Interlocal Journal はドイツ・エアランゲン在住のジャーナリスト・高松平藏が主宰するウエブサイトです。


ドイツの村のビール祭り、テントの中は大爆笑

近代的組織と村的共同体が同居

2016年8月23日


執筆
高松平藏ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)



各都市・各村でビール祭が行われるドイツだが、人口4,000人ほどのテンネンロエ村でも、夏にビール祭りが行われている。多くの人々が訪れるが、期間中、村人たちだけで楽しむ「ショー」があった。

■村の人々の秘密(?)のショー
この村は、私が住むエアランゲン市(バイエルン州)の一部で、毎年8月に4日間のビール祭りが行われる。 個人的には何年か前に頼まれて、祭りの一部の写真撮影をしたことなどがあり、村の人々とも何人か面識がある。

会場の中心地には20m以上ある「ケルワバウム」と呼ばれる装飾した木が立てられ、小規模ながらも移動遊園地や屋台が並ぶ。テントの中には仮設舞台が作られ、「ビアホール」化している。開催日3日目、やや人出も少ない 日曜日の午後、そぞろ人々がテントに集まりだした。人数にして100人から150人程度だろうか。司会の若い男性2人が舞台にあがり、「ショー」が始まった。
祭りの木「ケルワバウム」が立つビール祭り会場。
この木を立てるのも伝統的な行事で祭りの見どころだ。
奥のテントは「ビアホール」と化している。

その内容は実にバカバカしく、「田舎芝居」レベルの出し物ばかり。
例えば子供たちのダンス。これは可愛らしいが、音楽の歌詞のあわせて仮装した青年たちが登場したり、舞台でミルクにチリ、ウォッカ、チョコクリーム、ジャムなどをまぜた「スペシャルカクテル」の試飲。あるいは6人の青年たちが2つのチームにわかれて至近距離で向き合って座り、水を頬いっぱいに含む。そこへ司会者が冗談を続けさまにいう。笑うのを我慢しきれず向き合う相手に向かって水を吹いてしまう。会場内も爆笑だ。私のそばに座っていた高齢女性も後ろに倒れそうなぐらい上体をそらして大笑いしている。
楽曲にあわせて、仮装した青年が練り歩く。彼らが登場するだけで、会場がわく。

■村にはNPOがたくさんある
この雰囲気、結婚パーティや大掛かりな誕生パーティに似ている。例えば罰ゲームのバカバカしい仮装などは、仲間内で行うから皆腹を抱えて笑う。共同体で行われる非日常的な行為だ。ビール祭りの「ショー」を田舎芝居風と感じるのは私自身が一応「外部」の人間だからだ。しかし、このビール祭りの運営そのものはNPOに相当する非営利法人が行っている。つまり形式的には地縁組織ではなく「近代的組織」だ。
口いっぱいに水を含んで、「見合って、見合って・・・」
司会者は立て続けにドイツ・ジョークを言う。笑いをこらえきれず、水をふきだす。

法人格を持つNPOは地縁組織とは異なり、構造的には出入り自由。地縁・血縁とは無関係の個人が集まるわけで、一種の抽象的な集団だ。NPOに相当するドイツの組織は19世紀に発達。こういう性質の集団が増えることで、いわゆる市民社会の形成に大きく影響した。現在、国内で60万程度ある。そんなことから、ビール祭りの運営を見ると、宣伝もしっかりしていて、「村の外」からもたくさんの人がやってくる「イベント」でもある。

また村内を見ると、スポーツクラブ、消防団、ブラスミュージッククラブ、若者が集まる施設があるが、これらも非営利法人だ。つまりスポーツ・消防・文化・祭りといったコミュニティサービスが近代的な組織で行われているかたちだ。
スペシャルカクテル作り。中身はチリソースにウォッカ、ケチャップ、にんにく・・・
右のオレンジのシャツは試飲役。村のレストランのシェフ。

■「村の人々」「村のNPO」 のつながり強める
それでもビール祭りの中には、「地縁・血縁の共同体」による村祭り的要素がショーとして組まれているといえる。

司会者の1人は村のパン製造会社の経営者の子息、「スペシャルカクテル」を飲まされるのも、村のレストランのシェフ。そんな「地縁」の人間関係がテント内にある。
また、「近代的組織」であるスポーツクラブで息子はサッカーをし、母親が祭りの運営NPOの会員といったように、NPOの属性と家族が重複。そんなことから「あれは誰々の孫娘」といったような人間関係を多くの人が知っていり。つまり「血縁」の人間関係が見出だせる。

また「ショー」の頭のほうでは、ビール祭りにまつわる節付きのセリフを子供たちが声をそろえる行為があるが、これにいたっては近代的な歌唱というより、宗教や遊びと祝祭といったようなプリミティブな要素が見えてくるものだ。
愛らしい、子供たちの「小人のダンス」

祭りといえば、当たり前の「年中行事」のようであるが、開催できることは共同体が「生きている」ことの証だ。ビール祭りで繰り広げられた田舎芝居風の「ショー」を共有することで、「村の人々」「村のNPO」の紐帯が維持され、強くなる。
来年もまた盛大にビール祭りが開かれることだろう。(了)


 


 
 
 
※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。