第7回 御喜美江

アコーディオン-この場所の、この空気を、ともに呼吸する楽器と

2011年3月18日(金) 19:00開演
都合により、ゲスト出演予定の大田智美さんは柴崎和圭さんに変更となりました。悪しからずご了承のほどお願い申しあげます。

2011年3月14日 平河町ミュージックス実行委員会よりお知らせ

予定しておりました第7回公演は、ご来場の皆様にとって万全な状況での開催といたしたいとの観点から、中止といたしました。購入いただいたチケットは払い戻しをさせていただきます。詳細はこちらをご覧ください。

■ プログラム

アルネ・ノールへイム(1931-2010) 『フラッシング』(1987)
高橋悠治(1938-) 『谷間へおりてゆく』(1982)
高橋悠治(1938-) アコーディオン二重奏『雪・風・ラジオ』(2010)
柴崎和圭:2ndアコーディオン
~ 休憩 ~  
ジョン・ケージ(1912-1992) 『夢』(1948)
AYUO(1960-) 『ユーラシアン・タンゴ』より1番、2番、5番
ソフィア・グバイドゥーリナ(1931-) 『深き淵より』

御喜美江:アコーディオン



地平線の見える空間 ROGOBAへ 御喜美江

演奏家は自宅でこつこつ練習しコンサートのために仕上げた曲を、出来る限り響きの良いホールで聴衆に聴いてもらいたいと思っている。自分がお気に入りのホール、または音響で評判の良いホールの仕事が入ってくると、モチベーションはぐ~んと上がるし、準備にも気合が入るというものである。そんななか「東京・平河町にある高級インテリア・ショップでのコンサート」の問い合わせがあったとき、正直言ってモチベーションは上がらなかった。そのような場所でアコーディオンが響くとは思えないし、聴衆が近すぎるのも落ち着かない。どうしたものかと迷いつつ、しかし紹介者が私の恩人なので断ることも出来ずモタモタしているうちに、あれよあれよとマネージャーの機敏な設定が行なわれ、気がついた時には、そこ「ROGOBA」を訪れていた。

「ここで音楽会をする」という実感はすぐに沸かなかったけれど、店内に足を踏み入れた瞬間、そこに溢れるさわやかな光と色、そして美しい家具と織物になんともいえない快適な空気を感じ、さぞかし高価であろう椅子に座りながらお茶をいただいたあと、西川社長が熱心にキリムの話をされる頃から、私はだんだんとこの未知の世界へ惹きこまれていった。そしてさまざまな色と図柄のキリムを見せていただきながら、ここでは織物も家具も音楽も、人の目と耳を捉え、惹きつける瞬間、ひとつの生き物となるような気がしてきた。すると不思議なことに「この空間で弾いてみたい!」という曲目が次々と浮かんできたのだ。

尚、「ROGOBAとはどう意味ですか?」という私の拙い質問に、西川社長は力強く答えてくださった。「基礎となる色は赤(red)緑(green)青(blue)、形は○と□と△、目に見える物の基はこの6つだけです」と。その組み合わせがR○G□B△というわけで、それはなんと素晴らしい名前であろうと私は深く感動してしまった。

それから半年が過ぎ、あれこれと考えた末、次の6曲をプログラムに選んでみた。

まずはノルウェーの作曲界を代表する作曲家アルネ・ノールヘイムが1987年にオスロで書いたアコーディオンのための『フラッシング』。クラシック・アコーディオンでは左右で同じ高さの音が出せるが、ここでは右手の音だけが下へグリサンドし、そのずれから生じる微妙なサウンドが徐々に線となり形となり、やがて光となって激しくフラッシングしながら、再びもとの空間へ戻ってゆく。

光が消えていったあとに続くのは、高橋悠治作曲『谷間へおりてゆく』(1982)。これは高橋悠治がアコーディオンのために書いた第一作。「この楽器のためにあたたかい音楽を書いて欲しい」との願いに、作曲者が快く答えてくれて誕生したこの作品は、6つの小品からなる。はじめの4曲は絵を描くことで失語症から回復していく女性を描いた映画「みちこ」のための音楽を素材とし、後の2曲は独立して作曲されている。

第1曲 「みちこ」を発することで記憶の断片が呼び覚まされる。
第2曲 ネパールの女の歌。
第3曲 河原の散歩の場面。
第4曲 絵の中の塔のある風景。
第5曲 柴田南雄60歳のために書かれた作品。
第6曲 追放されたパレスチナの詩人の哀歌。

次は、高橋悠治が第一作目から28年後に書いた、アコーディオン二重奏のための『雪・風・ラジオ』(2010)共演は柴﨑和圭。以下、作曲者による曲目解説:

