第73回
長崎原爆忌平和祈念俳句大会ご報告
第73回
長崎原爆忌平和祈念俳句大会ご報告
第73回長崎原爆忌平和祈念俳句大会は2026年7月26日に長崎原爆資料館平和学習室において無事開催することができました。 当日ご参加の皆様、投句を寄せていただいた皆様、大会運営にご協力いただいた皆様に心より御礼申し上げます。
さて、2024年3月に初めて10万人を割った被爆者数は、2025年3月にはさらに減少し9万1、105人となったと厚生労働省が発表しています。これは被爆者手帳を持っている人の数ということで、実際の被爆者の数とはやや異なる点もあるかと思われますが、その減少速度は同様であろうと考えます。核兵器廃絶を希求する各方面での運動は、被爆者のみならず支える人々の老化と減少により難しくなりつつあります。
その一方で、昨今、世界の権力者たちの振る舞いは節度を失って、最低限守られるはずだと思ってきた倫理や規範をあっけなく越えて、各地で戦争が行われています。ウクライナや中東では兵士、一般市民の区別なく多くの人々が命が奪われ続け、大きな世界大戦の反省のもと築かれたこの成熟した世界で、決して繰り返されることはないだろうと信じていた生命に対する蛮行が、小競り合いではなく相手をせん滅する意図と規模を持って繰り返されているのです。そんな世界の状況では、核兵器の使用が現実的な可能性として取りざたされこともあって、日に日に小さくなっていく被爆者の声に耳を傾け、「長崎を最後の被爆地に」という人類共通の願いを実現していくことが絶望的に困難だと思えてきます。
しかし、今年で73回を数えるこの長崎原爆忌平和記念大会には、一般句775句、中高生のジュニア句335句と、例年を上回る数の俳句が寄せられました。俳句は心もとないたった17音の小さなデバイスですが、この詩形をよりどころに被爆体験を継承し、あらたな記憶として更新していきたいと願っている人々がここに集います。俳句は極端に短い詩形ですが、だからこそごく個人的で、個人的だからこそ新鮮な、そして豊かな喚起力を持っていると信じます。個々の俳句の力は小さなものでしょうが、「核のない平和な世界」を実現していこうという多くの人々の願いといろいろな試みに、微力ながら連なっていけるのではないか思うのです。
2026年8月
長崎原爆忌平和祈念俳句大会事項委員会
会長 倉田明彦
大会次第
日時
2026年7月25日(土曜日)
午後1時開会 午後4時閉会
会場
長崎原爆資料館(平和学習室)
長崎市平野町7番8号
会次第
1.挨拶
2.講演「平和憲法の現状と課題」
講師 井田洋子先生
(長崎大学経済学部教授)
3.当日句会(投句締切 午後1時)
4.入賞作品合評会
5.表彰
演者紹介
井田洋子氏プロフィール
愛媛県出身。関西学院大学法学部立法学科卒業後、神戸大学法学研究科博士前期課程修了。専門は憲法学。研究分野は政教分離・国家論。
現在は長崎大学経済学部長。
大会選者(敬称略・一部交渉中)
有村王志 安西篤 飯田史朗 上地安智 岡田耕治 片山亀夫 加藤知子
川崎雅典 高岡修 高野ムツオ 田中陽 中村重義 原雅子 深野敦子 福本弘明 藤野律子 前川弘明 松本勇二 光永忠夫 宮坂静生 武藤紀子
大会大賞
書いて描いて語っては泣いて長崎忌 友永基美子(福岡)
長崎県知事賞
