はじめに


弊事務所では、投資事業有限責任組合を設立したお客様からのお問い合わせを
非常に多く受けております。

しかし、お問い合わせ内容をうかがっていると、
「投資事業有限責任組合において、公認会計士による監査が義務付けられていることを知らなかった」
というような方も、少なからずいらっしゃるように見受けられます。
そのようなお客様の場合、あわてて公認会計士や監査法人に対して監査を依頼するようなことになってしまい、監査人の業務能力や性格などについて、十分な検討をしていないケースが目立ちます。
また、急な監査報酬の支払に対応できず、監査そのものを受けられないといった事態にもなりがちです。

こちらのサイトでは、投資事業有限責任組合監査にかかる法制度や、監査人を選任する際のポイントについて解説させていただいております。





<目次>

  1. 公認会計士による監査が必要となる法的根拠
  2. 投資事業有限責任組合の会計
  3. 監査証明(監査法人の意見書)とは
  4. 投資事業有限責任組合の監査実施概要
  5. 誰に監査を依頼すべきか?
  6. 監査人変更をお考えの際には




1. 公認会計士による監査が必要となる法的根拠


投資事業有限責任組合は、「投資事業有限責任組合契約に関する法律 (以下「有責組合法」)」において、
無限責任組合員が、毎事業年度経過後3ヶ月以内に、その事業年度の貸借対照表、損益計算書及び業務報告書ならびに
これらの附属明細書を作成することが求めています(有責組合法8条1項)。
そして、これらの財務諸表ならびに業務報告書・附属明細書(会計に関する部分に限る)については、
公認会計士または監査法人の意見書が必要であるとされています(同法8条2項)。


2. 投資事業有限責任組合の会計


1). 有責組合会計規則

ほとんどの投資事業有限責任組合は、「中小企業等投資事業有限責任組合会計規則(以下「有責組合会計規則」)」に従って、
日常の会計処理を行うことになります。
有責組合法第8条1項に基づく財務諸表等に記載すべき事項を定められているのが、有責組合会計規則であり、
経済産業省中小企業庁より公示されています。

この有責組合会計規則の特徴は、以下のような点にあります。

 ① 投資額には時価を付すことが求められ、時価の評価方法は組合契約に定めるところによることが求められます。
    ただし、時価が取得価額を上回る場合には、取得価額による評価も妨げられていません(有責組合会計規則7条)。

 ② 貸借対照表は、資産の部、負債の部ならびに出資金の部が設けられます(有責組合会計規則5条)。
        なお、出資金の部は、受入出資金、繰越損益、当期損益、分配金累計額に区分されます(有責組合会計規則11条)

 ③ 損益計算書は、投資損益とその他損益に区分され、投資損益については、投資収益及び投資原価を適当な名称を付した科目で表示し、
        その差額として投資利益又は投資損失として記載する必要があります。
        ただし、投資売却損益を純額で表示することも妨げられていません(有責組合会計規則14条)。

 ④ 財産分配の対象となる純資産額は、投資有価証券の評価損益などの未実現利益をのぞかなければなりません。
        また、当該未実現利益の金額は注記することが求められます。(有責組合会計規則17条)。

2). 金融商品会計基準

有責組合会計規則は、投資額について時価による評価を認めながらも、時価が取得原価を上回る場合に、
取得原価による評価を認めているなど、わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準(金融商品会計基準)と、
規定が異なっているという問題点があります。

組合員が上場企業である場合や、上場企業のグループ会社である場合、当該企業が連結財務諸表を作成するに際して、
貸借対照表に計上されている投資額が時価で評価されていないファンドの財務諸表をとりこむことは非常に問題です。
したがって、投資事業有限責任組合の中には、組合員の便に資するため、有責組合会計規則とは別に、
金融商品会計基準に準拠した財務諸表を任意で作成しているケースがあります。

組合員が個人の投資家である場合などは、有責組合会計規則に基づいた財務諸表を作成しても、あまり問題はないかもしれませんが、
組合員として機関投資家や上場企業と関連を持つ法人などが名を連ねる場合は、金融商品会計基準に基づいた財務諸表を求めるケースも多いようです。
また、金融商品会計基準に準拠した財務諸表のほうが、ファンドの財政状態や運用成績などをより適切に示していることは明らかであります。
このようなことからも、金融商品会計基準に準拠した財務諸表を開示している投資事業有限責任組合は、決して少なくありません。

3). 経理業務を外注する場合

投資事業有限責任組合では、管理部門に多くの従業員を抱えるわけにはいかない事情もあるはずです。
したがって、日常の経理業務を会計事務所にアウトソーシングするといったことを検討している組合様も多いと思います。

