脳の理論から身体・世界へ:行動と認識への再挑戦

日時 2017年8月25日(金) 9:20 - 17:35
場所 京都大学吉田キャンパス
国際科学イノベーション棟5階 シンポジウムホール 



 深層学習・リカレントネットワーク研究の急速な進展により,高い水準での物体認識・音声認識・自然言語処理が可能になっています.多量のデータに基づく認識技術の劇的な向上は,今私たちの生活を大きく変えようとしています.一方,人と動物は環境に埋め込まれた存在として,行為により環境や他者を活用しながら認知活動を行なっています.このような身体化された認知はロボティクスや発達心理学における先駆的な研究がありますが,神経科学的基盤や数理モデル・情報論的な適応原理の探求には萌芽的取り組みも多く,自由エネルギー原理(free energy principle)・能動的推論(active inference)・予測符号化(predictive coding)など様々な概念のもとで注目すべき研究が進展しつつあります.

 本研究会では認識・行動・環境変化の円環を重視して脳の数理理論を構築している研究者,また実験的に脳の適応原理を調べている研究者をお招きして最新の成果を紹介して頂きます.加えて,身体性の能動的認知を研究されているロボティックス研究者・仮想環境における適応的知能を研究されているゲームAI研究者をお招きして問題意識を伺います.認識・行動と環境への適応を扱う脳の理論は,今後も進展が期待される実環境での人工知能技術の理論的支柱となると考えられます.理論・実験神経科学になにが期待されるか,どのように人工知能技術に活かされるかを議論します.

参加登録

参加には登録をお願いしています.参加を希望されるかたは,こちらの登録フォームに,氏名・所属・連絡先をお知らせください.
 会場の定員数を超える場合は応募を締め切らせていただきます.
 参加予定の変更・修正などございましたら,同じフォームにあらためて氏名・所属・連絡先をお書きのうえ,連絡事項欄にその旨お書き下さい.


スケジュール

   09:20 - 09:30 
 開会の挨拶  
09:30 - 10:20  磯村拓哉(理研BSI)  神経回路網における自由エネルギー原理 –電気生理実験による検証と生物学的な学習アルゴリズムの開発–
10:20 - 11:10  伊藤創祐(北海道大)  生体適応センサーの情報熱力学
 10 min break 
 
11:20 - 12:10  豊泉太郎(理研BSI)  A theory of how active behavior modulates neural response: neural gain modulation by closed-loop environmental feedback
Lunch    
13:30 - 14:30  三宅陽一郎(SQUARE-ENIX)  仮想空間の中の生命 
14:30 - 15:20  柴田和久(名古屋大  ニューロフィードバックを用いた脳活動パターン誘導によって変化する知覚・認知機能
 20 min break     
15:40 - 16:40  石川正俊(東京大  認識と行動:高速知能システムから見えるもの
16:40 - 17:30  大羽成征(京都大)  自由エネルギー原理に基づく多用途人工知能アーキテクチャ 
   17:30 - 17:35     閉会の挨拶  


会場へのアクセス
 京都大学吉田キャンパス 国際科学イノベーション棟(西棟)5階 シンポジウムホール

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主催 日本神経回路学会 

世話人 島崎秀昭(京大情・HRI) 大羽成征(京大情) 吉田正俊(生理研)

連絡先
 jnns_jigen17@ci.ist.i.kyoto-u.ac.jp



登壇者の紹介
各登壇者の講演のアブストラクトは7月25日以降にこちらに記載します.





 磯村拓哉
理化学研究所脳科学総合研究センター 神経適応理論研究チーム
基礎科学特別研究員

19世紀にHelmholtzが提唱した無意識的推論や、1990年代にDayanHintonらが構築した機械学習モデル“Helmholtz machine”によると、脳は内部モデルを用いて外界の推論を行うとされています(内部モデル仮説)。この過程は、入力の予測不可能性を表すsurpriseの最小化問題として定義されます。Fristonは脳の理論“自由エネルギー原理”としてこの考えを発展させました。ここでは自由エネルギーはsurpriseの上限値として定義され、神経活動やシナプス結合の変化、個体の振る舞いは全て自由エネルギー最小化の法則により決定するとされています。本発表では、自由エネルギー原理の概要と現状の問題点を解説した後、ラット大脳皮質由来の培養神経回路網を用いた原理の検証実験について報告します。複数の信号源から成る入力信号を用いて訓練することで、我々は神経細胞の応答が入力の背後にある隠れた信号源を表現するように変化することを観察し、この学習過程により神経回路網の持つ自由エネルギーが減少することを確認しました。また神経回路網の学習過程から着想を得て開発した生物学的に妥当なブラインド信号源分離のアルゴリズムについても紹介し、Fristonの自由エネルギーと提案アルゴリズムの数理的関係性について議論します。



 伊藤創祐
北海道大学電子科学研究所 附属社会創造数学研究センター (データ数理研究分野)
助教

熱力学と情報理論の融合(情報熱力学)は近年急速に発展している. 例えば, メゾスコピック系で成り立つ情報の効果を含んだ熱力学第二法則の一般化など, 情報伝達に関する様々な熱力学法則が近年発見された. このような情報伝達に関する熱力学的法則は, メゾスコッピック系である細胞内の情報伝達において適用可能であり, 情報伝達を行う際に生体系が熱コストをどれだけ効率よく利用しているか, といったことが議論可能になってきている. 一例を挙げると, 我々は生体系の情報伝達として普遍的な「生体適応センサー系」にこの情報熱力学を適用してきた. 今回の講演では, 情報熱力学について基本的なところから, 最近の発展である生体適応センサー系の応用まで俯瞰的な解説を行いたい.
   豊泉太郎
理化学研究所脳科学総合研究センター 神経適応理論研究チーム 
チームリーダー

