ボードゲームのルール解釈と英語の定冠詞の話(髑髏と薔薇より)

2011/05/22 18:51 に Jun Shin が投稿   [ 2011/06/02 16:20 に更新しました ]
傑作ブラフゲーム「髑髏と薔薇」のルール解釈について、英語的なネタとして面白い話があったので、ちょっと書いて見ます。 

事の発端は、こちらでした。
※P.5の「4.判定」の項で、
「・チャレンジャーは、必ず自分のマットの上のカードを最初に表向きにする」
とありますが、表向きにするのはすべてのカードです。
『オレはドクロを出していないぜ!』アピールですな。
2枚あるときに1枚を宣言してのチャレンジでも、すべて見せること!
ドクロを出したものは死を免れないのです!
ホビージャパンゲームブログ » ホビージャパンゲームBlog » 「世界の七不思議(7Wonders)体験会とレジスタンス先行体験会」報告
髑髏と薔薇の日本での販売元であるホビージャパンさんのブログにて、上記のような報告があったのです。 

しかし私は以前、髑髏と薔薇のルールについて英語の情報をあたって(公式サイトの英語ルールも含めて)調べたことがあって、その際には「チャレンジャーが、自分のマットを全て公開する」とは書かれていなかったと記憶していたのです。そもそも、1枚と宣言しているのにどうして2枚めくらなくてはならないのか、という矛盾があります。 

 公式サイトの英語ルールでは、次のように書かれています。
The challenger must reveal the number of cards from his or her bet while following these rules:
- The challenger starts by revealing the cards from his or her own mat.
- On the mats, the cards are revealed in order, starting from the top.
- The challenger is never forced to reveal all the cards placed on the mats of other players.
- The cards are revealed one at a time.
www.skull-and-roses.com/pdf/Skull_rules_Us.pdf
日本語に直訳するとこうなります。
挑戦者は、彼/彼女が賭けたカードの枚数を、以下のルールに従ってめくらなくてはいけません。
- 挑戦者は、彼/彼女のマット上のカードをめくることから始めます。
- マット上のカードは、上から初め、順番にめくられます。
- 挑戦者は、他のプレイヤー達のマット上に置かれた全てのカードをめくる必要はありません。
- カードは一枚ずつめくられます。
さて、ここで日本語になって失われた情報があります。それは、英語の定冠詞「the」と「複数形」です。 これが失われたおかげで、この直訳文は非常に曖昧な、下手をすると原文の意味と異なる意味にすらなっている箇所がいくつかあります。 

一つ一つ見ていきましょう。
The challenger must reveal (1)the number of cards from his or her bet while following these rules:
この(1)の「the number of cards」は、まず「cards」と複数形ですから、1枚ではなく何枚かのカードを示しています(1枚も含みます)。その枚数(number)に「the」がついていますから、「あの枚数」です。「あの」とは何でしょうか? 

英語における定冠詞「the」は、よく「唯一のものにつける冠詞」などと簡単に説明されていますが、実際にはもう少し複雑で、「話者が、読者にとって既に唯一だということが自明であると思っている事柄」についてtheがつきます。文脈上、「あれ」で通じると話者が考えているもので、それが唯一であればtheになるのです。

例えば、 

 I have the card. 

と言った時、この文章だけだと、「私は(たった1枚の)唯一のカードを持っています」という意味になります。 ただ、上記で書いた通り、theを使うには、聞き手にとってもそれが唯一でなければなりません。これだけでは説明不足なのです。 

もし本当に、「私は1枚しかカードを持っていないのだよ」と言いたいのなら、 

 I have just one card. 

 のように言うべきでしょう。しかし the card と言うのなら、そこに何か意図があるはずです。

 もしここで、このような会話だったとしたらどうでしょうか。 

A: Have you heard of the promo card? I really want it! 
 (あのプロモカードの話、聞いた? めっちゃ欲しい!) 
B: I have the card.
  (そのカード持ってるよ) 

これなら the card が指すものははっきりしています。「あのプロモカード」です。 
そしてもちろんこれは、B氏がカードを1枚しか持っていない、ということは意味しません。「あのプロモカード」を持っているという意味で the を使っているのであり、それ以外のカードを何枚持っているかという話はここではしていません。(ちなみに、ここで本来は I have a copy of the card. のように copy を使ったほうがそれっぽいという話は置いといてください(^^; ) 

このように、the が使われた場合には、「それが何を指しているのか」を注意して見る必要があります。英語圏の人間はごく普通に the を使うことに慣れきっていますが、日本人はそうではないので、特に見落としがちです。 

