気になる記事やイベント情報                         掲載書籍および記事はこちら
                                フォーラムからのお知らせはこちら

一体改革の第2工程=政府・与党が掲げる 新年金制度が直面するこれだけの大障害

2012/01/16 17:34 に 小林哲也 が投稿   [ 2012/01/16 17:34 に更新しました ]

今回の社会保障・税一体改革は年金制度改革に関し、2段階の工程が想定されている。第2段階は、全く新たな年金制度の創設である。政府・与党の念頭にあるのはスウェーデン型の年金制度と見えるが、そのまま日本に移入するには大きな障害が立ちはだかっている。

政府・与党が提唱する
新年金制度の2つの問題

 今回の社会保障・税一体改革は年金制度改革に関し、2段階の工程が想定されている。第1段階は「現行制度の改善」(但し改善とはいえないことは既に指摘した)であり、具体的には、低所得者への年金加算、パートタイム労働者の厚生年金への適用拡大、および、マクロ経済スライドの見直しなどである。これらは、本連載第5回までで採りあげた。

 第2段階は、現行制度に代わる全く新たな年金制度の創設である。政府・与党は、新年金制度創設のための法案を2013年度中に国会に提出するという従来からの方針を崩していない。もっとも、行方は極めて不透明である。今回は、この新年金制度を検討するとともに、より現実的な改革の視点を提示してみたい。

 民主党が提唱してきたのは、所得比例年金と最低保障年金の組み合わせによる全国民共通の年金制度である(図表1)。政府の説明を借りれば、所得比例年金は、収入に応じて支払われた保険料に基づき給付される。最低保障年金は、所得比例年金が一定額に達するまで、月額7万円が給付され、所得比例年金がそれを超えると、段階的に減少していく。こうした共通の年金制度に、全ての国民が加入する。所得比例年金、最低保障年金の財源は、それぞれ社会保険料、税である。

 政府・与党の新年金制度は、スウェーデンの年金制度が念頭に置かれていると目されている。しかし、大きく2つの難点がある。第1に、新年金制度の最低保障年金は、後にみるスウェーデンの保証年金ともわが国の基礎年金とも異なっており、一体どのような理念に基づくのか不明である。

 第2に、仮に、政府・与党が、スウェーデンの年金制度に忠実に、わが国の年金制度を再構築することを意図しているのだとしても、実際には所得比例年金を主体とするスウェーデンの年金制度を、わが国に導入することは極めてハードルが高く、かつ、そもそも意味が乏しい。以降、この第1と第2の点について掘り下げていこう。

スウェーデンの保証年金は
所得比例年金の「補完」に過ぎない

 そもそも、スウェーデンの年金制度とは一体どのようなものだろうか。スウェーデンの年金制度は、所得比例年金(income-related pension)と保証年金(guaranteed pension)の組み合わせによる、全国民共通の制度である(図表2)。

 所得比例年金は、銀行口座に例えられる。支払われた保険料は、政府に置かれる国民1人ひとりの口座に記録され、そこには、賃金上昇率を利回りとし、利息が付される。その口座残高を平均余命で割ることで、毎年の年金給付額が決定される。明快な仕組みだ。所得比例年金が定額にとどまる人には、一般財源すなわち税を原資とした保証年金が給付される。

 具体的な給付体系は、次の通りである。所得比例年金が、一定額になるまでは、所得比例年金と保証年金の合計額が2.13ba(baは物価に連動した単価、2010年は月7526クローナ)となるよう保証年金が給付される。所得比例年金が定められた上限額に達するまで、保証年金は段階的に削減されつつ給付される。保証年金の給付額は、所得比例年金の額のみによって決定され、他の所得があったとしても、それは勘案されない。

 このように、保証年金は所得比例年金の「補完給付」である点に充分な認識が必要である。実際、スウェーデンの年金給付総額に占める保証年金の割合はたかだか8.0%に過ぎず(図表3)、保証年金を受け取っている人の割合も、年金受給者の4割程度にとどまる。

 他方、わが国の基礎年金が年金給付総額に占める割合は47.9%に達し、もちろん全年金受給者が基礎年金を受給している。すなわち、基礎年金は、給付規模からみても、受給者全員に給付される対象範囲の広さからみても「普遍的給付」なのである。

 このように、スウェーデンの保証年金とわが国の基礎年金は、根本的な理念が異なるのだが、ここで改めて図表1の政府・与党案の最低保障年金をみると、どちらにも似ていそうで似ていない。どのような理念に基づく制度であるのか不明である。そのため、政府・与党案は、詳細な制度設計に入る以前の段階にあり、例えば、最低保障年金が、一体どのような人を対象とするのかすらも定まらない。

所得比例年金成立のためには
いくつもの条件が必要

 スウェーデンの年金制度の主体はあくまで所得比例年金であり、保証年金はその補完に過ぎない。こうした所得比例年金を主体とする年金制度をわが国に導入することは、極めてハードルが高く、かつ、そもそも導入する意味が乏しい。