アコーディオン二重奏「雪/風/ラジオ」(2010)はロッコ・アンソニー・ジェリーの依頼で作曲した。ホワイト・ハウスの近くの教会で演奏するというので、ダイアン・ディ・プリマの反戦俳句にもとづく3楽章にした。プリマは1934年ニューヨークに生まれ、ビートニック運動に加わり、後サンフランシスコに移った女性詩人で、母性原理と仏教に関心をもっている。各楽章の演奏の前に詩を朗読することが望ましい。3楽章はヘリコプターの音とアフガニスタンのメロディーの変形。

高橋悠治

ダイアン・ディ・プリマ(高橋悠治訳)
革命書簡#86
アフガン戦争によせる俳句

1
山の子ら
小さな骨が
雪のなか

2
米袋
破れはためく
褪せたアメリカ印

3
[飛行機がトランジスタ・ラジオを投下する]
たべものか?
それがあたためて
くれようか?

第二部のはじめはジョン・ケージ作曲の『夢』。これは1948年ピアノのために作曲された作品とあり、すでに62年もの時間が経っているわけだが、いつ聴いても雰囲気は新しい。ゆるやかにルバートしつつ軌跡を描くメロディー、保続された音と途切れ途切れに重なるフレーズなどがハーモニーを生んで、まどろみ、夢想するがごとき音空間を創出する美しい作品。

AYUO作曲『ユーラシアン・タンゴ』は、ウイグル、カザフスタン、トルコなど中央アジアに存在するさまざまな音楽の要素や素材などを用いて書かれた、ジャンルも時代も超えて心に響く作品。今回はキリムの発祥地と位置を近くする音楽として是非とも演奏してみたいと思った。

プログラム最後は、タタールスタン共和国のチーストポリにタタール系の父親とロシア系の母親の間に生まれ、ロシアを代表する女流作曲家として「新しい波」を世界中に広めたソフィア・グバイドゥーリナの作品、バヤン(ロシア・アコーディオン)のための『深き淵より』。

尚、グバイドゥーリナはバヤンのために10曲近い作品を書いているが、『深き淵より(orig.:De Profundis)』はその第一作。曲名は旧約聖書詩篇130番の冒頭「主よ、私は深い淵よりあなたに呼ばわる」から取られている。詩篇の冒頭のイメージを喚起させる激しいジャバラ開閉による不協和音の推移に始まり、たゆたうような音程、クラスター、ロマンチックな悲歌、広範な音域を急速に走る連音符と続き、最後は息絶えるかのように終えられる。


■ プロフィール

御喜美江(みき・みえ アコーディオン奏者)

東京生まれ。4歳からアコーディオンに親しむ。16歳でドイツ・トロシンゲン市立音楽院へ留学。1973・1974年「クリンゲンタール国際アコーディオンコンクール」青年の部で連続優勝。同年「アヌシー国際アコーディオンコンテスト」二重奏の部で第1位。ハノーバー国立音大ピアノ科でベルンハルト・エーベルトに師事。ドイツを中心に活発な演奏活動を展開。1990年には1989年度ドイツ・ウェストファーレン州政府芸術奨励賞(音楽部門)をアコーディオン奏者として初めて受賞。

国内では、1977年に岩城宏之指揮・札幌交響楽団で日本デビュー。1987年にサントリーホール、および1988年にカザルスホールのオープニングシリーズでリサイタル。以来、毎年のようにリサイタル「御喜美江アコーディオン・ワークス」を続けており、バロック作品から彼女のために書かれた新作(その数は50以上)に至るまでの意欲的なプログラムが注目を集め、クラシック・アコーディオンの第一人者として幅広い支持を得ている。

CDでは「御喜美江アコーディオン・シーン」(フォンテック)、1997年に音楽の友社主宰レコード・アカデミー賞特別部門(日本人演奏)を受賞した「御喜美江アコーディオン・バッハ」(アイオロス)、「フランス・バロック集」「ドメニコ・スカルラッティソナタ集」「ソノリティズ~日本のアコーディオン作品」、ヴィオラの今井信子とのデュオ「時の深みへ」「涙のパヴァーヌ~アンティクティズ」(以上キング・インターナショナル)など、多数リリース。また自然体で綴られるブログも好評。現在、ドイツ・エッセンのフォルクヴァンク音楽大学アコーディオン科教授。

御喜美江オフィシャル・ブログ「道の途中で」



柴崎和圭(しばさき・わか アコーディオン奏者)

フォルクヴァンク音楽大学・アコーディオン教育学科にて御喜美江氏に師事。
卒業後、同大学芸術家コースにて、のちにデトモルト大学芸術家コースにて学び、'02年卒業。同年12月に帰国。滞独中、アーヘン市立音楽学校のアコーディオン科で教鞭をとる。
JAA第1回アコーディオンコンクール総合優勝。
現在、アコーディオン教育に情熱を注ぐ傍ら、ソロ活動の他、室内楽やオーケストラとの共演、オペラなどコンサート活動にも力を入れている。NPO法人日本アコーディオン協会(JAA)理事。