リーマンショック後のボーナスが語る“不気味な真実” 「日本人“総低年収化”の時代」がやって来る!

2011/07/14 23:27 に 小林哲也 が投稿   [ 2011/07/14 23:29 に更新しました ]

 待ちに待った夏のボーナスが出た。使い道について、あれこれ楽しく思いを巡らせている人も多いことだろう。だが、その一方で「もともとボーナスなんかないし…」「制度はあるけど、出なかったし…」という人もいる。

 じわじわと広がっているように見える「ボーナス格差」。だが、その裏ではもっと不気味な現象が進行しているようだ。さて、その現象とは――?賃金・人事コンサルタントで北見式賃金研究所の代表を務める北見昌朗さんに話を聞いてみた。

今回のお題 
「今後、ボーナスがアテにできない世の中になったら……耐える?攻める?」

新人にも6月から支給!
削減傾向とはいえ、厚遇な公務員のボーナス

北見昌朗(きたみまさお)さん
北見式賃金研究所所長。給与コンサルタント。社会保険労務士。経済記者を経て、平成7年に独立。モットーは「社員あっての会社 会社あっての社長 社長あっての社員!」。「消えた年収」(文藝春秋)など著書多数。名古屋市出身

 「信じられない。ボーナスも出ない会社に勤めているなんて……」。

 山崎愛美さん(仮名・31歳)は最近付き合い始めた彼氏と、かなりうまく行っていた。結婚も真剣に考えていたらしい。ところが、つい先日彼に「ボーナスいくら出た?」と聞いたところ、「今年は出なかったよ」という返事が――。

 母親にそのことを話すと「そんな人と付き合うのはやめなさい、結婚してボーナスが出なかったらマンションだって買えないじゃないの!」と交際を反対されたという。

 経団連の発表を見る限りは、2011年夏のボーナスはおおむね「太っ腹傾向」のようだ。大手企業120社の今夏の平均妥結額は79万3457円。前年を上回る結果となった。震災の影響がもろに出るのは今年冬からの見通し、というのが大方の見方だ。

 その一方で、雀の涙しかもらえない人や、まったく支給されなかった、という人も。筆者などもフリーランスなので、バーゲンにも行けない悲惨な有様である。

 会社によって大きな差がつきやすいボーナスだが、一方で官民の格差もある。

 北見さんはこんな話をしてくれた。

 「会社ではボーナスを『賞与』と呼びますけど、公務員の間では『期末・勤勉手当』と呼ばれる。会社員の場合と違い、彼らのボーナスは給与の一部としてしっかり保証されています。

 また、公務員の場合、4月に入ったばかりの新人でも6月にはばっちりボーナスが支給されます。これに対し、大企業の新人は入社年の夏のボーナスはゼロで、冬から出る。一方、中小企業の場合は夏、冬ともに出ません。翌年夏から支給されます」

 なにしろ中小企業の経営実態は依然苦しい。東京商工リサーチの調べでは、今年5月、6月の企業倒産件数は2ヵ月連続で前年を上回った。「ボーナスどころじゃない」という会社も相当あることだろう。その実態は、経団連の統計には一切反映されていない。

 さらに言えば、「そもそもボーナスをもらえない」という非正規労働者の割合も多い。厚生労働省の平成21年若年者雇用実態調査によると、全労働者 に占める若年労働者(15~34歳)の割合は32.9%。このうち21.1%が正社員で、非正社員はその半数以上の11.7%に及んでいる。

 会社によって差が生じるのはある意味しかたがないが、これまでのような公務員の優遇ぶりや、正社員と非正規社員の待遇の違いはフェアとは言えないだろう。

 公務員、大企業社員、中小企業社員、そして非正規社員――ボーナスをめぐる待遇差は、どんどん開いているのではないだろうか。そんな「ボーナス格差社会」で負け組になれば、冒頭の彼のように恋人に逃げられてしまうことだってありうる。

