派遣も年収200万円層も「夢のマイホーム」を持てる!? “空き家大国”ニッポンで家を買う「可能性」と「危険性」

2011/07/14 23:39 に 小林哲也 が投稿   [ 2011/07/14 23:42 に更新しました ]

 総務省「住宅・土地統計調査」(2008年)によれば、今や全国の空き家率は13.1%。8軒に1軒は空き家という、世界でも突出した「空き家大国」であることがわかった。一方、新築住宅の着工戸数は毎月6~7万戸にのぼる。

 だが、住宅余りの時代にもかかわらず、そうやすやすとマイホームは手に入らないのが現実。先行き不透明というのに、はたして重い住宅ローンに耐えられるのだろうか……?

――この連載では、震災後の“問題の現場”を知る2人のインタビュイーが登場。それぞれの立場から混迷期のサバイバル術を語ってもらう。第4回目のテーマは「家」。パラダイムシフトの時代、私たちは住宅についてどう考えるべきなのだろうか。

「色眼鏡を捨てる」 榊マンション市場研究所 榊淳司さんの話

中国人富豪たちが
タワーマンションから逃げ出す

榊淳司さん 同志社大学法学部、慶應義塾大学文学部卒業。不動産広告、販売戦略立案の現場に20年以上携わる。2008年、榊マンション市場研究所を設立。著書に『年収200万円からのマイホーム戦略』

 ベイエリアのタワーマンションから、中国人が次々に逃げ出している――。

 こう打ち明けるのは、住宅ジャーナリストで「榊マンション市場研究所」榊淳司さん。購入を申し込んだばかりの中国人も、支払った手付金を断念し、キャンセルしているという。

 震災直後、エレベータがストップするなどし、多くのタワーマンション入居者が「高層難民」と化したのは周知の通り。さらに液状化への懸念とあい まって、従来の湾岸タワーマンションの人気にはかげりも生まれた。だが、関係者が気に病んでいるのは、国内の風評問題ばかりではなかったのだ。

 住宅価格はバブル崩壊後、下落し続け、2002年に底を打った。その後いったん回復し、2007年にピークを迎えて、再び下落傾向に。光明は「チャイナマネーの流入」だった。

 「中国には土地の私有制度がないこともあり、日本の不動産は彼らにとってうってつけの投資対象でした。利回り(投資した元本に対する収益の割合) は、さほど高くないが安定しており、担保価値が高い。ある物件の上層階では、中国人オーナーが2ケタに達していたそうです」(榊さん)

 中国でもタワーマンションは大人気という。高層階の物件は、彼らにとって成功のシンボルにほかならないのだろう。

 「ですが、せっかく抱いた期待も、3.11によりあっけなく消えてしまった。今後、タワーマンション人気が以前と同じレベルに復活することはほぼ ないのでは。造りは頑丈なので、地震で倒壊することは考えられませんが、高層階の揺れというのはかなりのもの。もちろん、高いところが好きな人々にとって はあいかわらず魅力的と思いますが」

 不動産経済研究所の調べによると、2011年以降完成予定のものは全国で10.6万戸と、前年調査(2010年)を2万戸以上も上回る。一方、競 売物件情報を見れば、東京湾に面した築3年と真新しい58階建てマンションや、横浜元町というお洒落なエリアに建つ25建てマンションなどもちらほら。

 「一般的にはまだ割高感のあるタワーマンションですが、長い目で見れば、今後、価格は下がっていくのでは」と榊さんは予測する。

「バーキンの次はマンション」
家が“成功アイテム”だった時代

 ごく最近まで、タワーマンションは日本人にとっても「勝ち組」の象徴だった。

 ミニバブルに湧いた2007年。この年、筆者は建設ラッシュに湧くタワーマンションの市況を取材したことがある。あるデベロッパーは「昔は出世す ると山の手の広い庭付き一戸建てを買ったものでしたが、今は違う。高層階から夜景を眺めつつ成功を噛みしめたい、という方が結構おられるんですよ」と相好 を崩した。

 東京都港区にあるタワーマンションを購入した、33歳の女性起業家にも話を聞いた。75平米で価格は5300万円。32階というだけあり、日当たりと眺望は最高という。

 「購入の動機はエルメスのバーキンを手に入れたこと。バーキンにふさわしく、都心のタワーマンションに住みたかったんです」

 その言葉が、悪戯っぽい笑顔とともに今も印象に残っている。

 「バーキンの次はマンション」。

 新興中国人と同様、ブランドや住宅は、日本人にとっても長らく「わかりやすい成功アイテム」だった。だが、ミニバブルは終わりを告げ、日本はその 後、未曾有の大不況に見舞われる。そして襲った今回の災害。これからの時代、私たちは「住宅購入」についてどう考えればいいのだろう。

非正規社員も低年収層も
一戸建てが買える時代に!?