その際に注意すべきであるのは、やはり税理士事務所ではなく、公認会計士事務所に業務を依頼したほうがよいという点です。
有責組合会計規則については、税理士資格しか有しない方であっても理解はできる内容的にも平易なものですが、
金融商品会計基準に基づいた経理業務を行うには、公認会計士でないと対応が難しいでしょう。
また、投資事業有限責任組合の財務諸表や業務報告書は、日本公認会計士協会から公表されている
「投資事業有限責任組合における会計処理及び監査上の取扱い」に記載されているひな形に基づいて作成すべきものになります。
公認会計士は、日常的にファンドやSPCなどの監査を通じて、この規定に精通している方が多いので、
そのような意味でも経理業務は公認会計士事務所に依頼をすべきでしょう。


3. 監査証明(監査法人の意見書)とは


そもそも、有責組合法8条2項では、財務諸表ならびに業務報告書・附属明細書(会計に関する部分に限る)について、
公認会計士または監査法人の意見書が必要とされることが規定されています。
具体的には、投資事業有限責任組合には、財務諸表等を主たる事務所に5年間備置することが求められますが、
これと一緒に公認会計士または監査法人から受領した監査報告書を保管することが求めれらます。

監査報告書の文例については、日本公認会計士協会から公表されている
「投資事業有限責任組合における会計処理及び監査上の取扱い」の中に記載されています。


4. 投資事業有限責任組合の監査実施概要


投資事業有限責任組合は、組織の性格上、通常の財務諸表監査とは異なる手続が行われることもあります。
以下では、投資事業有限責任組合の監査がどのように実施されるのかについて簡単に記載しています。

1). リスク評価手続

投資事業有限責任組合の監査において、監査人は下記の内容やリスクを慎重に判断したうえで監査業務を行うことが求められます。
したがって、監査人は、監査契約を締結する際などに、投資事業有限責任組合の担当者に対して、下記に関する質問などを行うことになります。

  • 投資事業自体にリスクがあるかどうか
  • 組合をとりまく市場環境の動向
  • 投資先の情報や成果をタイムリーに入手できるかどうか
  • 無限責任組合と有限責任組合に利益相反するようなケースがあるか
  • 有限責任組合員から過度なパフォーマンスが期待され、財務諸表を粉飾するリスクがあるか
  • 膨大な投資先を管理・評価する手続が整備されているか

2). 全般的な監査手続

監査人は、投資事業有限責任組合に関連する内部統制や、投資環境などを理解するため、以下のような手続を実施することが求められています。

  • 組合契約書等を入手し、担当者へ質問して組合の運営の概要、投資方針等を確かめる。
  • 出資・融資の状況(各組合員の出資割合、出資以外の資金調達の状況、資金の拠出者(実質的な資金の拠出者を含む。)の組合運営への関与の程度等)を把握する。
  • 組合契約の遵守状況を、関連資料の入手や質問等により確かめる。
  • 無限責任組合員の組合運営に関する諸資料を閲覧する。
  • 他の組合との分別管理・区分経理が適切になされていることを確かめる。
  • 出資金の払込み、分配及び追加出資について、組合契約への準拠性及び残高の妥当性を確かめる。
  • 組合と無限責任組合員との間の取引については関連資料等を閲覧し、組合契約に従い適切に処理、記帳されていることを確かめる。

3). 投資に関連する監査手続

投資に関連する監査手続は、投資事業有限責任組合において中心的なものになります。監査を担当する公認会計士は以下のような手続を実施します。

  • 投資実行に関する審査資料のほか関連資料等を閲覧し、所定の手続に従って投資が実行されていることを確かめる。
  • 投資の売却に関する帳簿・関連資料等を閲覧し、投資の売却が事実に基づき適切に処理、記帳されていることを確かめる。
  • 売買損益の会計処理の妥当性を確かめる。
  • 無限責任組合員が保管する有価証券は実査を行い、外部の保管先に預けてある有価証券は保管先に確認し、必要と認めた場合には実査を行う。
  • 投資償却損については関連資料を閲覧し、処理の妥当性を確かめる。

5. 誰に監査を依頼すべきか?


1). 投資事業有限責任組合の監査の特徴

投資事業有限責任組合は、一般に投資事業のみを行うことから、貸借対照表の借方科目の大半は、
現金や投資事業に関する有価証券や債権などの科目で占められることになります。
また、貸方科目は組合員からの出資によって大部分が占められることになるため、
計上される勘定科目は非常に少なく、事業会社の監査と比較すると監査にかかる工数は少なくなります。

また、監査業務も少数名の会計士によって行われることが一般的であり、監査法人であっても、通常は2名程度で組合様に現場往査することになります。
基本的には、1名が投資先の査定手続について検証を行い、もう1名がそれ以外の勘定科目について監査を行うという体制になると思われます。
関与する会計士のスタッフが多くなると、かえって業務が煩雑になり、決算を行う経理担当者の負担が大きくなるため、大人数で対応するようなことは稀です。

2). 監査法人と個人事務所の対応に違いはあるのか?

