Interlocal Journal はドイツ・エアランゲン在住のジャーナリスト・高松平藏が主宰するウエブサイトです。


10万人都市の「学び」のインフラ

市民学校、ミュージアム、図書館

2016年4月29日


執筆
高松平藏ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)



大人になってからも学ぶことの必要性はよく論じられる。ドイツの地方都市を見ると、学ぶためのインフラがよく整っている。これはデモクラシーという観点からも重要なことだと思う。
エアランゲン市市営図書館


■賑わう市民学校のカフェ
私が住むエアランゲン市は人口10万人だが、おそらく、毎夜といってよいほどどこかで講演の類が行われているのではないか。

その一拠点がフォルクスホッホシューレだろう。一般市民のための学校で、日本社会から見ると、ちょっと理解が難しいのだが、非営利の教育機関・カルチャーセンター・生涯教育センターと言った感じか。たいていの町にあって、自治体がかなりバックアップしている。本稿では便宜上、「市民学校」で進めよう。

エアランゲン市にも市街中心部に、どんと、歴史的な建物(そこらじゅうそうだが)を構えているが、そこが市民学校だ。平日の午前中でも中庭などは、各種講座に通う人々が行き交う。さすがにこの時間帯は高齢者が多いが、カフェをのぞくとおしゃべりをしたり、グループで講座のテーマについて話しあったりしているのだ。ちなみに、このカフェ、値段も安い。カプチーノが1.5ユーロ。生活感覚でいえば150円ぐらいだ。学びとカフェはよく似合う。

■充実のプログラム
プログラムがすごい。エアランゲンの市民学校は定期的な授業のようなコースやワークショップ、講演、見聞拡大目的の旅行など約1,250のプログラムがある。分野でいえば哲学から政治、経済、文化など硬派なものから、職能、健康、語学などだかなり幅広い。昨年の前半を見ると、画家のパウル・クレーをテーマにしたものと、イスラム国家の起源と目的の政治的分析というのが目玉の講演。他にも現代文学の読書会のようなものや、芸術についての講演、政治や宗教、エネルギー政策などの講義もある。

こんな市民学校に年間3万9000人が足を運ぶ。 とりわけ語学に関しては、外国人のドイツ語習得の受け皿になっているが、もちろん他の言語のコースも充実している。だからこんなこともある。
ある集まりで「こんにちは」とたどたどしい日本語で話しかけてきた人がいて、聞けば市民学校の日本語コースに通っているとのことだった。また、大学の日本学部の学生で1年生なのに比較的日本語が話せる人がいた。大学進学する前から市民学校で勉強したという。

同市内を見ると、ほかにもアートギャラリーや市営ミュージアム、図書館、大学がある。こういったところでもワークショップや講演会が行われる。「学び」にはことかかない環境といえるだろう。新しいことを学ぶことじたい、楽しいことだ。視野も広がる。民主制という制度からみても、議論の幅を広げることにつながる。
エアランゲン市の市民学校。市民学校じたい歴史は長いが、同市は66年前から。

■日本の現状、どう見ればよいのだろう?
他方、経済協力開発機構(OECD)が2012年に実施した調査によると、30歳以上の成人がなんらかの学校に通うケースが比較18ヶ国のうち日本が最低だという。

ところが昨今、日本の大学にはいわゆる「社会人学生」もたくさんいらっしゃる。今年の3月にはかなり高齢の「学生さん」が卒業したという話を報道などでも聞いた。私自身も日本で講演をすると、「学びたいから学んでいる」という感じの高齢の方が足を運んでくださることもあり、熱心に聞いてくださる姿に感じ入ることがある。ひょっとして、新しいことを学びたい人はそれなりにいるが、現役世代となると、自由に使える時間が少ない、あるいは地方の場合、市民学校やミュージアムなどの学びのインフラそのものが十分ではない、ということなのだろうか。

ドイツを見ると、18世紀には出自性別を問わずにメンバーになれる読書クラブが各都市にあった。これは「学びの場」であり、討議の機会も作った。そして市民社会の生成に影響した。(了)


 


 
 
 
※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。