 翻って、元の文章です。
The challenger must reveal (1)the number of cards from his or her bet while following these rules:
ここで the number of cards は、「the」がついていますから、文脈上、それ以前に筆者と読者の間で共通認識となった何らかを示しているはずです。これは(この記事では引用していませんが)その直前の章「チャレンジ」で出てくる「宣言したカードの枚数」以外には考えられません。ただ、著者も念のため、その後で「from his or her bet(彼/彼女の賭けより)」と、より明確になるようにthe number of cards の意味を補足しています。 

 次はこちらです。
- The challenger starts by revealing (2)the cards from his or her own mat.
この (2)the cards は、どの「(複数の)カード」のことを表しているのでしょうか。 
the cardsと言っている以上、これは「既に共通認識となっているあの(複数の)カード」のことを表すはずです。 もっとも最近でてきた、the cardsとは・・・。そう、(1)のthe number of cards、つまり「宣言したカード」のことを表すと考えるのが自然ではないでしょうか。 

ここで、「その the は、その直後の "own mat"上のカードの束を表しているだけなのではないか?」という意見もあるかもしれません。確かに、自分のマット上にあるカード束は、1つだけです。しかし、own mat という言葉は the cards の後ろです。the cards が出てくる時点では、まだ own mat という言葉は「未知の」情報です。既知ではないものに対して the を使うのは、聞き手が混乱してしまいます。theは日本語では「あの」とか「その」と訳すと意味が分かりやすくなることが多いので、ためしに「the」を「その」と訳してみましょう。
- その挑戦者は、その(複数の)カードを彼/彼女のマット上からめくることから始めます。
敢えて語順を英語の語順に近い形で再構成しました。「その挑戦者」これは分かりますね。しかし、いきなり「その(複数の)カードを」と言われても、戸惑いませんか? いくらその直後に「彼のマット上から」と言われても、「"その"ってなんやねん」とならないでしょうか。 

しかし、その前に既に「the number of cards」という言葉が使われており、これは「宣言したカード枚数」を表しているわけですから、「その(複数の)カード」は、「宣言した枚数のカード」だろうと推測をつけることが可能です。 

ということは、この文章は、「挑戦者は、宣言した枚数のカードを自分のマット上からめくることから始めます」となります。こうすると、意味は非常に明確になります。 

まず、よくある質問である「2と宣言して、自分のマット上に2枚あった場合に、1枚だけめくって、残りを他のプレイヤーの山からめくるのはOK?」というのは、間違いであることがはっきりします。「宣言した枚数のカードを自分のマットからめくる」と書かれているのですから明白です。 

また、今回の問題点である「1と宣言して、自分のマット上に2枚あった場合に、1枚だけめくって薔薇が出ればそこでOKにできる?」は、その通りであると答えることができます。めくるのは「宣言した枚数のカード」ですから、それでまったく問題ないはずです。 

 この点は、次の行でも明確になっています。
- On the mats, (3)the cards are revealed in order, starting from the top.
この(3)the cards が意味するのは、文脈が続いているわけですから、同じ「宣言した枚数のカード」です。宣言した枚数のカードは、一番上から順番にめくらないとダメですよ、と言っているわけです。 もし、「自分のマット上のカードは宣言枚数に関係なく、全部めくらないとダメ」ならば、このルールの意味がありません。(他のプレイヤーのマット上のカードの話をしているんだ、という人もいるかもしれませんが、もちろんその意味も含むとして、今は文脈上、自分のマット上のカードの話の直後なわけですから、もし直前の話が「全部めくる」だった場合、やはり混乱してしまうでしょう。) 

 ついでに、その次の行についても書いておきましょう。
- The challenger is never forced to reveal (4)all the cards placed on the mats of other players.
この(4)all the cardsは、なぜ all cards ではなく all the cards なのでしょうか。もしこれが all cards だった場合、「cards」がいったい何の(複数の)カードをを意味するかはその後の補足に委ねられます。すると、そのあとに「placed on the mats of others players」とあるので、「他のプレイヤーのマット上にあるカード」を意味することになってしまいます。 

「挑戦者は、他のプレイヤーのマット上にある全てのカードをめくる必要はない」では、意味が分かりません。というかそれは当たり前です。宣言した枚数以上めくれとは誰も言ってないわけですから、全てのカードをめくらなくてはならない、なんて誰も考えていないはずで、ここでそれを説明する意味がありません。 

しかし、all cardsではなくall THE cardsです。the cardsは、これまで出てきたとおり、「宣言した枚数のカード」です。つまりこれは、「挑戦者は、全ての宣言した枚数のカードを、ある特定のプレイヤーのマット上から全てめくる必要はない」という意味なのです。つまり、宣言した枚数になるまで、いろんなプレイヤーのマット上から1枚ずつめくっていけばいいよ、という事です。 

