カタツムリの交尾

カタツムリには多くの種類があり、日本には800種を超えるカタツムリがいると考えられています。

カタツムリには雌雄同体・雌雄異体の2つのグループがあります。雌雄同体の種類の一部では、交尾の際ダート・シューティングと呼ばれる奇妙な行動をします。ここでは、そのダート・シューティングについて紹介していきます。(どんなカタツムリにも当てはまる内容ばかりではありません。)

予備知識として巻き方についてですが、カタツムリには右巻きのものと左巻きのものがいます(Fig. 1)。殻の口が見えるようにした時、口が右に来るものが右巻きです。そして生殖器につながる生殖口は、右巻きのものは体の右側にあります。ですので、交尾の際にはお互いに体の右側を近づけます。海外で
見かける機会がある、頬どうしを触れ合わせる挨拶、そのような形で密着することになります(Fig. 2)。

Fig. 1(殻の巻き方)


Fig. 2(交尾中の姿勢)


ではダート・シューティングとはどのようなものかというと
交尾の時に、ラブダート(Love dart、
恋矢:レンシという別名もある)と呼ばれる硬い槍状のもの(Fig. 3)をパートナーにグサッっと刺す、という行動です。雌雄同体ですから、体内にオスの部分とメスの部分が存在します。1回の交尾で、お互いにダートを刺しあい、そしてお互いにオス生殖器を挿入しあいます(Fig. 4)。

Fig. 3(ダートを出している

体から飛び出してる白い棒みたいなのがダートです。この種類は左巻きで、体の左側にある生殖口から飛び出てます。この種類では、前回の交尾で使用したダートをいずれ排出してしまいます。これはちょうどその時の写真です。

Fig. 4(交尾中)

実際は密着してますので、正にダートで刺しているところには気付きにくいです。手前側の白いのがダートであり、けっこう大きなものが刺さるということが判ると思います。そして奥側の灰色の管がオス生殖器です。よく見ると2本あって、互いに挿入しています。いずれ左側のカタツムリはダートを体内に戻します。



この種類での交尾のステップとしては
(1)求愛行動、ボディタッチを頻繁にします。 (2)ダート・シューティング開始。ほぼ同時にオス生殖器の挿入開始。 (3)ダート・シューティング終了。 (4)精包(精子が詰まった袋)をパートナーに渡す。 (5)オス生殖器の挿入終了。
というものです。

(3)以降もオス生殖器の挿入は続きます、というか時間としては(4)以降がメインです。ダート・シューティング後、10時間以上挿入してる、なんて種類もいます。

判りやすい動画をいくつか紹介します。
・求愛
相手の体を舐める。自分の体、特に生殖口(生殖器の入口)を相手の体にこすりつける。以上のような行動が典型的な要素です。
リンク

ダート・シューティング
リンク1
これは共同研究者の方が発表した論文中の動画です。この種類ですと、ガラス上で交尾をさせたところを裏から見ることでなんとか判るものなのです。

リンク2
ナショナルジオグラフィックで紹介していただいた記事+動画です。
体に比べて大きなダートを持つ種で、交尾相手の体を貫いてしまう、激しいダート・シューティングだと言えます。




さて
ダートで刺す、というだけでも奇妙な感じだと思われますが、このダートには様々な形のものがあることが知られています。ある種類はシンプルな円錐状のダートを持っています。なので断面は円形になります。しかしある種類では、断面が手裏剣みたいな形をしたダートを持っています(Fig. 5)。ダートの全体像・断面にいろんなタイプがあることが判ると思います。


Fig. 5(ダートの全体像と断面図、Koene & Schulenburg 2005より引用)



では、何故カタツムリはこのような行動をするのでしょうか。

18世紀半ば、その理由に言及した最初の人物がいました。「ダートを刺すことによって相手を刺激し興奮させる、そして自身との交尾を促している。」、その人物はそのように考えました。そしてそのことを、ギリシャ神話に現れる神エロスが矢で他の神を射抜き、恋に落とすことになぞらえて表現したのです。実際に、偶然昔の人がカタツムリの矢を見たことが神話に影響した可能性もあるのかも知れません。しかし、残念ながら、カタツムリが神エロスと同様の力を備えているというこの説は現在では否定されています。

代わって、「ダートを刺すことによって相手を操作し、自身の子どもを産むように仕向けている」という説が有力視されています。

ダートにはある特別な粘液が付着しており、刺すことによって相手の体内にその粘液が送り込まれることが明らかにされました。そして、その粘液は相手の体内で作用して、渡した精子をより多く受精に使わせているようなのです。実は、カタツムリの中には交尾の後でせっかく受け取った精子をほとんど消化してしまうものがいます。精子を渡した方としたらたまったものではありません。そこでダートで粘液を送り込み、渡した精子の消化を妨害しているようなのです。結果として消化されずに生き残る精子が増えるのに伴い、受精の可能性が増えたと考えられます。

このようなことが起こる背景として、精子と卵との間で生産するためのコストが異なることが重要だと言えます。卵には栄養がたくさん含まれています。ですので生産するコストは大きいです。一方、精子は栄養なんてほとんど含まれていませんので大量に作ることが可能です。つまり、雌雄同体ではあるものの、自身の精子をどんどん渡してどんどん使ってもらった方が多数の子供を残せます。しかしこのことは相手にも同様だと言えますから、渡した精子を素直に利用してくれず消化してしまう種類が多いと考えられます。

更に、私たちの研究によって、
ダート・シューティングによる相手の操作は精子消化の妨害にとどまらないことが明らかになりました。送り込んだ粘液は、相手の性欲を減退させるようなのです。そうすることで、相手が再度交尾して自分以外のカタツムリから精子を受け取るのを阻止しているのです。
つまり少なくとも、精子消化妨害と性欲減退という2つの効果を介して、自身の精子の受精成功率を高めていると考えられます。

ダートに刺されることによりできた傷は病気への感染率を高めたり、大きな傷の場合は死に繋がる場合もあると考えられています。しかし、相手が被るコストなどお構いなしに、カタツムリたちは、自身の子供を産ませるべくダートを撃ち込んでいるのしょう。



ただし、この説が
有力視されてはいますが、本当にダートを刺すことで相手を操作しているのかどうかを証明するためには、まだ調べなければならないことがあります。そして現在、私はこの説を確かめるべく研究を進めています。

つづく

(last update: 13 Mar 2015)


















<おまけ>
研究室で詩的な人物だと評判だった先輩が、ダート・シューティングを表現してくれてるのでそちらもどうぞ。












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