 なぜなら、第1に、年金制度を抜本的に作り変える大作業となるためだ。そもそもスウェーデンとわが国の制度は根本的に異なる。わが国は、厚生、共済、国民各制度の分立を原則とし、各制度から基礎年金拠出金を拠出することで、フィクションとしての基礎年金を維持する構造である(第1回参照)。これをスウェーデン型に改めるとなれば、わが国の年金制度の歴史のなかで最大の改革である1985年改革(基礎年金が導入された)を、遥かに上回るものとなる。

 第2に、所得比例年金を主体とする年金制度は、①低い高齢化率、②公平な労働市場、③現役世代向けの所得保障、および、④包括的かつ正確な所得捕捉など、かなり厳しい諸条件を満たして初めて機能するものであり、スウェーデンでこれらを満たしているとしても、わが国は必ずしもそうではないためだ。それぞれ検証してみよう。

①低い高齢化率

 第1に低い高齢化率である。スウェーデンもわが国も、年金財政は現役世代が高齢者を養う賦課方式を基本に運営されている。現役世代の支払った保険料は、そのまま当年度の年金受給者に給付されており、高齢化率の上昇、すなわち、現役世代に対する年金受給者の比率が高まると、生涯の負担に見合う年金給付を受け取ることはもはやできない(注1)。端的にいえば、払い損が生じる。所得比例年金などといっても、看板倒れとなるのだ。

(注1)負担は、支払った保険料元本のみならず、年金受給開始時点までの利息を含めて考えている。厚生労働省は、若い世代も生涯に負担した保険料の2.3倍の給付を生涯に受け取れるというが、実態は0.5倍から0.8倍である。 それでも、スウェーデンが所得比例年金の体面を何とか保てているとすれば、高齢化率が低位で推移するおかげである。スウェーデンの高齢化率は、現在17.9%、2050年でも24.1%にとどまる見通しである(図表4)。そのため、賦課方式であっても、支払われた保険料に対し、金融資産の収益率とまでいかずとも、賃金上昇率を利回りとして採用できている(金融資産の収益率>賃金上昇率が想定されている)。スウェーデンの高齢化率が低位で推移するのは、1.94人と人口置換水準に近い出生率と、高水準の移民流入の結果である(注2)。

 それに対し、わが国の高齢化率は、現在既に22.7%と先進諸国中最も高く、2050年になると39.6%にも達する見通しである。そのため、わが国の既裁定年金(既にもらい始めている年金)は、物価上昇率での改定しか許されず(スウェーデンは賃金上昇率で改定)、しかも、それでも足りず、2004年の年金改正ではマクロ経済スライドが導入された(第4回参照)。

 さらには、支給開始年齢の引き上げまで取り沙汰されている。このように深刻な払い損のもとでは、所得比例年金などといっても、看板に偽りありとなる。図表1を正確に描き直せば、所得比例年金は、あのようなボリュームのある三角形とはならず、平べったくなるはずだ。

 若い世代にとっては、そのような所得比例年金はむしろ極力縮小し、それによって浮いたお金を自ら、あるいは、自らの属する世代全体で積み立てた方がリターンは大きいのである。

(注2)金融資産の収益率>賃金上昇率を想定すれば、賃金上昇率でしか付利されない年金を「所得」比例年金というのも、正確にいえば誇大表記である。

②公平な労働市場

 第2に公平な労働市場である。所得比例年金は、支払った保険料に基づいて給付がなされる大変クリアな仕組みであるがゆえに、雇用機会が全ての国民に平等に提供され、労働に対して正当に賃金が支払われることが大前提である。すなわち、労働市場において、男女間で就労条件に格差があったり、正規や非正規といったいわば身分格差があったりすると、それがそのまま年金給付にも反映されてしまうことになる。

 この点に関し、スウェーデンは、先進諸国のなかでも、最も格差の少ない労働市場を持つ国の1つと評価される。例えば、スウェーデンの労働力率は女性76.4%、男性81.3%とその差は4.9%にとどまる。わが国は、それぞれ62.9%、84.8%、その差は21.9%にも及ぶ。また、男女間賃金格差に関し、男性を100とした場合の女性の水準は、スウェーデンが89.0であるのに対し、日本は69.3である。

 さらに、労働組合組織率の高さを、正規と非正規の身分格差がないことの代替指標ととらえると、日本は、18.4%と一部の正社員を代表した組織でしかないのに対し、スウェーデンは、近年低下傾向にあるとはいえ69.3%と7割近くを確保している。このように、スウェーデンとわが国では、労働市場における公平性の程度が異なっており、わが国は、所得比例年金を主体とする年金制度を成り立たせるに足る労働市場とは、恐らくなっていない。

