投稿日: 2012/12/13 5:17:37
この研究では,国際公共財に対して各国が自発的な貢献を行っているような世界において,様々なタイプの(外生的な)技術進歩が,各国の厚生に対してどのような影響を及ぼすのかを分析しました。国際公共財とは,環境改善の努力や国際平和維持への貢献など,各国の努力が他国にも良い影響を及ぼすような財・サービスのことを言います。この論文が分析するのは,そのような地球環境問題に対して各国が自発的な(そして戦略的な)環境改善の努力を行っているような状況や,国際的なテロリズムに対して,各国が自発的な軍事的協力を行っている状況を想定しています。
さて,このような国際関係の中で,ある1国において,一般的な財の生産技術の進歩があった場合,自国や他国の経済厚生にどのような影響を及ぼすでしょうか。あるいは,ある1国において,公共財の生産技術の進歩があった場合,自国や他国の経済厚生にどのような影響を及ぼすでしょうか。また,全ての国の一般的な財の生産技術が同時的に向上したら,どうでしょうか.はたまた,全ての国において同時的に公共財の生産技術の向上が起こったらどうなるでしょうか?
一般的に『技術の進歩』と聞けば私たちは,社会全体が良くなるイメージを持ちます。しかしながら,国家がこのような公共財によって相互依存関係を持つ場合には,技術の進歩がいつでも良い結果をもたらすことは限らないことは,いくつかの先行研究*1 が明らかにしていました。私のこの研究では,上記のような様々な種類の技術進歩が,全ての国にとって良い結果をもたらすための条件を導きました。そこでは,一般の財と公共財との『消費関係』がポイントであることを明らかにしました。厳密に言えば,
「もし一般の財と公共財との関係が,(ある程度の)補完性*2 を持っているのならば,どのようなタイプの技術進歩であっても,パレート改善的(つまり,全ての国にとって良い結果をもたらす)になる」
というものです。逆にその関係が代替性を持つのであれば,例えば全ての国における同時的な一般的財の生産技術向上は,公共財の減少を通じて,全ての国にとって悪い結果をもたらしてしまう場合があります。また,ある1国における公共財供給技術の向上は,他国がその果実にただ乗りすることによって,その国にとって悪い結果をもたらしてしまう場合があります。
『国際公共財を自発的供給するような世界における技術進歩の評価は,消費関係に依存する』という定性的特徴を導きだしたこの論文は,国際学術雑誌 Journal of Economics に掲載されました。
(註1)例えば,Buchholz and Konrad (1994), Journal of Economics, や Ihori (1996), Journal of Public Economics などを参照してください。
(註2)みなさんがもし,手に入る財が安くなって与えられた予算のもとで多く消費できるようになったときに,より良い環境やより良い治安を求めるのであれば,それは補完的関係だと言えるでしょう。