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日本柔道がドイツに興味をもつ理由

独専門誌に寄稿、そして考えたこと

2016年4月15日


執筆
高松平藏ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)



ドイツの柔道専門誌にこのほど寄稿した。柔道発祥国の日本が、なぜドイツやフランスの柔道に興味を持つのがテーマ。競技に傾注しすぎた日本柔道の硬直化がその背景といえる。
ドイツの子供向けプログラムが行われた会場にいた「柔道クマ」。


■社会的評価を下げた暴力問題
寄稿内容は次のようなものだ。
日本の柔道といえば、イコール競技で、しかも勝利に価値を置く傾向が強い。ドイツでも競技として頑張っている人は多いし、勝つことは大切だが、健康や余暇、コミュニケーションなど社会的に幅広い価値を念頭においたコースも充実している。それに対して日本では競技柔道以外の「柔道」が極めて少ない。

また勝利に価値を置き過ぎた結果、無理な指導により死亡事故や重大なケガが発生することも問題視されていた。ここにきて2013年、日本代表女子強化選手たちによって、指導者の暴言・暴力が告発され、一気に柔道の社会的価値を下げてしまった。以来、指導者の中で、フランスやドイツなどでは、どのような「柔道」が行われているのか。これが大きな関心事になった。
ドイツ柔道連盟が発行する専門誌「柔道マガジン」2016年3月号に寄稿した。

■メダリストの新しいプログラム
私は雑誌「近代JUDO」(ベースボール・マガジン社) にドイツで競技以外の柔道がどのように展開されているかについて、連載の機会を得ている。そのことから昨夏、柔道家の瀧本誠さん(シドニー五輪の金メダリスト)と誌上対談をした。

そしてドイツの柔道専門誌にこの対談のことを盛り込んだ。
同氏自身、ドイツに視察に行ったことから、日独の柔道の捉え方の違いなどに話が及んだ。また瀧本さんはフランスにも長期滞在した経験があり、そのときに得たことをヒントに、柔道の楽しさや体力増進などを目的にした子供向けプログラムを作っている。が、メダリストの指導で子供を「強い競技柔道家」にしてほしい親には理解が得られないという話もあった。

■日独スポーツ文化も比較
ドイツ柔道専門誌に執筆した記事には、スポーツ文化の比較にも踏み込んだ。
日本の社会における体罰の位置づけなどに触れながら、「先生(日本)」と「トレーナー(ドイツ)」の指導者像の違い。部活など学校が多い日本とスポーツクラブが主流のドイツをみながら、人間関係(日本:先輩・後輩/ ドイツ:平等な仲間)も考察。日独の柔道の社会的展開の違いに言及した。

結論はこうだ。柔道は教育システムであるが、時代に応じたプログラムを作るべき。ドイツは長いスポーツクラブの伝統とうまく統合した柔道を作り、社会的価値を高めている。そこを見ることで、日本の柔道も現代に応じたリフォームの議論を深めることになるだろうということだ。

■「宝の持ち腐れ」にしてはいけない
そんな拙稿に対して、ドイツの読者からコメントや感想がいくつか寄せられた。日本の柔道の現状に驚いたという人もいるが、ドイツのスポーツ文化を当たり前のように思っていた人々にとって、外国人の目によるものが新鮮だったのだろうか、文化比較として興味を持ってくれた人も多い。また教育システムの観点から書かれた学術論文を送ってくれた人もいる。

こうした拙稿への反応を見ていると、柔道の普及に尽力した先人がいること、さらに創始者の嘉納治五郎が、武士の接近戦であった柔術を整理し、教育システムとしてきちんと言説化した功績を再確認させられる。だからこそ継続的に世界で柔道が行われ、教育や社会的な展開がなされ、さらにはアカデミックな研究も行われるわけだ。

日本に目を転じると、幸い、少しづつだが新たなプログラム作りが試みられている。柔道は世界中に広がった「人類の宝」のひとつである。強さだけの追求をしていては、柔道が持つ社会的価値を殺してしまうことになり、 発祥国が「宝の持ち腐れ」状態になっていることを露呈することになる。これはまずいと思う。(了)

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