療養記(8) 


 

2006年5月31日水曜日
 近くの病室に昼夜関係なく「お〜い」と叫ぶ患者さんがおられた。5月15日に検査を受ける前の晩も、夜中に大きな声を出されるので、そのことを1時くらいに見回りにこられた杉山看護師にいったら「大丈夫、私が詰所に連れていったから」という返事があって、でも、何か夢の中でのことのような気がして翌日、中西さんにたずねたらたしかにそんなことがあったという。毎日、11時くらいに掃除にこられるおばさんがこの患者さんのことを話された。何日かの間、僕は調子がよくなくて部屋に入ってこられても、横になったままで話をすることもできなかったのだが、その日は僕が元気なのを見て話しかけてこられた。その時ちょうど大きな声が病室から聞こえてきた。
「あのおじいさんな、ベッドに縛られたはるんや。私を見て、そこにナイフがあるから…ないんですよ、そんなもの…ナイフで切ってくれって。でも、私は看護師じゃないから、できひんのや、ごめんな、といった。ようわかったはるんや」

 夜はちょっとかなわないなとは思ったが、困ったとは思ってない。煙草を吸いたいといって看護師さんたちを困らせている別の患者さんがある日、「夜、寝る前に「どうや?」っていいにきてや」といってられるのを聞いたことがある。頻繁になると看護師さんたちは困られるのだろうが、僕にもきてほしいという気持ちはよくわかる。何か力になれるとは思ったが、患者の立場では何もできなかった。拘束されているのも、その患者さんの身を守るためには必要な処置だったのだろう。僕だって看護師さんから見ればむずかしい患者だっただろう。初めてこられた看護師さんが、僕のことはカンファレンスで聞いて知っていたといってられたのを思い出した。一体、どんなことが話し合われたのだろうか、と気になった。

 まだ世間のペースについていけない。

 6月の最後の週に新しい本が書店に並ぶ。編集者から翻訳の進捗状況を問うメールがきた。

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