 家はもはや、「成功アイテム」などではない――。榊さんの話は、要するにそういうことだった。

 「今や国内で800万戸近い住宅が余っている状態。一方、人口は減る一方です。需要が供給を上回るとは考えにくく、不動産価格の上昇は見込めない。つまり将来的な資産価値は期待できないということです」

 したがって、売却や賃貸運用する際のことなど考える必要はない、という。

 「資産価値」などより、あくまで「自分たちにとって住みやすいかどうか」という「使用価値」だけを考えればいい。そうすれば選択肢はおのずと広がり、わざわざ高額ローンを組んで人気エリアの物件を購入する必要はなくなる、という。

 また、住宅の資産価値が下がる時代とは、「誰もが家を持てる時代」でもある。

 「年収200万円台でも、あるいは非正規社員でも、その気になれば一戸建てが持てる時代なのです」と榊さん。

意外に耐久性の高い
「団地」には掘り出し物も

 狙い目は中古住宅だ。

 「まず、郊外を中心にあたってみましょう。通勤圏内でも1000万円以下という低額物件がゴロゴロしています。注目すべきは「団地」。200~300万円台くらいのものも少なくなく、人気エリアのものでも1000万円台前半など、掘り出し物が眠っているはず。

 築年数が古いと耐久性が気になるところですが、30、40年前の団地は、基礎や躯体をかなりしっかりと造っているんですよ。というのも、昔の公団は日本の住宅をリードするという誇り高き存在だったため、採算を度外視して建てたものが多いんです」

 あくまで都心にこだわるなら、震災後、人気が集中している世田谷区を探してみてもいい。とくに旧山の手は地盤がしっかりしているエリアが多く、中古住宅も豊富。探せば手ごろな物件がいくらでもある、という。

 たしかにYahoo!不動産で検索してみると、「千歳船橋駅徒歩6分/3DK/62.13m2 /2880万円 」という物件や、「経堂駅徒歩13分/3DK/ 62.13m2/2920万円」といった魅力的な物件がヒットする。「つい数年前までは少なくともこの1.3倍くらいの値段がついていたんですけどね」(榊さん)。

 また、ワンルームマンションで暮らしている独身者なら、「当面、独り暮らしを続けるなら、中古のワンルームを買うほうが安上がり。500~600万円程度の物件なら、6、7年で元が取れるのでは」と話す。

 問題はローンだ。榊さんのお勧めは「フラット35」。ただし返済期間は最長10年まで。10年後にはローンの残債が資産価値を上回る可能性もあるからだ。

 「急いで探す必要はありません。不動産価格はまだ下落傾向にあるので、1、2年かけてゆっくり選べばいいのでは」

 「高みの見物をしながら成功を噛みしめる」なんてことは無理としても、ちょっと視点を変えれば、そこらじゅうに住宅は余っており、それこそ「より どりみどりの時代」ともいえる。要は、「家は成功アイテムなどではなく、住むための実用品にすぎない」と思い切ればいいのである。

「持たない」 企業改革コンサルタント・不動産投資家 石川貴康さんの話

「一生かけてローン返済」に潜む危険

石川貴康さん 早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、筑波大学大学院経営学修士。現アクセンチュア、日本総合研究所などを経て独立、企業改革コンサルタントに。不動産投資家の顔も持つ。著書に『サラリーマンは自宅を買うな』

 コンサルタントで不動産投資家の石川貴康さんは、「サラリーマンは自宅を買うべきではない」と考えている。

 「多くの人は、よく考えもせずに自宅購入に踏み切ってしまう。話を聞くと、『周りが買っているから』『今の給料ならローンを払えそうだから』『融資が下りそうだから』とか、だいたいそんな理由です。

 たしかに昔から、いい年をして家も買えないと、『うだつが上がらない』などと言われたりしたものでした。しかし、資産を持たないサラリーマンが自 宅を買えたのは、経済成長のおかげで日本人がみんな金持ちになった時代の話。今となっては、家を買うということは大きなリスクを背負うことにほかなりませ ん」

 具体的に、どんなリスクが想定されるのだろう。

「まず、『天災』という自分ではどうしようもないリスク。今回の地震や津波で自宅を失った人々の中には、住むところもないのに住宅ローンを支払い続けなければならない方もいる。35年ローンを組んだ後、自分が絶対、天災に遭わないと言い切れる人はいないでしょう。