ここで注目したいのは、「placed on the mats of other players」の the mats です。「あの(複数の)マット」です。複数のマットとは、他のプレイヤー達のマットの事でしょうが、なぜそれに「the」がついているのでしょうか。それは、ここで言う「マット上のカード」が、「複数のマット上の」ではなく「誰か一人のマット上の」という意味だからでしょう。しかし、実のところ、theを付けたところでこれが「誰か一人のマット上の」という意味には、ならないように思います。不思議に思って、フランス語原文を読んで見たところ、そこでは次のようになっていました。
Le challenger n’est jamais obligé de révéler toutes les cartes posées sur le tapis des autres joueurs.
www.skull-and-roses.com/pdf/Skull_rules_Fr.pdf
下線部分の「le tapis」に注目です。tapisはマットの意味ですが、ついている定冠詞「le」は、「単数形」につけられる定冠詞です。複数形につけられる定冠詞は「les」です(実際、その前に出てくる cartes には les がつけられています)。フランス語では、定冠詞にも単数形と複数形があるんですね(英語ではtheだけ)。フランス語は全然知らなくて今回初めて知ったのですが、面白いです。 

これは、フランス語から英語へ翻訳するときに起きた、「意図の脱落」なのでしょうか。それとも、この文脈でthe matsと言えば、英語圏の人間でも「ああ、1つのマットのことなんだな」と分かるのでしょうか。もしくは単なる誤訳なのでしょうか。よく分かりませんが、フランス語のルールのほうを読めば意図は明確になりました。ルールの解釈一つとっても、結局ルールを書いた人の母国語まで辿らなくては明確にならないとは、ボードゲームを遊ぶのも一筋縄ではいかないです。 

いつもルール和訳をしてくださる方々のご苦労が垣間見えたような気がしました。 

というわけで、結論なのですが、@nemmy 氏より以下の情報を頂きました。
@jun1s さんの「自分が置いたタイル数よりも少ないビッドが通った場合、ビッドした枚数だけオープンする」という解釈で合っているみたいです。公式サイトに補足説明がありました。:Cas particulier | Skull & Roses http://bit.ly/k1FgxU
フランス語を英語に機械翻訳して読んで見たところ、間違いなく、「自分のマット上に2枚あって、1枚宣言した上で薔薇をめくったら、彼のチャレンジは成功」、と書かれています。つまりホビージャパンの公式ブログに書かれていたことはやはり間違いだった、ということで、めでたし、めでたし(?)。 

ところで今回、いろんな方から「全部めくるで合ってると思うよ!」という指摘をtwitter上で頂きまして、なんか変だなと思ってはいたんですが、どうやら皆さん、私が「3枚宣言して、自分のマットに2枚以上あった場合に、自分の山から1枚だけめくって後は他のプレイヤーの山からめくる」という解釈をしていると思われていたようで、混乱させて申し訳ありませんでした。既に返信した通り、「自分の宣言枚数が、自分のマット上の枚数より少なかった場合」の話でした。

twitterでこの手の込み入った話をすると、どうしても細切れで情報が伝わるので、こうした誤解が避けられませんね・・・最初からブログのようなメディアを使ってまとめるべきでした。

最後に、4章のルール部分を適切な日本語で再度まとめます。

挑戦者は、自分が宣言した枚数のカードを、以下のルールに従ってめくらなくてはいけません。 
- 挑戦者は、宣言した枚数分のカードを、まず自分のマット上のカードからその枚数分めくります(宣言した枚数まではめくり続けなければなりません。足りない分は他のプレイヤーの山からめくります)。 
- マット上のカードは、一番上から順番にめくられます。山の途中からめくることはできません。 
- 挑戦者は、他のプレイヤーのマット上のカードについては、同じプレイヤーからめくり続ける必要はなく、1枚ずつ好きなプレイヤーのマットを選んでめくることができます。 
- カードは一枚ずつめくられます。例え全員のプレイヤーのカードをめくると決めた場合でも、一斉にオープンしてはいけません。途中で髑髏が出た場合、他のカードの内容についてはめくることができずにそのターンは終了します。

ちなみに「髑髏と薔薇」、面白いですよー!個人的にはあの「ごきぶりポーカー」を超えました。
プレイ時間も短く、メリハリがきいてサクサク進むし、ごきぶりポーカーと違って「一人負け」じゃなく普通に一人勝ちなのがとてもいいです。唯一、途中で脱落者が出る事が出るのが残念ですが、まぁ、短いプレイ時間なのでたいした問題ではないでしょう。


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