③現役世代向けの所得保障

 第3に、現役世代向けの所得保障である。労働市場において男女間格差が小さいとしても、女性は出産・育児などにおいて、男性よりも長期の休業を余儀なくされる。あるいは、長い現役生活のなかでは、男性も女性も職を失う場合がある。そうした際、保険料の支払いがストップしてしまえば、所得比例年金は負担と受給のリンクがクリアなだけに、過酷なものとなってしまう。

 そこで、スウェーデンでは、現役世代向けの所得保障が行われる。例えば、出産・育児休業中は、政府から手当を受け取り、そこから年金保険料の自己負担分を支払う。そして、事業主負担分は、政府の一般会計が負担する。失業中なども同様だ。そうした結果も受け、スウェーデンの現役世代向け社会保障給付は、対GDP比で10.5%に及ぶ。それに対し、わが国は同2.2%に過ぎない。

④包括的かつ正確な所得捕捉

 第4に、包括的かつ正確な所得情報である。所得比例年金というからには、所得が税務当局によって包括的かつ正確に捕捉されていなければならない。スウェーデンでは、個人識別番号が1947年に導入され、税務をはじめあらゆる行政分野で活用されているのに対し、わが国では納税者番号制はこれから法案が出されようかというところだ。

 しかも、番号は導入されただけでは十分ではなく、それを活用して金融機関や雇用主などから税務当局に対し、オンラインで金融資産所得や給与所得などの情報が提出されなければならない。それらは膨大な量だ。わが国では、そうしたシステムの構築にまでまだ議論が至っていない。

 加えて、わが国が複雑なのは、税務行政が国税庁と市町村とに分立しており、所得情報も、市町村と国税庁とに分散していることだ。低所得層の所得情報を持っているのは、国税庁ではなく市町村である。税務行政のレベルは、市町村ごとにバラツキもあろう。所得情報を正確かつ一元的に管理するためには、国税庁と市町村の税務行政を統合するのが最も効率的と考えられるが、国と地方横断的な行政組織の統合は、必要ではあっても、一筋縄ではいかないだろう。

新制度創設は必要だが
スウェーデン型へのこだわりを捨てよ

 政府・与党が、現行制度に代わる新制度創設を掲げていること自体は評価される。現行制度の微修正に終始した自公政権との大きな違いだ。最低保障機能の強化、パートタイム労働者の厚生年金適用拡大、および、第3号被保険者問題などといった諸課題に根本的に対処するには、現行制度のままでは限界がある。また、基礎年金拠出金によって支えられるフィクションとして基礎年金はリアルなものへ改められるべきだ。

 問題は、政府・与党が、新制度の候補としての所得比例年金を主体とするスウェーデンの年金制度を念頭に置いていることである(もっとも、野党時代から今日に至るまで、何ら目ぼしい議論もなされておらず、政府・与党は本当にこだわっているのかどうか怪しい)。スウェーデン型でなくとも、上に掲げたような諸課題に対処することは可能である。

 例えば、カナダの年金制度がある。カナダの年金制度は、税を原資に、普遍的給付として月5万円程度のOAS(老齢保障年金)が給付される。それに上乗せして、年金保険料を原資に、CPP(カナダ年金プラン)という2階部分が給付される。2階部分がないか低額にとどまる人には、税を原資に、前年所得に応じてGIS(補足的保証所得)が補完的に給付される。カナダ型の方がスウェーデン型よりもハードルは低いだろう。

 実は、こうしたカナダ型の年金制度を参照した年金改革案は、「いまこそ、年金制度の抜本改革を。」と題し、2008年12月、自民党と民主党の有志議員7名によって提案されている。7名は、野田毅、岡田克也、枝野幸男、河野太郎、古川元久、大串博志、亀井善太郎各氏だ。昨今、与野党対立のムードが強まっているが、与野党協議の蓄積はあり、それが活かされることが期待される。

 最後に、今回の議論をまとめよう。

1.政府・与党は、2013年度中に、新年金制度創設のための法案を国会に提出するという従来の方針を崩していない。もっとも、行方は極めて不透明である。

2.政府・与党の掲げる新年金制度、すなわち、最低保障年金と所得比例年金の組合せによる全国民共通の年金制度は、スウェーデンの制度が念頭に置かれている。

3.政府・与党案をスウェーデンの年金制度に照らして検証すると、大きく2つの難点がある。1つは、政府・与党案の最低保障年金の理念が不明なことである。所得比例年金の「補完給付」、わが国の基礎年金のような「普遍的給付」のいずれでもない。

4.もう1つは、スウェーデンのような所得比例年金を主体とする制度が成立するためには、①低い高齢化率、②公平な労働市場、③現役世代向けの所得保障、および、④包括的かつ正確な所得捕捉など、かなり厳しい諸条件が満たされる必要があるが、それらがわが国では必ずしも満たされていない。所得比例年金を主体とする年金制度導入は、わが国にとってハードルが高く、かつ、そもそも意味が乏しい。