20年間で30兆円の給料が消えた!
「低年収社会」に突入した日本

 ところが北見さんに聞いてみたところ、意外にもこんな答えが返ってきた。

 「ボーナスや年収の変化を見る限り、日本はけっして格差社会になったわけではないんですよ」

 いったいどういうことなのか。

 北見さんは有志のネットワークを通じ、毎年、じつに数万人分もの給与明細を集めている。これをもとに独自の給与統計を作成しているそうだ。その名も「ズバリ!実在賃金」。東京や大阪、愛知など、全国の都市のデータを網羅している。

 統計を分析する際は、平均値ではなく、「分布」や、すべてのデータを並べたときど真ん中に来る「中央値」を見るという。高額な給与を得ている人がいると、平均値は上の方へ引っ張られ、正確な実態を映し出さなくなるからだ。

 この統計を使い、ボーナスの分布をリーマンショックの前と後で比較したところ、なんとも不気味な事実が浮かび上がってきたという。「愛知版のデータを見てみてください。夏と冬のボーナスの合計を見ると、リーマンショック前は年間300万円もらっていた管理職が10%以上いた。ところがリーマン後は2%にまで下がっていますよね。

 一方、60万円未満という人は、以前は7%だったのが14%と倍増。90万円未満も12%だったのが、18%に増えた。つまり、高額なボーナスをもらっていた人のシェアが落ちて、より少額の人がガーンと増えているってことなんですよ」

 ボーナス格差が開いたわけではなく、全体的に支給額が下がっているというのだ。ちょっと意外な話だが、年収全体ではどうなのだろう?

 北見さんが、年代や階層ごとにリーマンショック前後の年収を比べたところ、グラフはみな同じ傾向を示していた。どれも年収の低い層が増え、高い層が減っていたのだ。

 たとえば30代一般男子の年収を見ると600万円未満の人は28%から19%に減った。かたや400万円未満の人は15%から29%に跳ね上がっている。愛知県で働く30代の一般男性社員は、3人に1人が年収300万円台以下になってしまったのだ。

 「低年収層が増え、高年収層が減ったということは、全体が低年収化しているということ。つまり日本は格差社会になったのではない。リーマンショックをきっかけに『低年収社会』に突入したのです」。

 さらに、働く人びと全体の給与合計の推移を追うと、とんでもないことがわかった。

 1998年、働く人々全体の給与は222兆円だった。それが2009年には192兆円にまで落ち込んでいたのだ。この10年余りの間に日本人は30兆円もの給与を失ったことになる。30兆円と言えば、経済破綻した当時のギリシアのGDPと同じ規模だ。

50代になっても年収500万円に届かず…
社会保障制度の前提崩れる

 ショッキングなのは50代一般男性社員の年収中央値だ。

 「530万3000円から480万7000円とおよそ51万円減っている。ついこの間まで、大都市圏に勤務する50代男性は、一般社員であっても年収500万円はなんとか確保できていた。ところがリーマンショック以後は、ついにその水準を切ってしまったんですよ」

 50代といえば子どもの教育費もかさみ、一家の大黒柱として負担がずっしりと重くなる頃だ。そんな世代の年収が500万円を切る……。考えただけでもしんどそうだが、問題は家計のやりくりだけにとどまらない。

 北見さんの見方はこうだ。

 日本の社会保障制度は「有業者の夫と専業主婦の妻と2人の子ども」という標準モデル世帯を前提に成り立っている。夫の年収として想定されているのが500万円だ。

 しかし、財源となるべき人々の収入は、想定した金額を下回るようになってしまった。今後、現行の社会保障制度を維持するのはますます難しくなるだ ろう。ちなみに、愛知のみならず、東京や大阪でも50代一般職男性の年収中央値は500万円を切っているそうだ。その他の地方都市ではすでに400万円未 満というところも増えている。

