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創造型トレーナーの秘密はどこにある?

京都精華女子高校サッカー部監督 越智健一郎さんのこと

2015年9月9日


執筆
高松平藏ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)



今年の一時帰国中、指導者や研究者などのスポーツ関係者と会い、意見交換する機会も多かった。 京都精華女子高校サッカー部監督・越智健一郎(おち けんいちろう)さんはその1人。既存の体育会系とは一線を画したユニークなチームマネジメントで知られているが、むしろクリエイターのような発想の持ち主という印象をもった。

■リラックスと自主性がカギ
関西女子ユース U-18準優勝(2009~2011)などの実績を持つ同サッカー部。越智監督の指導方法が特殊だというので、8月10日、2人のスポーツ分野の大学教員の友人と練習を訪ねた。『体育会系』にはない、肩の力が抜けた感じと自主性がカギだ。これが集中力と高いモチベーションにつながり、結果的に戦績にも反映されるのだろう。

例えば練習の合間、部員の『女子高生』は監督を『先生』ではなく、『越智さん』と気軽に呼び、ふざけあうような他愛もない会話が交わされる。また、この日は練習試合が組まれていたが、試合時間や3チームの試合の組み合わせも、彼女たちが自主的に決めたものだった。

■実は特殊ではない
だが、実は『自主性』『リラックス』は越智さんが意図的に作っているもので、部員はうまく『のせられている』かたちだ。そして、越智さんはそのための新しい手段を常に考えている。たとえばスマホで頻繁に彼女たちを撮影するが、『仲がそれほどよくない子たちも、撮影する時はくっつきます。これがチームの雰囲気の良さにもつながる』と笑う。使えるものは何でも利用する貪欲さと柔軟性がうかがえる。『彼女たちが成長するためにできることを考えているだけ』と続ける。

しかし私は正直、これは特殊でもなんでもないと思った。
というのも、研究者やクリエイターなど、創造的な『アウトプット』を常に考えている人間は、自分の回りのものからも貪欲かつ柔軟にヒントや着想を得ようとするからだ。越智さんも勝利を望んではいるであろうが、『彼女たちが成長するためにできること』を『アウトプット』と設定しているのではないか。だから貪欲で柔軟なのだろう。

■体育会系というガラパゴス
ところで体罰問題などを背景に、体育会系指導の議論が盛んになって久しいが、実態はなかなか変わらないようだ。それは当然だと思う。というのも体育会系という価値観のガラパゴス化がおこっているからと思えるからだ。
越智健一郎さん。
『(私のやっていることは)指導じゃなく、マネジメントなんです』
見学中ボソっとおっしゃった、この言葉が印象的だった。

体育会系の価値観とは勝利や記録を重要と考え、そのために『気合』『根性』といった精神性重視。そして先輩・後輩システムはこの世界の中で生きる人々の秩序をつくる。また指導者の人事コントロールや雇用を保証する役割もあり、価値観の再生産が行われる構造になっている。

とりわけ勝利や記録は『アウトプット』に相当し、その方法論も硬直化傾向にある。だから越智さんのスタイルが特殊に見えるのだろう。たぶん、『楽しくて夢中になる』『成長させる』と言う具合に『アウトプット』に相当するものを変えてみるだけで、創造型トレーナーに変貌できる可能性が出てくるのではないか。越智さんの練習を見ていて、そんなことを思った。(了)