SHIKATEBUKURO WAREHOUSE

Principal-in-charge : Fujino Takashi

Project team : Tsutsumi Yasuhiro Morita Tatsuya

Consultants : Suzuki Akira/ASA Takenaka Miho

Sign : Maniackers Design Sato Masayuki Sato Mami

General Contractor : Kenchikusha Shiki Inc.

Design : 2015.02 - 2016.07

Construction : 2016.07

Structural system : wood

Story : 2 stories

Total floor area : 68.91㎡

Program : restaurant+gallery

SHINKENCHIKU 2016.9

GA JAPAN 142

鹿手袋の蔵


担当 : 藤野高志 堤康浩 森田達也

構造設計 : 鈴木啓/ASA 竹中美穂

サイン : Maniackers Design 佐藤正幸 佐藤麻美

施工 : 建築舎四季

設計期間 : 2015.02 - 2016.07

竣工 : 2016.07

主体構造 : 木造

階数 : 地上2F

延床面積 : 68.91㎡

用途 : 飲食店+ギャラリー

新建築2016年9月号

GA JAPAN 142


開くことの連鎖

私が,この街区に関わりはじめて12年になる.かつては人通りも少ない地域だったが,この街区の建物や屋敷林が少しずつ整備されるにつれ,周囲の雰囲気も変化した.特に2年前に鹿手袋の長屋・離れが竣工してからは人通りが増え,散歩途中にこの地に立ち寄る人もいる.子どもたちが隣の公園に集まるようになり,今では賑やかな声が響いている. 建て主は,自ら街区に手を加えることで,変わりつつある人の流れを感じ取り,その連鎖の先に蔵の改修を位置付けた.蔵が存続するには,空間として生きている必要がある.保存対象としての延命ではなく,経済的に自立した生命力を得るために,倉庫の機能を人の居場所(カフェ+ギャラリー)へ変える決意をした.

時間と空間の生命力

空を見上げれば感じるように,空間はどこまでも広がり,時間はいつでも流れ続けている.建築が囲い取れるのは,膨大な時空間の流れのほんのひとしずくに過ぎない.

だが人は建築の時空間の中,例えば一条の光や崩れかけの土壁から,自分の辿り着けない場所や生まれる前の時代を思うことができる.時間と空間を超えていく想像の手がかりは,この蔵でも消したくないと思った.私がはじめて足を踏み入れた時から,この場所には周辺の雑踏とは違う空気があった.雑木林と蔵はどちらも江戸時代末期からの歴史を,その太い幹と分厚い土壁に蓄えている.ここに息づく想像の手がかりの均衡を崩さぬよう,既存を注意深く診断し,手当て箇所を見きわめ,無数の修復跡や風化を留めることにした.雑木林も蔵と等しく扱い,幹を柱,枝葉を屋根と捉えた.樹木下の「外土間」と蔵内部の「内土間」を合わせてひとつの主空間とし,明暗の境界を制御するための鉄扉を設けた.

人の居場所として,設備や電気や商業的な装備品が必要となるが,それらは蔵の純粋性を壊すものではなく,むしろ時代を超えていくのに不可欠な要素だと考えた.蔵と親和するものから対照的なものまで,幅を持ったさまざまな物が加われば,完結性が強い蔵を周辺環境へと緩やかに溶かして繋げ,未来にたくさんの可能性を残しておくことができる.装備品はやがて状況ともに移り変わり,空間的にも時間的にも接続と切断を繰り返すことで,蔵自体は守られ,生き続けるだろう.

蔵はこの地域に暮らす誰よりも歳を経ている.東京近郊の変化し続ける街のなかで,昔から変わらぬ存在は地域の財産だ.蔵と雑木林が,その姿を残しながら,これからは人を受け入れる場所になる.ここに宿る時間と空間が,遥かな想像を広げるきっかけとなればよい.