男性不妊症が急増中?!借金に離婚も続出?! 夫婦仲を揺るがす知らないとマズイ「不妊治療」の真実

2011/07/14 23:33 に 小林哲也 が投稿   [ 2011/07/14 23:35 に更新しました ]

 ある日、突然妻がこう言いだしたとしたらどうだろう。

 「私たち、そろそろ本気で不妊治療に取り組んだ方がいいと思うの……」

 震災で被災した女性が無事元気な赤ちゃんを出産したニュースに、涙した人は多かったはず。「うちも早く」と考えた夫婦もいたことだろう。

 だが、結婚したからといって、誰でも自然に子どもを持てると思ったら大間違い。今や不妊に悩むカップルは10組に1組とも、8組に1組とも言われる時代だ。不妊治療を手掛ける医師の間では「実情はもっと多いのでは」と囁かれているとか。

 さりとて、気軽に取り組むにはあまりに「大変そう」な不妊治療。果たして踏み切るべきか、否か。いまどきの不妊治療の実情について、NPO法人Fine理事長の松本亜樹子さんに聞いた。

<今回のお題>「不妊治療は是か非か」 松本亜樹子さんの話

「あなたも検査して」と妻が言い出す日

 こんな場面を想像してみてほしい。

 結婚したもののなかなか妊娠できない……焦った妻は意を決してレディースクリニックへ。彼女は帰宅するなりこう言い出した。

 「ねえ、今度はあなたも一緒に行って。検査も受けてほしいの」

 内科や外科ならともかく、産婦人科を受診するなど彼にとってはまさに想定外。まして生殖能力について検査されるなんて屈辱そのものだ。そこで言い放つ。

 「なんでそんなことまでして子どもを作らなきゃいけないんだ。それに、不妊の原因なんてたいてい女性側にあるんだろ」

松本亜樹子さん。不妊症の当事者団体NPO法人Fine理事長。共著に「ひとりじゃないよ!不妊治療―明るく乗り切るコツ、教えます!」(同朋舎)

 かくして夫婦の話し合いは大喧嘩に発展してしまうのである。松本さん曰く、

 「脳の構造や機能から言って、最初から父性本能が備わっている男性は多数派ではないよう。ですから、『どうしても子どもが欲しいから、積極的に不 妊治療を受ける』という人は少ないんですね。子どもが育ってくるとだんだん愛情が湧いて、母親以上に親バカになってしまうケースは多いようですが……。

 おまけに、不妊治療といえば何やらドロドロしたイメージが強い。それでついドン引きしてしまうわけです」

 思い切って夫婦で不妊治療を始めても、まだまだ山あり谷ありの日々が続く。第一、妻の感情が不安定になりがちだ。ホルモンがアンバランスになり、わけもなくイライラしたり落ち込んだり。夫はどうしていいかわからず、ただオロオロするばかり――。

意外に知られていない
「男性不妊50%」の現実

 「ああ、やだやだ。やっぱり不妊治療なんかやめて、自然に授かるまで待とう」

 そう思った読者も少なくないのでは。だが、ちょっと待ってほしい。出産をめぐる実情はそれほど単純でもないのだ。

 森永卓郎氏は著書『<非婚>のすすめ』(講談社現代新書)の中で、1941年に岩倉具栄公爵が出版したという『戦時人口政策』という本を取り上げている。以下はそのくだりだ。

 「大正7年8年の我が国の人口増加が、最高度に達していた頃は一夫婦は平均5児を生んでいたし、医学的にも日本人は普通年齢に結婚して完全なる結婚生活を営めば、まず平均4児を生み得ることになっている」

 だが2010年、ひとりの女性が一生の間に産む子どもの数「合計特殊出生率」は1.39。前年より0.02ポイント上昇したものの、依然低いこと にかわりはない。子どもを産むことは、一生のうちあるかないかの「一大事」になってしまったのだ。冒頭にも触れたように結婚したからと言って、また、望ん だからと言って、必ずしも産めるとは限らないのである。

 「産みづらい時代」になってしまったのはなぜなのか。あらためて不妊症の原因や背景について松本さんに聞いてみた。

 「不妊症の一般的な定義は健康な男女のカップルが、避妊なしのセックスをして2年以上経っても授からないこと。

 女性側に原因があるものと思い込んでいる人は多いですが、じつはそうでもないんです。WHOが不妊の原因を調べたところ、夫のみに原因があるケー ス、夫婦両方に原因があったケースは合わせて49%でした。不妊カップルの2組に1組は男性側に原因があった、ということですね」

