『魂の文章術』(ナタリー・ゴールドバーグ) 


 

『魂の文章術 書くことから始めよう』(ナタリー・ゴールドバーグ、春秋社)は、入院していた時に読書を許可されて最初に読んだ本の中の一冊。実は、これは前に別名で出ていた本が改題、増補新装されて出版されたものだが、気がつかずに購入してしまった。エマニュエル・レヴィナスの『存在と無限』とともに入院の前日に買った。再読ではあったが、今回も楽しめてよかった。ハウツー本ではないのに(あるいは、ないので)読んでいるうちに自分でも早く書いてみたくなる。読み返さないでどんどん書く、書いたものを消さない、というあたりまえのようなことは書いてある。要は完全なものを書こうという意識から離れることが必要であるということだが、実際に書かなくても、本を読んでいるうちから書きたくなって、かつ書けるような気がするのが不思議。

 ところが困ったことに、病院では書きたい気持ちになったが、この本を読んだ時は、力がなくて少ししか書けなかった。コンピュータがまだ使えなくて、手書きだったことにも関係しているのだが、すぐに疲れてしまうのである。それでもノートとボールペンを持ってきてもらった時はうれしかった。なにしろICUにいた頃は絶対安静だったので書くことは許されなかったのである。安静にしていたら身体も衰えるが、ぼんやりしていると、脳の働きが低下するように思えた。心臓への負荷を思うと、危険なので止められているのはわかっていたが、せめて考えるのは止めないでおこうと、ICUにいた頃は短歌を作っていた。ところが覚えてられないのである。3つも作るとだめだった。それをようやく食事に添付される名前などを記した紙の裏に書けるようになったのは数日が経っていた。本を読むことを禁じられたら読みたくなるし、書けないとなると書きたくなるようだ。

 僕はこの本の中の書くこととは直接関係しない個所に印をつけている。バイク事故に遭った友人が幸い無傷だったことを後に聞いて、ゴールドバーグは次のように書いている。

「この知らせを聞いて私は身震いした。彼がこのとき死んでしまっていたら、私の人生は変わっていただろう。私たちは織物の糸のように互いに織り合わさり、それぞれの宇宙を作り合っている。誰かが死ねば、その影響はすべての人に及ぶ。私たちは自分だけのために生きているのではない。私たちは互いにつながっている」(pp.111-2)

 僕が死んでいたら残した人たちの世界はどうなっていたのだろう。 

魂の文章術―書くことから始めよう
魂の文章術―書くことから始めようナタリー ゴールドバーグ Natalie Goldberg 小谷 啓子

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