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「柔道クラブ」は地域の最先端の教育機関だ

僕が「JUDOプチ留学」プラグラムを作ったわけ

2016年9月3日


筆者 酒井重義 (「海を渡って柔道をしたら世界が変わった」実行委員会代表)



【東京】世界に広がる柔道は、各地域に道場がある。子どもたちが海を越え、現地の人達と柔道をする経験は視野を広げ、つながりもできる。そんな教育効果に気づき、仲間と一緒に作った「JUDOプチ留学」プログラムについて紹介したい。

■柔道は「僕の味方」と語った高校生
「全然知らない人たちも柔道を一生懸命している。その光景を見たとき、この人たちは僕の味方なんだと思った」

私、酒井重義は昨年から仲間と一緒に柔道の短期留学プログラムを作った。このプログラムを通じて、はじめて海外で柔道をした高校2年生の男子が話してくれたものだ。

高校2年生といえば思春期だ。閉ざされた世界。無力感。居場所を見つけられない孤独。 世界を広げたい。自分の力を取り戻したい。

そんな彼に異国への旅立ちの機会が訪れたが、言葉も通じない、知り合いもいない。不安と恐怖の異界だ。しかし、なんとそんな地で「味方」に出会ったのだった。
2016年3月、インドネシア・バリ島の仙石道場での稽古の様子(写真=酒井重義)

■アメリカで気づいた柔道の教育効果
私も実は10年ほど前、彼と同じ経験をした。初めてアメリカを訪問、おそるおそる訪ねてみた現地の道場。 柔道が世界に普及していることは知っていたが、「僕の味方」だったとは知らなかった。

一緒に稽古をすると、言語や文化、宗教などの違いを超えて相手とつながりをつくることができる。そしてこの体験が自分の成長を促すことを実感した。外国語を話せるか否かを問わず、世界中に「味方」をたくさん作ることができる。 これがどれだけ素晴らしいことか、そのとき知ったのだ。

同時に、大人になるまでに世界中に友達が100人できるような教育環境ができたら、地域にある柔道クラブは最先端の教育機関になると確信したのだった。
しかし、ほとんどの子どもたちには、日本を飛び出して柔道をする機会はない。そこで、2015年1月、「海を渡って柔道をしたら世界が変わった」実行委員会を設立、柔道短期留学の機会作りに着手した。

とはいっても私自身、柔道家として優れた競技実績があるわけでもない。宮城県石巻高校で柔道を習い、高専柔道で有名な東北大学に進学するも柔道部には入部せずじまい。社会人になってから再開した愛好家にすぎない。
また、柔道短期留学といっても、海外に受け入れを頼める道場に当てがあるわけでない。当初はむなしくときを過ごした。

■第1回目のプチ留学はハワイ
実行委員会を設立して半年余りたった夏、転機が訪れる。東京柔道整復専門学校柔道部監督である三浦照幸氏(講道館 柔道8段)の協力のもと、ハワイで柔道をする機会「JUDOプチ留学」の準備が整ったのだ。同氏はハワイと日本の柔道交流を40年以上も積み重ねておられる先駆者だ。

さあ、あとは日本のどこかにいる、この機会を欲している子供達を探すだけ。私はとにかくできることをした。フェイスブックでの投稿やWEBの立ち上げ、さらにチラシを作って、日本国内の約1500ヶ所の道場へ郵送した。
できることは全てやった。郵送準備を終えた約1500通のチラシの束。(写真=酒井重義)

そして、この年の10月、ついにこの機会を欲していた子どもたち・保護者に出会う。 北は北海道、南は熊本、小学6年生から大学3年生まで、引率を含めて15名。彼らは事前の研修を経て、2015年12月、海を渡った。このときの参加者の一人の感想が、冒頭の高校生男子である。

その後も素晴らしいご縁に恵まれ、2016年3月には、インドネシア・バリ島とタイ・バンコクの2ヵ国にて「JUDOプチ留学」第2弾を実施し、合計12名が海を渡った。
2015年12月、ハワイに旅立つ前の参加者と引率の面々。(写真=酒井重義)
次の道場・クラブから参加した。三重県四日市柔道同好会・
岐阜県やさか少年スポーツ少年団・埼玉県会田道場・
熊本県九州学院中学校・愛知県大成高校・北海道旭川南高校・
九州学院高等学校・和歌山県柔道学習塾紀柔館・
東京都安田学園高等学校・中央大学・茨城大学・滋賀大学

■柔道創始者の意思を今世紀にもう一度
約130年前、柔道を創った嘉納治五郎師範は、当時の日本を代表するエリートの一人であった。柔道を普及をして「人類の共栄」を図ろうと本気で考え、実践していた。

だが、「柔道で人類の共栄」といっても、ピンとくる人はそう多くはないだろう。
私も当初そうだったが、今はイメージできる。
社会には様々な違い(文化や宗教、貧富など)に起因する不和や争いが多発している。でも、そのような違いを超えた「つながり」をもつ人がたくさんいて、そんな人々が各国・各分野のリーダーになったらどうだろう。きっと不和や争いが減り、人類は共栄できるのではないか。

やるべきことは簡単だ。
まず言えることは、柔道をしている子どもたちには、すでに「味方」が世界中にいるということ。 そんな「味方」に、ただ会いに行けばいいのだ。たったそれだけで、柔道クラブは未来のリーダーを育む最先端の教育機関となる。そんな場所が世界の国々の様々な地域にあるのだ。(了)

【お知らせ】
酒井重義さんが代表を務める「海を渡って柔道をしたら世界が変わった」実行委員会の主催で、下記のようなフォーラムが行われます。

なぜ柔道は世界を変えるのか?
教育・医療・福祉を再構築するイノベーターの集い  
 JUDO3.0 FORUM
9/17,18  順天堂大学さくらキャンパス

柔道の新しい可能性をカタチにするプレゼンとワークショップ で柔道教育に関心がある方ならどなたでも参加可能(詳細はこちら

ゲスト
愛媛県ユニバーサル柔道アカデミー 長野敏秀
茨城県鹿島柔道少年スポーツ少年団 仮屋茂 
日本運動療育協会理事 清水貴子
稚内地方柔道連盟・稚内南部柔道スポーツ少年団 三上雅人
一般社団法人アルバ・エデュ代表理事 竹内明日香
(ネット中継)ドイツ在住ジャーナリスト 高松平藏
(ビデオ)  ハーバード大学准教授 脳科学者 ジョンJ・レイティ
詳細はこちら

リンク「海を渡って柔道をしたら世界が変わった」実行委員会 WEB / Facebook

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執筆者 酒井重義(さかい しげよし)

「海を渡って柔道をしたら世界が変わった」実行委員会代表。宮城県石巻高校柔道部卒。東北大学、同大学院法学研究科修士課程修了。元弁護士。柔道三段。都内で弁護士として活動後、近年の脳科学などから、社会をよくするポイントは「運動」と「つながり」を軸にした教育・福祉・医療の再構築にあるとの認識に至り、子ども向けの柔道留学のプロジェクトを約10年前から構想。発達障害児向けの運動福祉施設の経営などを経て、2015年1月、当委員会を設立した。



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