投資事業有限責任組合様の監査では、監査法人であろうと個人の公認会計士であろうと、
少数の公認会計士が業務に関与すること自体には変わりなく、監査法人に監査業務を依頼しなければいけない必然性など全くありません。
また、大手の監査法人だからと言って、監査のクオリティーが高まるかというと、それも正しいとはいえないでしょう。
大手監査法人の場合には、数千名の公認会計士を抱えています。
組合様が監査業務を大手監査法人に依頼したところで、どんな会計士が来るのかは未知数です。
また、大手監査法人において、優秀な公認会計士は超優良企業のクライアントの担当になることが多く、多額の監査報酬を支払えないクライアントには、
経験も少ない新人のような若いスタッフが割り当てられることも少なくなりません。
業界の基本的な知識から、組合の担当者が説明しなければならないことも、めずらしくありません。

以上からもわかるように、監査法人の対応と個人の会計士の対応に、実質的な差異はないのですが、
組合によっては、投資家サイドの意向で大手監査法人による監査を望まれている方も多いと思われます。
特に、大口の投資家が有限責任社員として関与している組合は、このような傾向が多いようです。
したがって、一概に個人の公認会計士に依頼することには注意が必要であると思われます。

3). 誰に監査を依頼すべきか?

投資事業有限責任組合の場合、業務を効率的に進める観点からは、監査法人での豊富な業務経験を有し、
単独で責任を負うことができる個人の公認会計士に監査を依頼したほうが望ましいと判断されます。
監査法人の場合、監査報告書に署名をするパートナーなどを含めると、関与する人数も多く意思決定に時間がかかりがちです。
しかも、監査責任を負うパートナーは、現場に顔を出すことも少ないので、円滑なコミュニケーションが期待できないケースもあります。

監査報酬の観点からは、やはり個人の会計士に監査を依頼することが得策でしょう。
それほど多くの公認会計士が業務に関与することはないので、関与人数も少ない分、報酬をリーズナブルな水準まで抑えることができる可能性も高いでしょう。

しかし、監査人の決定に際して、出資をする組合員の意向が無視できない場合には、これを尊重することも重要です。
特に、上場企業のグループ会社などの場合は、監査法人に監査を依頼することを望む傾向もあるので、留意が必要でしょう。
また、ファンドの規模や取引規模によっては、監査法人に業務を依頼するほうがよい場合もあります。
運用している資産や取引規模を考えて、監査人を決定する必要もあるでしょう。


6. 監査人変更をお考えの際には


弊事務所では、監査人変更に関するご相談もうかがっております。
やはり、最近では投資事業有限責任組合においても監査人を変更するケースが、めずらしくなくなってきたようです。
しかし、話を総合すると監査人の変更をお考えになる理由は

   1) 監査人(監査法人)に対する不満
   2) 監査コストの削減

の2点に集約されるようです。

まず、監査法人に対する不満ですが、具体的には

  • 法人内の審査会などでの検証が必要になるという理由で、会計上の判断に関する意思決定が非常に遅い。
  • 一度、打合せなどで決定した決め事が、審査会などで覆されることがある。
  • 対応するのは会計に関する相談のみで、その他の相談をしても回答してもらえない。
  • 監査責任者が、現場にまったく顔を出さない。

と言ったものが多いようです。

このような不満は、組合の資産規模を問わず、非常に多く寄せられていますが、
監査法人は、原則として無限責任を負うパートナーによって構成されるものであるため、
組織的かつ慎重な時間がかかる意思決定を行うことが必然的に求められるものです。
また、事務所内での業務も相当数にのぼるため、監査責任者が会社に顔を出すことが全くないということもめずらしくはないでしょう。

こういった不満は、公認会計士が個人で開業している事務所に依頼することで解決できるのでしょうか?

まず、監査証明書へのサインは単独で行うことが多いため、責任の所在は必然的に個人に帰属することになります。
意思決定が遅くなるということは非常に少なくなるでしょう。 
また、個人で開業している公認会計士は、事務所の経営者としての側面も持っています。
多岐にわたったアドバイスを受けることが可能でしょう。
なお、サービス業を行っているという意識から、現場にも頻繁に顔を出すことが多く
良好なコミュニケーションがとれていることが多いようです。

さらに、個人の会計事務所は比較的小規模に運営されていることが多く
大手監査法人と比較して、事務所賃貸料や人件費などの固定費が少なくなっています。
そのため、監査報酬についても柔軟な設定が可能となり
監査コストを削減する観点からも、個人の会計事務所に監査業務を依頼することには多くのメリットがあると考えられます。