 そういえば、ジャガー横田さんや太田光代さん、東尾理子さんなど、女性有名人の不妊治療はマスコミを賑わせても、「オレも取り組んでいます」という男性有名人の話はあまり聞かない。

 だが現実には、「男性不妊症」は年々増えている、と言われている。

 1992年、デンマークの研究者が「過去50年間に男性の精子が半減した」と発表。これを受け、日本でも調査を行ったところ、過去30年間に10%の精子減少が認められたという。とくに1990年以降、強い減少傾向があったそうだ。

 原因として指摘されているのが、ダイオキシン、PCB、DDTといった環境エストロゲンの影響である。実際、環境汚染の著しい中国では不妊カップ ルが急増。専門家の調べで、男性の精子の数が30~40年前の20~40%と激減していることがわかった。中国新聞社(2009年3月2日付)によると精 子バンクの供給量は圧倒的な不足状態で、提供を待つ夫婦は1000組以上にのぼる、とされる。「闇の精子バンク」も横行しているという深刻な事態だ。

 「このほか、ストレスも要因とされています。不妊症は妻だけでなく、夫にとっても身近な問題であることを認識してほしいですね」と松本さん。

 ストレスは妊娠を望むカップルにとっては天敵だ。男性ホルモン、テストステロンを低下させるからである。テストステロン値が低下すると、精力減退や勃起不全(ED)を招くほか、精子が減少したり、運動率が落ちたりする。

 なお、「ノートパソコンを長時間ひざに乗せ作業している人は、不妊症になる可能性がある」という研究者の指摘もある。多忙な現代の男性は、さまざまな不妊リスクにさらされているのだ。

“35歳神話”は嘘だった!?
女性の「卵巣機能」は27歳で衰え始める!

 もちろん、晩婚化の影響も大きい。松本さんはこんな話もしてくれた。

 「男女雇用機会均等法が施行されて以来、男性に負けじと頑張ってきた女性たちが、いつのまにか婚期を逃し、出産のタイミングを見失っていた。『35歳までは大丈夫』と自分に言い聞かせて……。

 でもね、じつは卵巣の機能は27歳をピークに衰えていくんです。27歳といえば仕事もひととおり覚え、後輩や部下もできて、社会人として一番のっているときでしょ。結婚はおろか、出産なんてまだまだ先の話、と思っている人が多いんじゃないでしょうか」

 厚生労働省の調査によると、女性の平均初婚年齢は2009年現在で28.6歳。卵巣機能が下り坂になってから結婚する人が多いことになる。なお、 「40歳時点で子を産んでいない女性の割合」は増え続けており、昭和28年生まれの女性では10.2%と10人に1人だったが、昭和44年生まれでは 27%。およそ3人に1人だ。

 優秀でまじめな女性ほど、職場での責任を果たそうと頑張り続け、プライベートなことは後回しにしがちだ。しかし皮肉なことに、そうした「まじめな妻」たちが不妊症を抱えるリスクは大きいのである。

 仕事のストレスを背負い込んだ夫に、まじめで頑張り屋の妻。今の日本、こうしたカップルはごまんといることだろう。不妊症が増えているのもうなずける。

 こうした現実を受けてか、日本の不妊治療の水準はかなり高く、体外受精を行う施設数も世界で断トツトップという。しかし技術的に進んだ治療を続け、晴れて我が子の産声を聞けるカップルばかりとは言えないようだ。

治療総額300万円以上の人は12%
借金まみれで治療を続けるカップルも

 最大の壁のひとつが治療費用の高さである。

 「体外受精や、精子を直接、卵子に注入する顕微授精は1周期あたり数十万円とかなり高額。私たちが行った『経済的不安に関するアンケート』調査に よれば、回答者の84%が経済的理由で不妊治療を中断しています。夫婦の合算収入から治療費をまかなうカップルが多いのですが、治療のため妻が働き続けら れなくなる、というジレンマも生じています」(松本さん)

 ちなみに、これまでに支払った不妊治療費の総額について「100万~200万円未満」と答えた人は23.1%。300万円以上という人も12%を占める。

 出産をめぐる国の制度は、まだまだ充実しているとは言い難い。たとえば現行の特定不妊治療費助成制度では、1回15万円を限度に年間2回の治療費助成を受けられる。1夫婦への助成は通算5年間10回が限度だ。

