「敗軍之將,不可以言勇」(敗軍の将は、以って勇を言うべからず) 選挙戦などで惨敗したりすると、その党の幹事長などが「敗軍の将は兵を語らずだ」などと言ったりした。「兵を語らず」などと言うと、なんだかかっこよく聞こえるし、言い訳もしなくてすみ便利なのは確かだが、下の 『淮陰侯列傳』 からの引用を見ていただければおわかりのとおり、本当は「勇を言うべからず」 というのが正しい。 選挙戦であれ、野球のペナントレースであれ、あとで実戦を振り返って、敗因を分析するのはよいことであって、「兵を語る」のはむしろ奨励されるべきだろう。
漢の将軍韓信が、「背水の陣」を布いて趙の国を破った時に、「広武君は殺すなと命じて、千金の懸賞をかけて生け捕りにした」ということは、前回の「背水之陣2(背水の陣/絶対に用いてはならない戦術)」で述べたとおり。広武君は名高い兵法家であった。 韓信は、広武君を先生として尊び、今後の軍略を尋ねた。 「私は、これから北方の燕を攻(せ)め、東の斉を討伐しようと思います。どのようにすれば成功しますか?」 その返事が、上の「不可以言勇」(以って勇を語るべからず)。 注意点は、「べからず」。これは「勇を言ってはいけない」ということではなく、「言えない」という意味。敗戦によって捕虜となった身で、今後の軍略を語るほど図々しくないということである。 蛇足になるが、漢文の「可~・不可~」は「~べし・~べからず」と訓読するが、その意味は、 ※状態を考えたうえ、「これならできる・これではできない」と認定する表現である。(または、状態をよく見定めたうえ、「これならよい・これならだめだ」と認定する表現) 論語の「民可使由之、不可使知之」(民はこれに由らしむべし。これを知らしむべからず)- の「知らしむべからず」というのも、「知らせてはならない」という意味ではなく、「知らせること(理解させること)はできない」という意味である。 →「儒家と墨家 - 漢字家族」を参照! [漢字家族・漢字の語源&ワードファミリー解説] [漢字漢字漢字-漢字に関する書籍・漢字の本] |