期報告書ならびに内部統制報告書の提出義務はありません(金商法24条の44、施行令4条の2747)。

 

3.金融商品取引法監査とは

      法令根拠

 金融商品取引法193条の2では、上場会社のほか政令で定める者が、この法律で定めるところにより提出する、貸借対照表、損益計算書などの財務諸表について、公認会計士または監査法人の監査証明を受けなければならないものとされています。なお、政令で定める者については、施行令35条において、金融商品取引法41項の規定による届出をしようとしている者(=有価証券届出書を提出しようとしている者)、法241項各号に定める者(=有価証券報告書を提出しようとしている者)とされています。

 したがって、非上場会社であっても、有価証券報告書、有価証券届出書ならびに半期報告書を提出しなければならない会社は、これに記載されている財務諸表について、公認会計士または監査法人による監査証明を受ける必要があります。

     監査対象となる財務諸表

 金融商品取引法241項の規定により、有価証券報告書を提出しなければならない会社は、企業内容等の開示に関する内閣府令の第三号様式に定められている規定にしたがって、有価証券報告書を作成しなければなりません(企業内容等の開示に関する内閣府令15条)。

 具体的には、下記の財務諸表を作成する必要があります。 

(全社共通)

・貸借対照表
・損益計算書
・株主資本等変動計算書
・キャッシュ・フロー計算書(但し、連結財務諸表を作成している場合は省略可)
・附属明細表

(連結子会社がある企業)

・連結貸借対照表
・連結損益計算書
・連結株主資本等変動計算書
・連結キャッシュ・フロー計算書
・連結附属明細表

また、中間決算時においても同様の財務諸表を作成する必要があります。

 

4.金融商品取引法監査が大変な理由

 50名以上の方に対して1億円以上の有価証券の募集・売出を行うと、金融商品取引法の規定により有価証券届出書ならびに有価証券報告書の作成、さらには半期報告書を作成したうえで、内閣総理大臣(具体的には金融庁)に提出しなければならないことは、上記に記載したとおりになります。 
 ここでは、金融商品取引法で義務付けられている開示書類の提出や財務諸表監査は、数ある法定監査の中でも最もコストがかかり、社内経理担当者の負担も非常に大きくなるものとなる理由について解説していきます。 

(大変な理由1) 連結財務諸表を作成しなければならない

 持株比率が50%を超えるような子会社がある場合、有価証券報告書において連結財務諸表を作成する必要が生じます。連結財務諸表は、日商簿記検定1級の学習内容ではあるようですが、実務では複雑なグループ間取引が発生するケースも多々あり、上場企業などで相当の経理経験がない限り、作成することが難しいものです。

 有価証券報告書を提出する必要が生じた場合、まず連結財務諸表の作成にとまどう会社が非常に多いようです。

(大変な理由2) 中間決算をしなければならない。

 有価証券報告書を提出しなければならない会社は、半期報告書を提出しなければなりません。すなわち、中間決算を行う必要が生じます。中間決算は、本決算時と同水準の決算整理を行うことが当然に求められ、減価償却や引当金の計上なども行わなければなりません。そのうえ、半期報告書では株主に対して発送する招集通知に記載されている以上の内容を記載する必要があります。

 経理担当者の負担は相当なものとなる可能性があるのです。

(大変な理由3) キャッシュ・フロー計算書をしなければならない。

 有価証券報告書を提出しなければならない会社は、キャッシュ・フロー計算書を作成しなければなりません。また、連結子会社を抱えている企業においては、連結キャッシュ・フロー計算書を作成する必要があります。連結キャッシュ・フロー計算書を作成するためには、連結子会社から詳細な財務情報などを入手する必要があり、子会社数によってはその工数が相当なものとなります。

 連結実務に携わったことのない方が、連結キャッシュ・フロー計算書を作成するのは、まず不可能であるといえるでしょう。

(大変な理由4) 難解な会計基準の理解が必要

 有価証券報告書には、さまざまな注記情報を記載する必要があります。金融商品取引法で開示が求められる注記情報は、会社法で要求されるものよりもボリュームがあり、税理士も知らないような難解な会計基準の理解が必要になります。

 金融商品取引法に基づく財務諸表の作成は、一般の税理士クラスの人材では到底不可能であり、上場会社などにおいて実務経験がある担当者や、公認会計士資格を有する者でないと対応が難しくなります。

(大変な理由5) 開示実務経験者でない限り有価証券報告書の作成は不可能

 EDINETを閲覧すればわかりますが、「有価証券届出書」ならびに「有価証券報告書」は、「企業内容等の開示に関する内閣府令」にしたがって作成しなければならず、場合によっては100ページ以上にもなる相当にボリュームのある開示書類になります。

 有報の作成に関しては、相当な経理経験があり、かつ上場企業などで開示実務に携わった方ではないと、まず困難です。このような経験ある実務担当者を雇用する場合、人件費もかさむことになりコスト的に相当な負担になる可能性があります。かといって、開示実務に通じていない素人の業務担当者が有価証券報告書を作成した場合、内容に虚偽の記載があった場合には、課徴金を納付しなければならない可能性があるため、自社内での対応は非常に危険であるといえます(詳細はこちら)。

(大変な理由6) 多額な監査コストの発生

こちらでも記載しておりますが、有価証券届出書ならびに有価証券報告書を提出した会社は、貸借対照表、損益計算書その他財務計算に関する書類について、その者と特別の利害関係のない公認会計士又は監査法人の監査証明を受けなければなりません。