During active behaviours (e.g. running, swimming, whisking, sniffing) motor actions shape sensory input and sensory percepts inform future motor commands forming a closed-loop feedback system. This closed-loop feedback is mediated by neural circuits across the brain but how the presence of feedback signals impact on the dynamics and function of neurons is not well understood. Here we present a theory suggesting that closed-loop feedback between the brain/body/environment can change neural gain, modulating endogenous neural activity and responses to sensory input. We support this theory with modeling and data analysis in two vertebrate systems. First, in a model of rodent whisking we show that negative feedback mediated by whisking vibrissa can suppress coherent neural fluctuations and neural responses to sensory input in the barrel cortex. We argue this suppression provides an appealing account of a brain state transition (a marked change in global brain activity) coincident with the onset of whisking in rodents. Moreover, it suggests a novel mechanism that selectively accentuates active, rather than passive, whisker touch signals. We support this theory by re-analysing previously published two-photon data recorded in zebrafish larvae performing closed-loop optomotor behaviour in a virtual swim simulator. We show the same simple theory can account for the interplay between neural and environmental activity and predicts changes in coherent neural fluctuations caused by optomotor behavior. More generally we argue this theory highlights the dependence of neural activity on closed-loop brain/body/environment interactions suggesting brain function cannot be fully understood through open-loop approaches alone.


 

 三宅陽一郎
株式会社スクウェア・エニックス テクノロジー推進部
リードAIリサーチャー

デジタルゲームはその誕生から40年を経て、ますます広大で複雑なシミュレーション世界になっています。その世界に住まうキャラクター(モンスター、人物)たちは、かつて外部から完全に制御されていた存在から、自律的な存在へと移行しています。自分の感覚で世界を認識し、自分の意思決定を行い、自分で身体運動を形作って行く自律型エージェントへと変化を遂げて来ているのです。そこで課題となっているのは、ロボティクスから援用したエージェント・アーキテクチャを生物学の環世界モデルといかに融合させ発展させるか、意思決定をリアルタイムで行う技術、身体を環境に合わせて変化させ運動を形成して行く、と言った課題です。特にデジタルゲームでは、環境に従いつつ、己の意思を通す、と言った知能の動きが、キャラクターの意思をユーザーに感じさせ、ゲームを面白くします。今回は2016年に発売された「FINAL FANTASY XV」の実例をお見せしつつ、その背後にある人工知能技術について解説いたします。


 

 柴田和久
名古屋大学 大学院情報学研究科 心理・認知科学専攻
准教授

ヒトの脳の仕組みを調べるための方法として、ニューロフィードバックと呼ばれる技術が注目されています。ニューロフィードバックは、被験者の特定脳領域における活動を視覚化する技術であり、これにより被験者自身による特定領域への脳活動誘導が可能になります。最近われわれのグループは、このニューロフィードバック技術と脳活動パターン解析手法などを組み合わせ、新しいニューロフィードバック技術(decoded neurofeedback, DecNef)を開発しました。本講演では、まずDecNefの特徴を解説し、DecNefを用いて脳活動誘導と知覚・認知機能変化の関係を示した研究例(知覚学習、連合学習、顔選好、反対条件づけ)を紹介します。



 石川正俊
東京大学 情報理工学系研究科 研究科長
創造情報学専攻 教授

本来の知能システムは、認識系、処理系、運動系から構成され、認識と行動が一体のものとして発現されるものである.Brooksは、このことを「象はチェスをしない」という表現を用いて、処理系だけが知能の構成要素ではないことを述べている.実際の知能システムの設計において、認識系や運動系も含めて、階層的並列分散処理構造の中で高速性を実現するためには、並列分解に基づく適切なタスク分解を導入する必要がある.また、ダイナミクス整合や能動的認識といった考え方も認識と行動の新たな関係を生み出している.本講演では、これらの考え方に基づき、高速画像処理を用いた知能システムについて、基本原理から応用システムまで紹介する.

 

 大羽成征
京都大学 情報学研究科 システム科学専攻 講師


 人間が日々の生活のなかで解き続けている多様な認知・学習課題の遂行過程を、計算機上で再現したいと思うとき、課題を目的関数の形で定式化する工程がボトルネックとなります。とくに「多用途」人工知能(多様な認知・学習課題を実現するひとつのシステム)の実現を目指すとき、多様な課題の目的を矛盾なくまとめてひとつの目的関数を設計するのは簡単なことではありません。どのような設計をすればよいでしょうか?
 「あなたを駆動する目的関数は?」と人間に質問して手がかりが得られるでしょうか?  我々は多用途人工知能の設計において、自由エネルギー原理(FEP)を用いたモジュール型のアーキテクチャを考案し実装中です。提案型アーキテクチャによれば、多種多様な課題遂行に必要なスキルの獲得を少数の共通モジュールと多数の専門モジュールに分けて担当させ、協調的に使い回すことができます。また、これらモジュールを複数計算ノードに割り振ることでスケーラビリティが期待されます。  
 本講演では、FEPに基づく計算原理とこれが多用途人工知能に繋がってゆく道筋を丁寧に紐解き示すことを試みます。また提案型モデルによって近い将来の実現が見込まれるシナリオを、近いものから遠いものまでいくつか紹介します。