 次に『機会損失』というリスク。長期のローンを背負ったばかりに、起業や転職、留学などのチャンスをあきらめてしまうケースもあるにちがいありま せん。ローンの返済のために働き続け、自由を失うことが自分にとって幸せなのかどうか。購入に踏み切る前に、よく考えるべきでは」と石川さん。

 収入不安が大きい時代だけに、ほかにもさまざまなリスクが考えられる。野村総研の調べによると、収入に占めるローン返済負担率は、1985年には 12%だったが、2007年には16%。「可処分所得に占める割合は20%に達している」と指摘する識者もいる。また、「将来の所得の増減を考えたとき、 住宅の維持・取得に不安を感じる」という人は68.4%と7割近くに上っている(野村総研調べ)。

 万が一のときは売却すればいいと思っていても、希望通りの値段で売れるとは限らない。「老朽化した家屋を取り壊し、更地にしなければ売れない」など、予想外の展開が待ち受けていることもありうる。投資という視点から見た場合も、自宅購入のリスクは小さくないのだ。

「持ち家があれば安心」は真実か?
それとも幻想か?

 「就職して結婚したら、次は35年ローンで住宅を購入。退職したら、ローンを完済した自宅で年金生活」

 こうした平均的なライフコースに、石川さんは疑問を抱き続けてきた。

 「つい50年くらい前まで、こんなコースを歩む人はごく少数だったはず。たとえばうちの祖母などは関東大震災や戦火を生き延びて旅館を経営し、一般の会社員よりも儲けていました。誰かが描いたコースなどに乗らず、自分の知恵と腕で人生を切り開いていたのです。

 右肩上がりの経済成長がストップした今、会社は私たちの人生を保証してはくれません。まして、不動産業者や銀行が成功に導いてくれることなどあろうはずがありません。我々は再び、自力で生き延びる必要に迫られているのではないでしょうか」

 そこで石川さんが勧めるのは「生涯賃貸」という住み方だ。

 「更新料や礼金がもったいない」「老後は持ち家のほうが安心だから」という声もあるが、「少子化のため、賃貸住宅は全体に借り手市場。地方を中心 に賃料も下がってきており、更新料、礼金も減る傾向にあります。今後、借り手が少なくなればなるほど、高齢者歓迎の物件も増えるはず」という。

 すでに、「敷金・礼金ゼロ」を謳い文句にした住宅、いわゆる「ゼロゼロ物件」なども登場している。貧困ビジネスの温床となるなど物議を醸している が、低コストの賃貸物件が全体に増えてきていることは間違いなさそうだ。また最近は、リビング、水回りなどをほかの住人と共用する「シェア住居」も人気を 呼んでいる。やはり、敷金、礼金などの初期費用が不要で、家具や家電製品がすでに備えられているところが多い。

 それでも、持ち家のある人に比べ、賃貸派は将来の住居不安が大きいのでは、と反論すると「持ち家があれば安心、というのは幻想にすぎません。ローン支払いの滞り、税金滞納など、どんなアクシデントで自宅を取り上げられてしまうか、わからないのが現実です」と石川さん。

 また、「生涯家賃のほうがローン支払い総額より高いから」と自宅を購入する人が多いが、これについても疑問を投げかける。

 よくマンションのちらしには、両者を比較した表が載っているが、そこにはローン手数料や団体信用生命保険料、不動産取得税など、住宅購入にかかわ るさまざまな費用は書かれていない。ローンの金利もケースバイケースだ。購入後も固定資産税や、修繕積立金などがかかってくる。

 「結局、いろいろな変動要素、前提条件を考えなければ、一概に『持ち家の方が得』とは言い切れないのです」(石川さん)

「逃げ出す時の荷物は小さい方がいい」

 自らも外資系コンサルティング会社、シンクタンクなど10回もの転職を経験し、現在は企業改革コンサルタントとして独立している石川さん。自宅は買わず、家族と賃貸住宅で暮らしている。「子育てにいい環境を」と思い、庶民的なたたずまいが魅力の歴史ある街を選んだ。

 「本当は、子育てには持ち家のほうが適しているのかもしれません。でもやはり、逃げ出すときのことを考えると荷物はできるだけ小さい方がいい。変化の大きい時代には『自宅を持たない生き方』を検討すべきだと思うのです」

 マイホームは人生の夢のひとつだ。だが、夢に縛られて身動きできなくなってしまっては元も子もない。今こそ、世間の常識に縛られず、自分の価値観で住み方を考え直すときなのではないだろうか。

 住宅をめぐる事情が急激に変わるこの時代。さて、「家」とはあなたにとって、何ですか?

2011.06.03 ダイヤモンドオンライン

Comments