「君には役不足ですまないが、このプロジェクトのチーフとしてやってくれないかね。この企画に我が社の命運がかかってるんだよ」などと言う。 このように部下をおだてて使おうとするときなどに「役不足」という言葉を使ったりする。 間違っても「本当に役不足ですねえ」などと言ってはいけない。なぜなら、上司にすれば適材適所で人員配置をしているのであって、本当は「役不足」どころか「適役・適任」であり、実際には「大抜擢」であるかもしれないのだ。 要するにおだてられているのである。 ところで、この「役不足」という言葉だが、あるラジオ番組によると、「最近、役不足の意味を間違えている人が多い」そうだ。アシスタントも「私には役不足ですが・・・と言いそうだ」とコメント。 変だ。どうして意味を間違えるのか。今は見かけなくなった「天地無用」などという言葉なら無用の誤解を受けても無理はないといえるが、「役不足」の意味は取り違えようがないではないか。 そのまま「役」が「不足」と読めば意味が通じる。間違えるはずはなかろう。念のため「役不足」でググってみると、 あるわあるわ。誤用の例だとか、誤用を正す記事だとか。こんなに話題になっているとは。なかには「ほとんどの日本人が誤用している」という記事も。「ほとんどの」とどうして言えるのかはアヤシイが、とにかく誤用が多いらしい。 そんなこととはつゆ知らず、私は過去のブログで「役不足」を何度も使用してしまった。 ひょっとすると記事の内容自体を誤解されているかもしれないということか。なんとも認識不足だった。 ▼[鶏をさくになんぞ牛刀を用いんや] ▼[牛鼎烹鶏:荘子が招聘を固辞した故事] 蛇足だが、口が裂けても「俺には役不足だ」などと言うものではない。どんな大人物でもそんな大それたことは言わないのだから。 あの太閤秀吉さんでさえ、織田家に仕えはじめた当初の役目は「草履取り」であった。大いに「役不足」のはずであるが、彼は一切不平を言わず、草履取りを誠心誠意つとめあげ、のちの大出世へとつながっていく。天下人(てんかびと)でさえ「役不足」などと言わなかったのに、我々凡人が「私には役不足」などとは言えるはずもないのです。 ちなみに「役不足」の「役」とは、「役割」の「役」に近く、江戸時代でも「役(やく)」といえば、家に割り当てられた「お役目」であったり、村に割り付けられた年貢であったりと、それぞれに割り当てられた「役目」のことをいった。 ネット上の辞書の解釈は、 ①力量に比べて、役目が不相応に軽いこと。 これはいいでしょう。 ②俳優など(役者)などが割り当てられた役に不満を抱くこと。 というのはいけない。 「不満をいだくこと」というのもどうかと思うが、「役」と「役者」を結びつけたのは限定的すぎる。現在では「役(やく)」という言葉から連想されるのは「役者」くらいしかないということか。 「役不足」とは、「俳優の配役(キャスティング)」が不当に軽いということではなく、課せられた「役(やく)」(お役目・役割・ポスト)が軽すぎるということである。 [漢字家族--漢字の語源・ワードアミリー] [漢字漢字漢字-漢字に関する書籍・漢字の本] |