子どもと相談する


 

 街を歩いていると知っている人に会って声をかけられる。犬を連れての散歩なら問題ないが、一人で歩いていると、不審に思う人がないわけではない。

 保育園の頃から知っている友人に会った。もっともその人は自転車だったので、挨拶を交わしただけである。どうしてこんなところでこんな時間に、という表情が見えた。でも、呼び止めなかった。中学校を卒業してからはめったに会うことはなかったが、保育園で再会した。三人の子どもの母親になっていた。

 保育園では僕はよくお母さん方に呼び止められた。「最近うちの子の食が細いんだけどどうしたらいいですか」とかたずねられる。保育園で講演したことがあったから、相談にのっていることが知れわたっていたのである。

「お子様ランチ風にしたり工夫してるんですが」
「りんごをうさぎさんみたいにするとか」
「そう」
「大皿に盛ってみたら?」
 家族の食事がそれぞれの皿に盛ってあれば、子どもが食べなかったら気になるだろうと考えたのである。
「それでもしも子どもさんが親の分まで取り込んで食べようとしたら(食が細いということなので実際にはこんなことはないのだろうが)、ストップをかけてみて?」
 この助言にあわせて僕がいったのは、食事のこと以外の場面で子どもの適切な面に注目するということだった。食が細いということに目を奪われると、他のところに目が向けられてないのではないか、と思ったのである。
 数日後、このお母さんは子どもが食べるようになった、と喜んでくださった。
「でも、それだけではないのですよ。親子が仲良くなりました」
 仲良くなれたらそれがすべてある。

 さて、散歩の途上で会った友人がかつて保育園でもちかけたのは、子どもが保育園に送っていこうと思ってもぐずぐずいってなかなか出かけられないのだがどうしたらいいか、というものだった。
「それは一度子どもさんたちに相談してみたら?」
「え? そんなんいいの?」
 子どもに話をするのが一番早い、と思ったのである。
 次の日も、朝、保育園で会った。
「どうだった?」
「教えてもらったとおり、子どもに相談したよ。『朝、保育園に行く時間が遅くなって困っているのだけどどうしたらいい?』『そんなん、簡単や。朝、早く起きたらいい』それができないから困っているのに、と思ったけど、さらにたずねてみた。『じゃあ、朝早く起きるためにはどうしたらいい?』『前の晩、早く寝る!』たしかに子どもたちは夜、8時になったら寝てしまった。いつもは10時になっても11時になっても寝ないのに。それで、今朝は6時に起きてきて、いうの。『お母さん、早く学校行こう!』って」

 ついでながら、この母親は子どもに「なぜあなたは朝早くいけないの?」というようなたずね方をしていない。「なぜ」とたずねられても、その質問の意味を理解するのは、大人であっても容易ではないように思う。それに「なぜ〜しないの?」といういい方は質問ではなく、詰問であったり、非難であったりする。だから、そういう質問をするのではなく、ただ「どうしたらいい?」と質問しただけである。
 こんな話し合いができないということであれば、話し合いができる関係を築くことが先決だろう。
 その日、昼から彼女は僕のところにやってきた。一体、何が起こったのか、教えてほしい、と。 

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