Interlocal Journal はドイツ・エアランゲン在住のジャーナリスト・高松平藏が主宰するウエブサイトです。


なぜ「まちづくり」は平仮名なのか

21世紀の日本独自文脈の課題を表現

2016年8月18日


執筆
高松平藏ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)



個人的に「まちづくり」をはじめて聞いたのは20年ぐらい前になるだろうか。特に平仮名表記が奇妙に思えた。しかし、日本独自の地域課題と考えると、こういう言葉が出てきた必然性が見えてくる。


■根源的な意味を平仮名で?
「まちづくり」という言葉を目にするようになったのは1990年代終わりぐらいか?2000年代にはいってぐっと増えたように思う。この印象は私自身、この分野の記事を書き始めたせいかもあるかもしれないが、ともあれ「まちづくり」の定義はけっこう曖昧で、使う人の文脈によっても幅がある。しかも面白いことに、平仮名で書かれる事が多い。

個人的な印象でいうと、わざわざ平仮名を使うときは、純粋性や本来のあり方を示したり、特定の意味を外すために使われることが多い。私はあまり賛成ではないが、例えば「子供」では大人の附隨物を思わせるので、「こども」「子ども」と書き換えるのも同じである。平仮名表記はやわらかい感じがあるが、考えようによっては日本語の意味のラディカル(根源)化の言語行為かもしれない。

そう考えると、この場合の「まち」は町でも街でもなく、根源的な意味で、人が集まっているエリアのことを「まち」と表現しているように思う。だから「まちづくり」の対象は村でも区でも通りでもいい。そして、そこに住んでいる人たちみんなが、何かのかたちで関わって特定エリアのクオリティをよくしていこうという意味だといえる。つまり自治の力を核にしようという考え方だ。

■ドイツで通じなかった
ずいぶん前だが、ある日本の研究者が「ドイツで『まちづくり』と言っても通じなかった」と顔をしかめて話して下さったことがある。どういうドイツ語で表現されたのかは分からないのだが、「まあ、そうでしょうね。当然だと思います」と私は答えた。

というのも、ドイツの空間の捉え方、特に都市の捉えかたや発展経緯が異なるし、いわゆる市民社会的な公共性があって、NPOや地域ジャーナリズムなどの市民同士の関係づくりや公論を促進するインフラも充実している。行政も「ビューロクラシー」という問題はあるものの、専門知識を備えた官僚がいて、NPOなどと一緒に都市を少しづつアップデートさせている。自治の力がすでに備わっているのだ。

もちろん、市民参加やデモクラシーの重要性は継続的に確認されてはいるが、「市民皆で都市をつくる」という文脈の言葉をわざわざつくる必然性が日本ほどないのだ。

■自治の力を核にする、という課題
一方、日本はどうだろうか。人々の住んでいる場所を運営・管理・展開させてきたのは自治体行政だ。しかも実態は財源や権限が中央に集中していて、中学校の教科書でも登場する「3割自治」である。

そのせいか、長いあいだ公共性=お上(国家権力)と理解される時代も長く、「開発」に至っては、資本の論理に基いてフロー型のものが主流。おかげで昔からあった美しい建物や景色を「ストック」として残しながら、時代に応じた利便性や快適性をみんなで少しづつ発展させる、そんなアップデート型「開発」はできなかった。

これに対して20世紀の最後半、「自治の力」を核にしていくべきという課題が登場、よく議論されるようになった。その課題を表すのが「まちづくり」ということではないか。そう理解すると、ドイツで「まちづくり」がなぜ通じなかったのかがわかるし、日本に平仮名の「まちづくり」がなぜ必要なのか説明がつくように思う。(了)

<追記>
様々なハードや社会的共通資本、文化歴史資本などを統合する用語としての「まちづくり」は拙稿で書いた以前より使われていたという指摘をいただいた。確かにそうで、私も以前、調べたことがあって、想像以上に古くから専門家のあいだで使われていたことに驚いたことがある。

「まちづくり」という言葉、新聞での登場頻度やコンテクストの変遷を追うと、もう少し明らかになるとは思うが、多くの人が目にするようになったのは2000年前後からという個人的印象がある。また、それは阪神・淡路大震災(1995年)やNPOの法整備(1998年)などと一緒に「公共性」に関する議論が大きくなってきたことと、連動しているのではとも思う。

ともあれ、今では住宅会社の広告や、大学の学部にまで登場する言葉だ。個人的な経験でいえば、2000年代半ばには、会話のなかで「まちづくり系」という分類概念が耳に入ってきたこともあり、驚いたこともある。「まちづくり」の概念形成の経緯と広がりかた、議論の中心の変化を整理すると、日本の地域の捉え方の変遷を読み取れるだろう。ご指摘をいただいた皆様、感謝!平仮名表記になった理由など、このテーマに関連することを他にもいろいろ示唆いただきました。(2016年8月19日)


 


 
 
 
※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。