5.政府・与党は、スウェーデンの年金制度に対し単に憧れを抱くだけではなく、導入可能か否か、そもそも意味があるのか否かといった観点から地道に議論し、国民に結論を示さなければならない。

6.その際、スウェーデン型への固執を捨てることが必要である。政府・与党の目指すところは、例えば、カナダ型の年金制度などによって、より低いハードルで実現可能であろう。

2012/1/17 ダイヤモンドオンライン

派遣も年収200万円層も「夢のマイホーム」を持てる!? “空き家大国”ニッポンで家を買う「可能性」と「危険性」

2011/07/14 23:39 に 小林哲也 が投稿   [ 2011/07/14 23:42 に更新しました ]

 総務省「住宅・土地統計調査」(2008年)によれば、今や全国の空き家率は13.1%。8軒に1軒は空き家という、世界でも突出した「空き家大国」であることがわかった。一方、新築住宅の着工戸数は毎月6~7万戸にのぼる。

 だが、住宅余りの時代にもかかわらず、そうやすやすとマイホームは手に入らないのが現実。先行き不透明というのに、はたして重い住宅ローンに耐えられるのだろうか……?

――この連載では、震災後の“問題の現場”を知る2人のインタビュイーが登場。それぞれの立場から混迷期のサバイバル術を語ってもらう。第4回目のテーマは「家」。パラダイムシフトの時代、私たちは住宅についてどう考えるべきなのだろうか。

「色眼鏡を捨てる」 榊マンション市場研究所 榊淳司さんの話

中国人富豪たちが
タワーマンションから逃げ出す

榊淳司さん 同志社大学法学部、慶應義塾大学文学部卒業。不動産広告、販売戦略立案の現場に20年以上携わる。2008年、榊マンション市場研究所を設立。著書に『年収200万円からのマイホーム戦略』

 ベイエリアのタワーマンションから、中国人が次々に逃げ出している――。

 こう打ち明けるのは、住宅ジャーナリストで「榊マンション市場研究所」榊淳司さん。購入を申し込んだばかりの中国人も、支払った手付金を断念し、キャンセルしているという。

 震災直後、エレベータがストップするなどし、多くのタワーマンション入居者が「高層難民」と化したのは周知の通り。さらに液状化への懸念とあい まって、従来の湾岸タワーマンションの人気にはかげりも生まれた。だが、関係者が気に病んでいるのは、国内の風評問題ばかりではなかったのだ。

 住宅価格はバブル崩壊後、下落し続け、2002年に底を打った。その後いったん回復し、2007年にピークを迎えて、再び下落傾向に。光明は「チャイナマネーの流入」だった。

 「中国には土地の私有制度がないこともあり、日本の不動産は彼らにとってうってつけの投資対象でした。利回り(投資した元本に対する収益の割合) は、さほど高くないが安定しており、担保価値が高い。ある物件の上層階では、中国人オーナーが2ケタに達していたそうです」(榊さん)

 中国でもタワーマンションは大人気という。高層階の物件は、彼らにとって成功のシンボルにほかならないのだろう。

 「ですが、せっかく抱いた期待も、3.11によりあっけなく消えてしまった。今後、タワーマンション人気が以前と同じレベルに復活することはほぼ ないのでは。造りは頑丈なので、地震で倒壊することは考えられませんが、高層階の揺れというのはかなりのもの。もちろん、高いところが好きな人々にとって はあいかわらず魅力的と思いますが」

 不動産経済研究所の調べによると、2011年以降完成予定のものは全国で10.6万戸と、前年調査(2010年)を2万戸以上も上回る。一方、競 売物件情報を見れば、東京湾に面した築3年と真新しい58階建てマンションや、横浜元町というお洒落なエリアに建つ25建てマンションなどもちらほら。

 「一般的にはまだ割高感のあるタワーマンションですが、長い目で見れば、今後、価格は下がっていくのでは」と榊さんは予測する。

「バーキンの次はマンション」
家が“成功アイテム”だった時代

 ごく最近まで、タワーマンションは日本人にとっても「勝ち組」の象徴だった。

 ミニバブルに湧いた2007年。この年、筆者は建設ラッシュに湧くタワーマンションの市況を取材したことがある。あるデベロッパーは「昔は出世す ると山の手の広い庭付き一戸建てを買ったものでしたが、今は違う。高層階から夜景を眺めつつ成功を噛みしめたい、という方が結構おられるんですよ」と相好 を崩した。

 東京都港区にあるタワーマンションを購入した、33歳の女性起業家にも話を聞いた。75平米で価格は5300万円。32階というだけあり、日当たりと眺望は最高という。

 「購入の動機はエルメスのバーキンを手に入れたこと。バーキンにふさわしく、都心のタワーマンションに住みたかったんです」

 その言葉が、悪戯っぽい笑顔とともに今も印象に残っている。

 「バーキンの次はマンション」。

 新興中国人と同様、ブランドや住宅は、日本人にとっても長らく「わかりやすい成功アイテム」だった。だが、ミニバブルは終わりを告げ、日本はその 後、未曾有の大不況に見舞われる。そして襲った今回の災害。これからの時代、私たちは「住宅購入」についてどう考えればいいのだろう。

非正規社員も低年収層も
一戸建てが買える時代に!?