 しかし、監査法人に対しては相当の監査報酬を支払う必要が生じ、大手監査法人になると1千万円以上の報酬が請求されることもめずらしくありません。有価証券報告書の「コーポレートガバナンスの状況」の中では、非上場会社が監査人に支払っている報酬額が記載されていますが、個人の会計士であっても最低500万円程度、規模の大きな会社になると1億円以上の監査報酬が支払われているケースもあります。 


 弊事務所ならびに弊所代表が役員を務める関係会社では、有価証券届出書や有価証券報告書を作成しなければならなくなった会社を対象に、「開示書類作成サービス」を行っております。人材紹介会社などを通して従業員を雇用するよりも、専門家である公認会計士に作成を依頼するほうが、社会保険料などの負担を考えるとコスト的にも有利になると思われます。

 開示書類作成に関するお問い合わせ・お見積りについては、こちらにご連絡ください。

 

5.違反した場合の罰則

 金融商品取引法172条の31項においては、法241項または3項の規定に違反して、有価証券報告書を提出しない発行者があるときは、内閣総理大臣は、次節に定める手続に従い、当該発行者に対し、これらの規定により提出すべきであつた有価証券報告書に係る事業年度に規定する事業年度の直前事業年度における監査報酬額に相当する額(監査証明を受けるべき直前事業年度がない場合又はこれに準ずるものとして内閣府令で定める場合には、400万円)の課徴金を国庫に納付することを命じなければならないと規定されています。

 また、法172条の32項においては、法24条の51項の規定に違反して、半期報告書を提出しない発行者があるときは、内閣総理大臣は、次節に定める手続に従い、当該発行者に対し、これらの規定により提出すべきであつた四半期・半期報告書に係る期間の属する事業年度の直前事業年度における監査報酬額の2分の1に相当する額(監査証明を受けるべき直前事業年度がない場合又はこれに準ずるものとして内閣府令で定める場合には、200万円)の課徴金を国庫に納付することを命じなければならないと規定されています。

 したがって、半期報告書ならびに有価証券報告書を提出しなければならない会社において、これを提出しなかった場合には、1年間で600万円の課徴金が課されるリスクがあります。また、資本金が5億円以上あるような会社法上の大会社である場合は、株主総会において、公認会計士または監査法人を会計監査人として選任しなければならず、これを懈怠した場合には100万円以下の過料が科されることになっています(会社法97622号)。

 金融商品取引法の規定に違反して有価証券報告書を提出せず、公認会計士または監査法人による監査を受けない場合には、最低でも総額700万円の課徴金・過料が科される可能性があります。このような法的リスクがあることを、資本調達を行う際には強く認識すべきであると思われます。


6.誰を監査人として選ぶべきか

 財務諸表を監査する会計監査人は、監査法人が就任するケースと、個人の公認会計士が就任するケースがあります。
 会社規模や取引規模などに応じて、どちらに監査を依頼すべきであるかどうかは慎重な判断を行う必要があるでしょう。 

A) 監査法人に監査業務を依頼するほうが望ましいケース 

①事業を海外に展開しているグローバル企業

 海外に重要な連結子会社などがある場合には、外国語による対応や現地の税法などに通じた公認会計士に業務を依頼する必要があります。このようなケースにおいては、海外の会計事務所をネットワークに持つ監査法人に業務を依頼するほうが効率的です。 

②売上高1000億円以上の会社

 売上高300億円未満の会社では、個人の公認会計士が監査業務を行っていることもめずらしくありませんが、売上高1000億円を超える会社では個人レベルの対応が難しくなります。
取引規模が大きい会社については、監査法人に業務を依頼すべきであったといえるでしょう。
 

③監査意見にブランドを求める会社

 財務諸表監査が適切に行われている限り、誰が監査証明を行ったとしても、監査業務の質に何ら変わりはないのですが、メインバンクや投資家サイドの意向で、大手監査法人による監査証明が求められるケースも多々あります。 

B) 個人会計士などに監査業務を依頼するほうが望ましいケース 

①単一事業を行うビジネスモデルが比較的シンプルな会社

 単一事業を行い、本業以外の事業投資などをあまり行っていない会社は、貸借対照表の勘定科目も少数になり、監査手続も省力化されます。このような場合では、組織的な監査対応が必ずしも求められないと考えられるため、機動的な意思決定が可能になる個人の公認会計士の監査を依頼すべきであると判断されます。 

②国内を中心に事業展開をしている売上高が100億円未満の会社

 一般に、売上高が100億円未満の会社では、個人の公認会計士でも監査対応は可能です。また、売上高が100億円以上であっても、個人の公認会計士が金融商品取引法監査を行っている事例も多数ございます。この場合、個人事務所を開業している複数の公認会計士によるチーム編成で、監査業務を行うことが多いようです。
 しかし、このようなケースであっても、個人事務所では事務所賃借料や人件費などの負担が少ないため、一般的に監査法人よりも報酬提示額が低いことが多く、コスト面を考えた場合には個人の公認会計士に業務を依頼するほうが得策であるといえるでしょう。
 

③会社法上の大会社に該当しない会社

 資本金が5億円未満の会社は、株主総会などで会計監査人を選任する必要がなく、登記簿上などで誰が監査をしているのかは明らかにされません。また、このような会社は、比較的小規模であることが多いため、個人の公認会計士に業務を依頼するほうが迅速かつ柔軟な対応が受けられるでしょう。


(最後に)

弊事務所においては、非上場会社の金融商品取引法監査に対応しております。

 会社の取引規模によっては、上記過料以下の金額で監査対応が可能なケースもございますので、報酬の御見積りについてはお気軽にご相談ください。

 非上場会社の金融商品取引法監査に関するお問い合わせ・お見積りについては、こちらにご連絡ください。


 

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