インド人労働者が1.1億人増える!?
「割高」な日本人と膨れ上がるアジアの労働人口

 消えた年収と賞与はいったいどこへ行ってしまったのか?北見さんは「中国が富を吸い取った」と考えている。

 知っての通り失われた10年の間に、企業は生産拠点を人件費の安い中国へ移した。安い人件費で作った安価なメイドインチャイナ製品は、大量に日本 に流れ込んだ。おかげで企業の売上が減り、給料も下がる、という現象が生じている。この「中国発デフレスパイラル」のおかげで、日本人の収入は急速に減っ てしまったのだ。

 さらに襲ったリーマンショックで国内市場の冷え込みはより深刻化する。日本国内の事業を縮小し、アジアに人、モノ、金を注ぎ込む企業が続出した。 こうして30兆円もの日本人の給料があとかたもなく消えていったのである。すべての発端はグローバル化と、そして日本人の人件費の高さだったといってい い。

 ところで、ボーナスはそもそもどうして生まれたのだろう?北見さんは次のように説明する。

 「戦前の職工たちは、盆と正月休みのときに家への土産費用として餅代と称する小遣いをもらった。これがボーナスの原型です。戦後、職工の正社員化 がおこなわれ、日当は月給に、餅代はボーナスになりました。会社側からすれば、賞与を出すことはある意味で都合がよかった。給与は業績が悪くても簡単に減 給できないが、その分、賞与で調整できるからです」

 とはいえ、年2回支給することが決まっている賞与制度は日本独特のものという。海外では、増益の際に支給される特別手当などが一般的だ。

 かたや人材のグローバル化は急激に進んでいる。ILOの発表によれば、今後10年の間にインド人の労働人口は1.1億人増大するそうだ。「安い人 件費で戦う外国人」vs.「何かとお金のかかる日本人」。世界全体から見れば、ボーナスの存在自体が「日本人の割高感」につながっているのかもしれない。

 私たちにとって、結婚資金や住宅ローンの返済、教育費用などに充てる大切な資金だったボーナス。それは会社から社員に向けた「あなたの未来の幸せを約束しますよ」というメッセージだったのだろう。

 しかし、今やかつてのように一生、高額のボーナスをもらえるとは限らない時代だ。「未来の幸せがもれなくついてくる仕事」は望めなくなった。

 日本人は今後、会社に頼らず、未来の幸せを自分でつかむべきなのだろうか?

 それとも華やかな結婚式や住宅購入といった、従来の成功や幸せの定義を見直すべきなのだろうか?

「金型の受注が増えてきた…?」
中国人の給与が上がると日本にチャンスが戻る!

 そんな時代に襲った、今回の震災。夏のボーナスには大きな影響が出なかったところも、今冬以降はわからない。ここのままでは「ボーナスゼロ」、あ るいは「1ヵ月分未満」という会社はもっと増えるのではないか――。思わず暗澹としてしまう北見さんの話だったが、最後に少し明るいニュースを教えてくれ た。

 「最近、あちこちの金型工場で、一度なくなった仕事がまた舞い戻りつつあるんですよ。中国の人件費が高くなってきていて、日本の工場に発注するのとそう大差がなくなっているらしい」

 この現象はまもなくあちこちの業界で見られるようになるのではないか、と彼は言う。もちろん、そうなれば今起きている「中国発デフレ」は、「中国発インフレ」に変わるだろう。我々の暮らしはますます厳しくなるに違いない。

 しかし、中国をはじめアジアとの賃金格差が縮まることにより、仕事は再び日本に戻ってくるのではないか――と北見さんは読んでいる。中国が第12次五ヵ年計画で、国民所得の倍増を目指していることを考えれば、それは遠い将来ではない。

 いずれにせよ、今後数年間が一番キツイ上り坂になりそうだ。

 さて今後、「一億総“低所得化”」が進むかもしれないこれからの日本社会。

 あなたなら、中国人やインド人に負けないグローバル人材となって、豊かな将来をつかみますか?それとも、低成長時代にふさわしい、身の丈にあった暮らし方を選びますか?

2011.07.15 ダイヤモンドオンライン
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