Interlocal Journal はドイツ・エアランゲン在住のジャーナリスト・高松平藏が主宰するウエブサイトです


地域社会での教会とは何か

トーマス教会牧師 ヨルク・グンゼンハイマーさんに聞く



2012年04月18日


執筆
高松平藏ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)



ミュニティにとって宗教施設の役割は何か。エアランゲン市内の住宅街にあるトーマス教会(プロテスタント)の牧師ヨルク・グンゼンハイマーさん(=写真)に話をきいた。

教区のかたち
■教区にはどれぐらいの人がいますか。
『もともと別の教区に含まれるかたちだったのですが1969年に当教会ができたので独立しました。現在、教区には1650人、0才から102才までの人がいます』。

■エアランゲン市はグローバル企業のシーメンス社と大学の町です。
『そうですね。大学関係の人も多いですが、当教区の場合はシーメンス関係の人が多いです。また、教区はひとつの村のような感じがありますね。40%の人が60歳以上ですが、経済的に問題がなければ一人でも自分の家に住み続ける人が多いです』。

■ドイツも高齢化が著しい国ですが、教区内でもそういう傾向が見られるわけですね。
『はい。しかし、だいたい15年ほどで人口構成が変化します。当教会が運営母体になっている幼稚園が教会の建物とつながるかたちでありますが、幼稚園の存在は新しい家族に向けての歓迎のメッセージのようなところもあります』。

■外国系の市民も増えています。エアランゲンは常に13-15%程度の外国系の市民がいます。幼稚園の経営母体は教会ですが、他宗教の子供も受け入れていますね。
『正確な統計はありませんが、教区には確かに外国系市民は多いです。特に国籍ミックスの世帯が多い』。
『幼稚園の入園はイスラム教の人でもOKですよ。ただキリスト教の基本的なことを受け入れていただくのが条件です』。

■教会ではコンサートにシニア向けの文化プログラム、教区のサマーフェスティバルなど人々の社交の場や文化施設として機能しているところがあります。どういう顔ぶれで教会が運営されているのでしょう。
『秘書、音楽関係のスタッフ、施設管理者、清掃者。あとはボランティアの方ですね』。
『そして教会には10人の教会執行役会があります。とりわけサマーフェスティバルは教区のハイライトですので、他の役員の皆さんにお任せしています』。
『執行役会は私を含め4人は固定メンバー。あとの6人は選挙で選ばれます。投票権は14歳から(キリスト教の堅信儀式を済ます年齢)。立候補は役員には様々な責任が生じるので(ドイツの成人である)18歳からできます』。
『一般に教区の執行役員は昔から地元に住んでいる人たち。そのため、教区によっては執行役員が力を持ちすぎるようなところもあるようですね』。
トーマス教会。1969年にできた。

職業としての牧師
■牧師のお仕事は?
『仕事のほとんどは結婚式や洗礼などの祭事です。また教区の人の誕生日(70才、75才、80才)に訪問しますし、それ以外に招待を受けることもあります』。

■教会には『学生牧師(学生の牧師というわけではなく、職名)』という一種のコミュニケーション担当の牧師さんも働いておられるとか。
『「学生牧師」というのは大学(神学)などとのコミュニケーションを担当しています。また大学生に向けた仕事をしています。アイデンティティについての悩みや(望まなかった)妊娠をしてどうすればいいか、といった問題について扱っています』。

■ミサでの説教などを拝見すると、よく通るいい声をされている。そういう発声訓練なども牧師になるためにするのでしょうか?
『この声は生まれもったもので、特に訓練したものではありません(笑)』。
『大学で神学を勉強しますが、この時点では牧師になる義務はありません。試験に合格したのち牧師になりたければ教会に応募し、教会で働きながらミサの運営、問題のある人をどう支援するか、コミュニケーション方法、教会のなか規律などを学びます。またバイエルン州の学校では宗教の時間がありますが、牧師が授業をするのが義務ですので、授業の実技も勉強します』。
『1年目はセミナーが圧倒的に多く、2年目からミサの実技をします。その後、試験を受けて牧師になれます』。

■なるほど、職業訓練のようなものですね。ところで昔から牧師・神父は知識人であり、ラテン語が必須。学生時代はどのような勉強をされましたか?
(注:牧師・神父はいずれも聖職者だが、『牧師』はプロテスタント、『神父』はカトリック)
『ラテン語、古いギリシャ語のほかに聖書の原文を読むためにヘブライ語も勉強します。私の時代は興味に応じて、社会学なども学べましたが、現在大学の制度がかわり、社会学の授業を受けたりするのはちょっと難しくなっています』。
『ほかには哲学、宗教の歴史、社会福祉協会などについての勉強をするほか、現在はメディア、文学、コミュニケーションといった分野を理論的に学びます』。
『プロテスタントは頭がオープンでなければいけません。それでいてむやみになんでも信用するわけではなく、きちんと頭を使える人間を育てる。しかもチームで動くことも大切です』。

教会のビジョン
■人々の教会離れも久しく、いろいろと難しい時代ですが、ビジョンなどはお持ちですか?
『なかなか実現が難しいのですが、信仰に関するディスカッションの場が欲しいですね。教会は社会の中で役割があり、まだまだ重要です。土曜日の朝などにパンは買いに行かないようにしています。というのも、人と会うと(必ずといっていいほど)長い話になってしまう(笑)。しかし、できる範囲で(突然教区の人と出会ったときにも)話をしています』。
『ひいては教会がオープンなディスカッションの場になればと思っています。自分が勝った、負けたではなく、単純に意見を述べて、他の人の意見を聞いて、そして自分の視野を広げるような場所にしてほしい。いわば、自分の意見をどのようにつくっていき、お互いどういうふうに認識するかということがテーマということになるでしょうか。家庭内、教区内、社会全般で実現できるといいですね。こういう「自由のフォーラム(議論の場)」はプロテスタントの価値観の一部でもありますから』。
(取材日:2011年9月6日)

【取材メモ】
日本社会では個人の信仰は大切にする。しかしカルト宗教などの影響もあいまってか『宗教』というとやや距離を取る人も少なくない。一方、欧州における宗教は政治、学術、教育、福祉、価値観、ライフスタイルなどに関して具体的な制度や社会システムに強い影響を及ぼしてきた。近年、宗教離れも目立つも依然、その影響力と存在感は大きい。社会の中で宗教はどうあるべきかというテーマが否応なくセットになってくるのがうかがえる。(了)