ケロイドの汗なき父の肩車 牛飼瑞栄 (長崎)
長崎県議会議長賞
曲がる背ナ曲がらぬ心原爆忌 川崎益太郎(広島)
長崎県教育長賞
十一時二分その鋭角よ蝉しぐれ 北辻千展(大阪)
長崎新聞社賞
生きのびてよりの戦ひ長崎忌 黒石慶子(長崎)
現代俳句協会賞
語り部を光がつつむ長崎忌 黒木成剛(茨城)
新俳句人連盟会賞
未来捨てますか原爆捨てますか 江良 修(長崎)
西九州現代俳句協会
ちちを待つ母の八月十五日 末田 洋(長崎)
長崎平和推進協会賞
薄れゆく人影石や夏の果 田中白秋(京都)
優秀賞
古本を十字に縛る長崎忌 千葉信子(千葉)
優秀賞
唐突に笛吹く薬缶原爆忌 髙永久子(長崎)
優秀賞
ありふれた九日でよし長崎忌 中嶋重利(福岡)
大会大賞
爆心地通学路なり蝉しぐれ
若松宏洋(長崎南山高等学校2年)
長崎市長賞
原爆忌何も映らぬアイパッド
伊東光波(長崎海星高等学校1年)
長崎市議会議長賞
バッタ飛ぶ飛んだ先には防空壕
山口万舟(精道三川台高等学校1年)
長崎市教育長賞
語り部も時に流され原爆忌
佐藤陽源(精道三川台高等学校1年)
長崎新聞社賞
風鈴やどこの国でも同じ音
富田海斗(精道三川台高等学校2年)
長崎県文芸協会長賞
点々と影を置きゆく夏の蝶
溝邊創吾(長崎南山高等学校2年)
長崎の証言の会賞
年表の平和を刻む原爆忌
大蔵力友(埼玉県立狭山緑陰高等学校定時制3年次)
長崎如己の会賞
折り鶴や動くこの手のある限り
太田燈惟(長崎県立佐世保北高等学校3年)
長崎県被爆者手帳友の会賞
原爆忌今日も明日も歩く人
山口桔平(長崎海星高等学校1年)
優秀賞
夏の空むかえるはずの明日の朝
鳥居旺真(精道三川台高等学校2年)
原爆樹今年も蝉の声あふれ
馬場響輝(長崎南山高等学校2年)
優良賞・長崎キワニスクラブ賞
長崎忌色が変わった夏休み
中村綾太郎(長崎海星高等学校1年)
夏風の残り続ける防空壕
森田大地(精道三川台高等学校1年)
原爆忌路面電車に揺れる夏
廣瀬颯太郎(長崎南山高等学校2年)
忘却の速さ夏霧ぐんぐんと
溝邊創吾(長崎南山高等学校2年)
晴天の下の硝子や原爆忌
伊藤心結(埼玉県立狭山緑陰高等学校定時制2年次)
佳作賞
残る影語らぬ記憶原爆忌
野口諒翔(長崎南山高等学校2年)
原爆忌知らぬ子たちの水遊び
松尾悠汰(長崎南山高等学校2年)
コンパスのはりがこわれた長崎忌
野上翔琉(埼玉県立狭山緑陰高等学校定時制2年次)
大会大賞
身の内の平和の虫の騒ぐ夏 馬津川ゆり(長崎市)
準大賞
戦なき国譲りたし夏木立 溝上慶子(長与町)
優秀賞
平和像へまっすぐ進む被爆の日 前川弘明(長崎市)
優良賞
昼死ぬと思わぬ朝長崎忌 松田紀子(長与町)
実行委員会賞
被爆樹の影が地を這ふ炎暑かな 牛飼瑞栄(佐世保市)
炎昼へ出づ細腕を櫂にして 川崎あてね(長崎市)
かろやかに老い空蝉にならんとす 藤野律子(長崎市)
亡き子らと千羽鶴折る日の盛 田中白秋(京都市)
たたかいはすぐ近くあり天の川 中山朝子(時津町)
人まばゆい爆心地の炎天 江良 修 (長崎市)
第73回長崎原爆忌平和祈念俳句大会は2026年(令和8)7月25日(土曜日)、長崎原爆資料館平和学習室において開催された。
連日気温35度近い酷暑の中、県外(京都、広島、福岡)も含め、41名(一般40名、ジュニア1名)の参会であった。