 家はもはや、「成功アイテム」などではない――。榊さんの話は、要するにそういうことだった。

 「今や国内で800万戸近い住宅が余っている状態。一方、人口は減る一方です。需要が供給を上回るとは考えにくく、不動産価格の上昇は見込めない。つまり将来的な資産価値は期待できないということです」

 したがって、売却や賃貸運用する際のことなど考える必要はない、という。

 「資産価値」などより、あくまで「自分たちにとって住みやすいかどうか」という「使用価値」だけを考えればいい。そうすれば選択肢はおのずと広がり、わざわざ高額ローンを組んで人気エリアの物件を購入する必要はなくなる、という。

 また、住宅の資産価値が下がる時代とは、「誰もが家を持てる時代」でもある。

 「年収200万円台でも、あるいは非正規社員でも、その気になれば一戸建てが持てる時代なのです」と榊さん。

意外に耐久性の高い
「団地」には掘り出し物も

 狙い目は中古住宅だ。

 「まず、郊外を中心にあたってみましょう。通勤圏内でも1000万円以下という低額物件がゴロゴロしています。注目すべきは「団地」。200~300万円台くらいのものも少なくなく、人気エリアのものでも1000万円台前半など、掘り出し物が眠っているはず。

 築年数が古いと耐久性が気になるところですが、30、40年前の団地は、基礎や躯体をかなりしっかりと造っているんですよ。というのも、昔の公団は日本の住宅をリードするという誇り高き存在だったため、採算を度外視して建てたものが多いんです」

 あくまで都心にこだわるなら、震災後、人気が集中している世田谷区を探してみてもいい。とくに旧山の手は地盤がしっかりしているエリアが多く、中古住宅も豊富。探せば手ごろな物件がいくらでもある、という。

 たしかにYahoo!不動産で検索してみると、「千歳船橋駅徒歩6分/3DK/62.13m2 /2880万円 」という物件や、「経堂駅徒歩13分/3DK/ 62.13m2/2920万円」といった魅力的な物件がヒットする。「つい数年前までは少なくともこの1.3倍くらいの値段がついていたんですけどね」(榊さん)。

 また、ワンルームマンションで暮らしている独身者なら、「当面、独り暮らしを続けるなら、中古のワンルームを買うほうが安上がり。500~600万円程度の物件なら、6、7年で元が取れるのでは」と話す。

 問題はローンだ。榊さんのお勧めは「フラット35」。ただし返済期間は最長10年まで。10年後にはローンの残債が資産価値を上回る可能性もあるからだ。

 「急いで探す必要はありません。不動産価格はまだ下落傾向にあるので、1、2年かけてゆっくり選べばいいのでは」

 「高みの見物をしながら成功を噛みしめる」なんてことは無理としても、ちょっと視点を変えれば、そこらじゅうに住宅は余っており、それこそ「より どりみどりの時代」ともいえる。要は、「家は成功アイテムなどではなく、住むための実用品にすぎない」と思い切ればいいのである。

「持たない」 企業改革コンサルタント・不動産投資家 石川貴康さんの話

「一生かけてローン返済」に潜む危険

石川貴康さん 早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、筑波大学大学院経営学修士。現アクセンチュア、日本総合研究所などを経て独立、企業改革コンサルタントに。不動産投資家の顔も持つ。著書に『サラリーマンは自宅を買うな』

 コンサルタントで不動産投資家の石川貴康さんは、「サラリーマンは自宅を買うべきではない」と考えている。

 「多くの人は、よく考えもせずに自宅購入に踏み切ってしまう。話を聞くと、『周りが買っているから』『今の給料ならローンを払えそうだから』『融資が下りそうだから』とか、だいたいそんな理由です。

 たしかに昔から、いい年をして家も買えないと、『うだつが上がらない』などと言われたりしたものでした。しかし、資産を持たないサラリーマンが自 宅を買えたのは、経済成長のおかげで日本人がみんな金持ちになった時代の話。今となっては、家を買うということは大きなリスクを背負うことにほかなりませ ん」

 具体的に、どんなリスクが想定されるのだろう。

「まず、『天災』という自分ではどうしようもないリスク。今回の地震や津波で自宅を失った人々の中には、住むところもないのに住宅ローンを支払い続けなければならない方もいる。35年ローンを組んだ後、自分が絶対、天災に遭わないと言い切れる人はいないでしょう。

 次に『機会損失』というリスク。長期のローンを背負ったばかりに、起業や転職、留学などのチャンスをあきらめてしまうケースもあるにちがいありま せん。ローンの返済のために働き続け、自由を失うことが自分にとって幸せなのかどうか。購入に踏み切る前に、よく考えるべきでは」と石川さん。