 一見、親切な制度のようだが、松本さん曰く、これが「意外に使いづらい」と不評だそう。

 「今の制度内容だと、1回50万円程度かかる体外受精、顕微授精を受けるためには、自費で約35万円を負担しなければなりません。その費用が捻出 できず、治療を見送ってしまう方が大勢います。そうこうするうち、出産のベストタイミングを失ってしまうことになりかねない。だけどもし、『総額150万 円がいつでも使える』という制度ならどうでしょうか。時機を見計らい、3回は治療にトライできるわけです」

 だが、今のところ多くのカップルが高額の費用負担にあえいでいるのが実情だ。

 「今は貯金を切り崩しているが、底をついたら治療は諦めるほかない」

 「夫の収入が激減し治療ができなくなった」

 「借金だらけ。医療費だけで家計が火の車」

 前出の調査回答にはこんな切実な声も多数寄せられたという。

何気ない一言で火がつく
「不妊離婚」の導火線

 もうひとつ、知っておきたいことがある。前述したように、不妊治療に取り組むカップルは、とかく「夫婦の危機」に直面しやすいことだ。

 落ち込む妻によかれと思ってかけた一言が、かえって火種となり、言い争いに発展してしまうこともある。場合によっては離婚に至るケースも――。「ある男性からこんな話を聞きました。流産のあと、泣きじゃくる妻を慰めようとして、大喧嘩になってしまった。彼はぽつりとこうもらしていました。 『本当は自分も泣きたかったんです』。そして、『でも自分まで泣いたら妻がよけいつらくなると思い、ぐっと涙をこらえました』と。一方、妻はこう打ち明け ました。『言葉なんていらなかった。ただ泣かせてほしかった』」(松本さん)

 当然、こんなケースばかりではない。共通の目的ができたことでより絆が強まる場合もあるだろう。だがいずれにせよ、産むことの代償は夫婦どちらに とってもけっして小さくない。経済的負担に精神的エネルギー。通院のため、キャリアをあきらめる女性もいるし、肉親、友人の心ない言葉に傷つき、仲たがい してしまう人もいる。

3.11で増えた「それでも産みたい夫婦」

 そんな時代に襲った、今回の大震災。インターネットの掲示板などには、「景気の不透明感や放射能の影響が不安で、子作りに踏み切れない」といった書き込みが目立った。

 その一方、明るい兆しもある。

 「当NPOでは不妊治療に関する相談窓口を設けているのですが、3.11以降、なぜか若い人からの問い合わせが急に増えたんです。震災という危機に直面し、あらためて新しい生命を生み出すことの尊さに気付いた方が多いのでしょう」(松本さん)

 もちろん、不妊治療がすべていばらの道というわけではない。医師の指導のもと子作りをおこなう「タイミング療法」により、うまく妊娠するケースも多数ある。人によっては卵管に造影剤を通す検査などをしただけで妊娠しやすい身体になり、難なく子どもを授かる場合も。

 だがそれでもやはり、不妊治療にチャレンジする際には、「きちんとした知識が不可欠」と松本さんは言う。

 卵巣機能のピーク年齢が27歳であること。不妊カップルの2組に1組が男性不妊を抱えていること。男性の場合は産婦人科だけでなく、泌尿器科でも 不妊治療できること――。正しい知識をあらかじめ持っておくことで、不妊治療への取り組み方、タイミングも変わってくるはずだ。早ければ早いほど成功率は 高くなる。ちなみに男性不妊の検査は痛みをともなうわけではなく、治療によって克服することは可能だそう。

 そして、もうひとつ知っておかなければならないのは、「不妊治療は万能ではない」という現実である。

 治療技術が発達し、高齢でも子どもを産むことが可能になっている。「だからきっと自分も」と期待する人は少なくない。とはいえ、3.11でも思い知らされたようにしょせんは“人間の分際”なのだ。「最終的には神様に任せよう、という覚悟が大切では」と松本さんは言う。

 わが子の笑顔に出会うことは何ものにも代えがたい最高の喜びだ。だが、不妊治療に踏み切った夫婦を待ち受けるのは、必ずしもバラ色の未来とは限ら ない。前向きに治療に取り組むとともに、あきらめた場合の「出口」についても夫婦で話し合っておく必要があるのではないか。子どもを持たない人生について も想定しておくのだ。現代は「高齢でも産める時代」であると同時に、「何かと産みづらい時代」でもあるのだから――。

 医療は発達しても、社会情勢は子作り、子育てに厳しい日本社会。さて、子どもがすっかり「贅沢品」となってしまった現代、あなたは不妊治療についてどう考えますか?

2011.06.17 ダイヤモンドオンライン

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