13時、馬津川ゆり事務局長の司会により開会。まず、原爆犠牲者と世界中で起きている戦争や紛争による犠牲者のため、また、5月6日に逝去された当会顧問の横山哲夫氏のご冥福を祈り、黙祷を捧げた。
倉田明彦会長の開会挨拶に続いて、来賓の福本弘明氏(福岡県現代俳句協会会長)、前川弘明氏(西九州現代俳句協会会長)、藤野律子氏(咲の会)が紹介された。
続いて、長崎大学教育学部教授の井田洋子氏による記念講演「平和憲法をめぐる現状と課題」がおこなわれた。配布されたレジュメに沿って、日本国憲法の根底に流れている平和主義について解説された。とくに、憲法九条は「正しい戦争」という概念の否定であるという講義に、戦争の当事者たちが口にする「正義」の危うさを考えさせられた。最後に政府や権力者の言説を鵜のみにせず、自ら客観的かつ多角的に考える姿勢を身に付けることの大切さ、批判的精神の会得が必要であると力説された。
講演終了後、25分の休憩を取り、この間に当日句の選句を実行委員と選句依頼者(来賓)16人でおこなった。続いて入賞句紹介に移った。
募集句・一般の部の受賞句紹介は、実行委員の江良修氏の司会で進められた。大会大賞は友永基美子氏の「書いて描いて語っては泣いて長崎忌」。福岡から参加され、被爆した兄の介護体験に基づいた深いお話を聞くことができた。「まだ90歳、黙っては死ねません。」との力強い言葉に、会場は感動に包まれた。他県の方の受賞も多く、平和への関心の高さが伺えた。
募集句・ジュニアの部は、倉田明彦会長による司会進行。今年は中・高校生の部活動の大会などの行事が重なり、参会は1人であった。「折り鶴や動くこの手のある限り」で長崎如己の会賞を受賞した長崎県立佐世保北高等学校三年太田燈惟さんの立派な挨拶と深く優しい考えに、若者たちの未来への頼もしさを感じた。
続いて当日句の選は、実行委員の團俊晴氏が司会を担当。当日句34句の中から大賞他入選10句が選ばれた。上位3句は同点の接戦となるが、大会規定により特選点、投句順を勘案し、馬津川ゆり氏の「身の内の平和の虫が騒ぐ夏」が大賞受賞。溝上慶子氏は準大賞、前川弘明氏は優秀賞の受賞となった。やはり夏になると、いつも以上に平和を深く意識せざるを得ないのは誰もが感じることではないだろうか。受賞者には一言ずつコメントをいただいた。
馬津川事務局長からすべての部門が発表され、来場者には倉田会長より表彰楯が授与された。各人から受賞の喜びが語られ、会場は温かい拍手に包まれた。
塩崎みちえ実行委員から平和を祈念する閉会の挨拶があり、第73回長崎原爆忌平和祈念俳句大会を締めくくった。
今年も作品を寄せて下さった皆さま、またご多用にもかかわらず選句にあたって下さった選者の皆様に深く感謝申し上げます。また講演をしていただいた井田洋子先生が最後まで在席され、本大会を見守ってくださったことに感謝します。世界にはいまだ戦争、紛争の火種が燃え続けています。戦争を知らない世代が増えても、反戦、反核の意志は変わることはありません。平和希求の思いを句に詠んで参りましょう。この大会が永く続いていきますよう願っております。
来年もまた皆様からの作品を心からお待ち申し上げます。
実行委員 松田紀子
会長=倉田明彦
委員=江良修 梶原郁穂 北辻千展 坂本しのぶ 坂田みどり
塩﨑みちえ 團俊晴 松田紀子 溝上慶子
事務局長=馬津川ゆり