 収入不安が大きい時代だけに、ほかにもさまざまなリスクが考えられる。野村総研の調べによると、収入に占めるローン返済負担率は、1985年には 12%だったが、2007年には16%。「可処分所得に占める割合は20%に達している」と指摘する識者もいる。また、「将来の所得の増減を考えたとき、 住宅の維持・取得に不安を感じる」という人は68.4%と7割近くに上っている(野村総研調べ)。

 万が一のときは売却すればいいと思っていても、希望通りの値段で売れるとは限らない。「老朽化した家屋を取り壊し、更地にしなければ売れない」など、予想外の展開が待ち受けていることもありうる。投資という視点から見た場合も、自宅購入のリスクは小さくないのだ。

「持ち家があれば安心」は真実か?
それとも幻想か?

 「就職して結婚したら、次は35年ローンで住宅を購入。退職したら、ローンを完済した自宅で年金生活」

 こうした平均的なライフコースに、石川さんは疑問を抱き続けてきた。

 「つい50年くらい前まで、こんなコースを歩む人はごく少数だったはず。たとえばうちの祖母などは関東大震災や戦火を生き延びて旅館を経営し、一般の会社員よりも儲けていました。誰かが描いたコースなどに乗らず、自分の知恵と腕で人生を切り開いていたのです。

 右肩上がりの経済成長がストップした今、会社は私たちの人生を保証してはくれません。まして、不動産業者や銀行が成功に導いてくれることなどあろうはずがありません。我々は再び、自力で生き延びる必要に迫られているのではないでしょうか」

 そこで石川さんが勧めるのは「生涯賃貸」という住み方だ。

 「更新料や礼金がもったいない」「老後は持ち家のほうが安心だから」という声もあるが、「少子化のため、賃貸住宅は全体に借り手市場。地方を中心 に賃料も下がってきており、更新料、礼金も減る傾向にあります。今後、借り手が少なくなればなるほど、高齢者歓迎の物件も増えるはず」という。

 すでに、「敷金・礼金ゼロ」を謳い文句にした住宅、いわゆる「ゼロゼロ物件」なども登場している。貧困ビジネスの温床となるなど物議を醸している が、低コストの賃貸物件が全体に増えてきていることは間違いなさそうだ。また最近は、リビング、水回りなどをほかの住人と共用する「シェア住居」も人気を 呼んでいる。やはり、敷金、礼金などの初期費用が不要で、家具や家電製品がすでに備えられているところが多い。

 それでも、持ち家のある人に比べ、賃貸派は将来の住居不安が大きいのでは、と反論すると「持ち家があれば安心、というのは幻想にすぎません。ローン支払いの滞り、税金滞納など、どんなアクシデントで自宅を取り上げられてしまうか、わからないのが現実です」と石川さん。

 また、「生涯家賃のほうがローン支払い総額より高いから」と自宅を購入する人が多いが、これについても疑問を投げかける。

 よくマンションのちらしには、両者を比較した表が載っているが、そこにはローン手数料や団体信用生命保険料、不動産取得税など、住宅購入にかかわ るさまざまな費用は書かれていない。ローンの金利もケースバイケースだ。購入後も固定資産税や、修繕積立金などがかかってくる。

 「結局、いろいろな変動要素、前提条件を考えなければ、一概に『持ち家の方が得』とは言い切れないのです」(石川さん)

「逃げ出す時の荷物は小さい方がいい」

 自らも外資系コンサルティング会社、シンクタンクなど10回もの転職を経験し、現在は企業改革コンサルタントとして独立している石川さん。自宅は買わず、家族と賃貸住宅で暮らしている。「子育てにいい環境を」と思い、庶民的なたたずまいが魅力の歴史ある街を選んだ。

 「本当は、子育てには持ち家のほうが適しているのかもしれません。でもやはり、逃げ出すときのことを考えると荷物はできるだけ小さい方がいい。変化の大きい時代には『自宅を持たない生き方』を検討すべきだと思うのです」

 マイホームは人生の夢のひとつだ。だが、夢に縛られて身動きできなくなってしまっては元も子もない。今こそ、世間の常識に縛られず、自分の価値観で住み方を考え直すときなのではないだろうか。

 住宅をめぐる事情が急激に変わるこの時代。さて、「家」とはあなたにとって、何ですか?

