療養記(13) 


 

2006年6月9日金曜日
 退院後一週間は緊張して一生懸命だったのに次の週は茫然自失で過ごすことが多かった。今週は、力が出てきたのを感じる。粘り強く考えることが少しできるようになったように思う。

 どういうわけか昨夜はなかなか寝つけなかった。薬はいつもより早めに飲み、横になったのも早かったのだが。そのためもあって今日は疲れているようだ。昨日は長い時間、ドイツ語のテキストを読んでいたが、これは問題なかった。

 聖カタリナ女子高校での講義。今日は駅にタクシーが止まっていた。カタリナと娘が行っている生徒たちが山道を道いっぱいに歩いているところを後からタクシーが警笛を鳴らしながら通っていく。僕が乗っているのに気がついた生徒たちが、「あ、心理学の先生」と叫ぶ。名前憶えてね。今日は質問に答える前に講義をした。僕の前にすわっている生徒のノートがふと目に止まった。全部言葉を書き取っているのではないかと思うほどの量である。

 中井久夫は「根拠なき楽観的仮定であることはわかっているが」と断ってであるが、精神の病はほんとうは治りやすいものであって、ただ治癒を妨げる要因が数々あるために治らないのではないか、といっている。「患者とその家族とがかけがえのない生命を生きている限り、このように仮定してみることは無駄ではないのではないか」(「家族の深淵」『家族の深淵』所収、p.16)。いささか歯切れの悪い書き方をしているが、中井の断言することをためらう気持ちはわからないではない。「治りますか?」といわれた時に、自信たっぷりに「治ります」と断言するのは勇気がいる。しかし、このようにいい、患者及び家族が治ると思わなければ、その先の一歩を踏み出せないと思う。中井はまた精神の病は個人差があるとしても自然治癒力が大きい病だという。それならばなおさら「患者と家族の士気」を失われている場合は再建し、維持していかなければならない。 

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