建物の壁、車両、柱、曲がり角などにより、カメラやLiDARから直接見えない死角領域(いわゆるNLOSエリア)が生じます。死角から接近する歩行者や人体の動きを早期に検出できれば、車両安全、移動ロボット、監視、見守りなどの分野で有用です。
本研究では、マイクロ波、または準ミリ波のレーダーを用いて、死角領域に存在する人体や歩行者の動きを検出するための基礎的な実験研究に取り組んでいます。特に、電波の回折、反射、マルチパス伝搬により得られる微弱な情報と、人体運動に由来するドップラー・マイクロドップラー特徴を利用し、光学センサでは直接観測しにくい領域の人体動作を捉えることを目指しています。
自動車や移動ロボットでは、センサから見えないNLOS(Non-Line-Of-Sight)領域に存在する歩行者や障害物の検出が重要です。駐車車両の陰、建物の角、壁の向こう側、交差点付近などでは、歩行者が突然現れることで事故リスクが高まります。カメラやLiDARは、視線が遮られると観測が困難になります。一方、レーダーで用いられる電波は、環境によっては回折、反射、散乱、マルチパス伝搬により、直接見通しのない対象に関する情報を含む場合があります。この性質を利用すれば、完全な透視ではなくても、死角領域にいる人体の存在や接近傾向を検出できる可能性があります。この研究テーマでは、単なる人体検出だけでなく、死角からの接近、通過、飛び出しのように、安全性に関わる動作の違いをレーダー信号から識別することが重要になります。
本研究では、死角領域に存在する人体や歩行者をレーダーで検出し、その動作の違いを分類するための基礎技術を検討しています。主な対象は、以下のような課題です。
・壁や車両により遮蔽されたNLOSエリアの歩行者検出
・死角から接近する人体の運動検出
・飛び出しリスクに関係する動作の分類
・マイクロドップラー特徴を用いた人体運動の識別
・屋内環境と屋外環境における死角検出実験
・回折、反射、マルチパスを含むレーダー観測の解析
・車両安全システムや移動ロボットへの応用
これまでに、屋外では車両により形成される死角、屋内では壁により形成される死角を対象として、歩行者の検出や動作分類に関する実験を行ってきました。比較的周波数の低い24GHz帯レーダーで得られるドップラー情報やマイクロドップラー特徴を利用し、死角領域にいる歩行者の存在だけでなく、飛び出しリスクに関係する動作の違いを分類する手法を検討しています。また、Wi-Fi及びBLEとの共用を想定した2.4GHz帯のレーダ利用についても検討しており、飛び出しリスク検出程度であれば可能であることも示しています。
この一連の研究は、レーダーによる死角領域の人体モニタリングに関する初期の実験的検討として位置づけられます。特に、マイクロドップラーレーダーを用いて、死角領域にいる歩行者の動きや飛び出しリスクを屋内・屋外の実環境に近い条件で検証した点に特徴があります。光学センサでは直接観測できない領域であっても、回折波、反射波、マルチパス成分に含まれる情報を利用することで、死角領域の人体検出や安全支援に応用できる可能性があります。今後は、より実環境に近い条件での検証、FMCWレーダーやMIMOレーダーによる距離・方位情報の利用、及びISAC(Integrated Sensing and Communication)によるWifiの2.4GHz帯及び5GHz帯のレーダ利用や、UWBレーダなどさらに低い周波数帯の検討などが課題となります。
Sora Hayashi, Kenshi Saho, Daiki Isobe, and Masao Masugi, “Pedestrian Detection in Blind Area and Motion Classification Based on Rush-Out Risk Using Micro-Doppler Radar,” Sensors, 2021.
Sora Hayashi, Kenshi Saho, Hiroaki Okinaka, Lin Meng, and Masao Masugi, “Detection and Classification of Human Motion in Blind Area Using Micro-Doppler Radar: Fundamental Experiments Toward the Prediction of Dash-out from Blind Area,” ICAMechS, 2019. 概要:24GHz帯のマイクロドップラーレーダーによる死角領域の人体動作検出と分類に関する基礎実験。後続の Sensors 論文につながる初期検討として位置づけられる .
Ryosuke Iida, Kazuhide Kamiya, Xiangbo Kong, and Kenshi Saho, “Classification of Rush-Out Risk of Pedestrians in Blind Area Using 24 GHz FMCW Radar,” ATAIT, 2023.
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