2011.06.03 ダイヤモンドオンライン

男性不妊症が急増中?!借金に離婚も続出?! 夫婦仲を揺るがす知らないとマズイ「不妊治療」の真実

2011/07/14 23:33 に 小林哲也 が投稿   [ 2011/07/14 23:35 に更新しました ]

 ある日、突然妻がこう言いだしたとしたらどうだろう。

 「私たち、そろそろ本気で不妊治療に取り組んだ方がいいと思うの……」

 震災で被災した女性が無事元気な赤ちゃんを出産したニュースに、涙した人は多かったはず。「うちも早く」と考えた夫婦もいたことだろう。

 だが、結婚したからといって、誰でも自然に子どもを持てると思ったら大間違い。今や不妊に悩むカップルは10組に1組とも、8組に1組とも言われる時代だ。不妊治療を手掛ける医師の間では「実情はもっと多いのでは」と囁かれているとか。

 さりとて、気軽に取り組むにはあまりに「大変そう」な不妊治療。果たして踏み切るべきか、否か。いまどきの不妊治療の実情について、NPO法人Fine理事長の松本亜樹子さんに聞いた。

<今回のお題>「不妊治療は是か非か」 松本亜樹子さんの話

「あなたも検査して」と妻が言い出す日

 こんな場面を想像してみてほしい。

 結婚したもののなかなか妊娠できない……焦った妻は意を決してレディースクリニックへ。彼女は帰宅するなりこう言い出した。

 「ねえ、今度はあなたも一緒に行って。検査も受けてほしいの」

 内科や外科ならともかく、産婦人科を受診するなど彼にとってはまさに想定外。まして生殖能力について検査されるなんて屈辱そのものだ。そこで言い放つ。

 「なんでそんなことまでして子どもを作らなきゃいけないんだ。それに、不妊の原因なんてたいてい女性側にあるんだろ」

松本亜樹子さん。不妊症の当事者団体NPO法人Fine理事長。共著に「ひとりじゃないよ!不妊治療―明るく乗り切るコツ、教えます!」(同朋舎)

 かくして夫婦の話し合いは大喧嘩に発展してしまうのである。松本さん曰く、

 「脳の構造や機能から言って、最初から父性本能が備わっている男性は多数派ではないよう。ですから、『どうしても子どもが欲しいから、積極的に不 妊治療を受ける』という人は少ないんですね。子どもが育ってくるとだんだん愛情が湧いて、母親以上に親バカになってしまうケースは多いようですが……。

 おまけに、不妊治療といえば何やらドロドロしたイメージが強い。それでついドン引きしてしまうわけです」

 思い切って夫婦で不妊治療を始めても、まだまだ山あり谷ありの日々が続く。第一、妻の感情が不安定になりがちだ。ホルモンがアンバランスになり、わけもなくイライラしたり落ち込んだり。夫はどうしていいかわからず、ただオロオロするばかり――。

意外に知られていない
「男性不妊50%」の現実

 「ああ、やだやだ。やっぱり不妊治療なんかやめて、自然に授かるまで待とう」

 そう思った読者も少なくないのでは。だが、ちょっと待ってほしい。出産をめぐる実情はそれほど単純でもないのだ。

 森永卓郎氏は著書『<非婚>のすすめ』(講談社現代新書)の中で、1941年に岩倉具栄公爵が出版したという『戦時人口政策』という本を取り上げている。以下はそのくだりだ。

 「大正7年8年の我が国の人口増加が、最高度に達していた頃は一夫婦は平均5児を生んでいたし、医学的にも日本人は普通年齢に結婚して完全なる結婚生活を営めば、まず平均4児を生み得ることになっている」

 だが2010年、ひとりの女性が一生の間に産む子どもの数「合計特殊出生率」は1.39。前年より0.02ポイント上昇したものの、依然低いこと にかわりはない。子どもを産むことは、一生のうちあるかないかの「一大事」になってしまったのだ。冒頭にも触れたように結婚したからと言って、また、望ん だからと言って、必ずしも産めるとは限らないのである。

 「産みづらい時代」になってしまったのはなぜなのか。あらためて不妊症の原因や背景について松本さんに聞いてみた。

 「不妊症の一般的な定義は健康な男女のカップルが、避妊なしのセックスをして2年以上経っても授からないこと。

 女性側に原因があるものと思い込んでいる人は多いですが、じつはそうでもないんです。WHOが不妊の原因を調べたところ、夫のみに原因があるケー ス、夫婦両方に原因があったケースは合わせて49%でした。不妊カップルの2組に1組は男性側に原因があった、ということですね」

 そういえば、ジャガー横田さんや太田光代さん、東尾理子さんなど、女性有名人の不妊治療はマスコミを賑わせても、「オレも取り組んでいます」という男性有名人の話はあまり聞かない。

 だが現実には、「男性不妊症」は年々増えている、と言われている。

 1992年、デンマークの研究者が「過去50年間に男性の精子が半減した」と発表。これを受け、日本でも調査を行ったところ、過去30年間に10%の精子減少が認められたという。とくに1990年以降、強い減少傾向があったそうだ。

 原因として指摘されているのが、ダイオキシン、PCB、DDTといった環境エストロゲンの影響である。実際、環境汚染の著しい中国では不妊カップ ルが急増。専門家の調べで、男性の精子の数が30~40年前の20~40%と激減していることがわかった。中国新聞社(2009年3月2日付)によると精 子バンクの供給量は圧倒的な不足状態で、提供を待つ夫婦は1000組以上にのぼる、とされる。「闇の精子バンク」も横行しているという深刻な事態だ。

 「このほか、ストレスも要因とされています。不妊症は妻だけでなく、夫にとっても身近な問題であることを認識してほしいですね」と松本さん。

 ストレスは妊娠を望むカップルにとっては天敵だ。男性ホルモン、テストステロンを低下させるからである。テストステロン値が低下すると、精力減退や勃起不全(ED)を招くほか、精子が減少したり、運動率が落ちたりする。

 なお、「ノートパソコンを長時間ひざに乗せ作業している人は、不妊症になる可能性がある」という研究者の指摘もある。多忙な現代の男性は、さまざまな不妊リスクにさらされているのだ。

“35歳神話”は嘘だった!?
女性の「卵巣機能」は27歳で衰え始める!

 もちろん、晩婚化の影響も大きい。松本さんはこんな話もしてくれた。

 「男女雇用機会均等法が施行されて以来、男性に負けじと頑張ってきた女性たちが、いつのまにか婚期を逃し、出産のタイミングを見失っていた。『35歳までは大丈夫』と自分に言い聞かせて……。

 でもね、じつは卵巣の機能は27歳をピークに衰えていくんです。27歳といえば仕事もひととおり覚え、後輩や部下もできて、社会人として一番のっているときでしょ。結婚はおろか、出産なんてまだまだ先の話、と思っている人が多いんじゃないでしょうか」

 厚生労働省の調査によると、女性の平均初婚年齢は2009年現在で28.6歳。卵巣機能が下り坂になってから結婚する人が多いことになる。なお、 「40歳時点で子を産んでいない女性の割合」は増え続けており、昭和28年生まれの女性では10.2%と10人に1人だったが、昭和44年生まれでは 27%。およそ3人に1人だ。

 優秀でまじめな女性ほど、職場での責任を果たそうと頑張り続け、プライベートなことは後回しにしがちだ。しかし皮肉なことに、そうした「まじめな妻」たちが不妊症を抱えるリスクは大きいのである。

 仕事のストレスを背負い込んだ夫に、まじめで頑張り屋の妻。今の日本、こうしたカップルはごまんといることだろう。不妊症が増えているのもうなずける。

 こうした現実を受けてか、日本の不妊治療の水準はかなり高く、体外受精を行う施設数も世界で断トツトップという。しかし技術的に進んだ治療を続け、晴れて我が子の産声を聞けるカップルばかりとは言えないようだ。

治療総額300万円以上の人は12%
借金まみれで治療を続けるカップルも

 最大の壁のひとつが治療費用の高さである。

 「体外受精や、精子を直接、卵子に注入する顕微授精は1周期あたり数十万円とかなり高額。私たちが行った『経済的不安に関するアンケート』調査に よれば、回答者の84%が経済的理由で不妊治療を中断しています。夫婦の合算収入から治療費をまかなうカップルが多いのですが、治療のため妻が働き続けら れなくなる、というジレンマも生じています」(松本さん)

 ちなみに、これまでに支払った不妊治療費の総額について「100万~200万円未満」と答えた人は23.1%。300万円以上という人も12%を占める。

 出産をめぐる国の制度は、まだまだ充実しているとは言い難い。たとえば現行の特定不妊治療費助成制度では、1回15万円を限度に年間2回の治療費助成を受けられる。1夫婦への助成は通算5年間10回が限度だ。

 一見、親切な制度のようだが、松本さん曰く、これが「意外に使いづらい」と不評だそう。

 「今の制度内容だと、1回50万円程度かかる体外受精、顕微授精を受けるためには、自費で約35万円を負担しなければなりません。その費用が捻出 できず、治療を見送ってしまう方が大勢います。そうこうするうち、出産のベストタイミングを失ってしまうことになりかねない。だけどもし、『総額150万 円がいつでも使える』という制度ならどうでしょうか。時機を見計らい、3回は治療にトライできるわけです」

 だが、今のところ多くのカップルが高額の費用負担にあえいでいるのが実情だ。

 「今は貯金を切り崩しているが、底をついたら治療は諦めるほかない」

 「夫の収入が激減し治療ができなくなった」

 「借金だらけ。医療費だけで家計が火の車」

 前出の調査回答にはこんな切実な声も多数寄せられたという。

何気ない一言で火がつく
「不妊離婚」の導火線

 もうひとつ、知っておきたいことがある。前述したように、不妊治療に取り組むカップルは、とかく「夫婦の危機」に直面しやすいことだ。

 落ち込む妻によかれと思ってかけた一言が、かえって火種となり、言い争いに発展してしまうこともある。場合によっては離婚に至るケースも――。「ある男性からこんな話を聞きました。流産のあと、泣きじゃくる妻を慰めようとして、大喧嘩になってしまった。彼はぽつりとこうもらしていました。 『本当は自分も泣きたかったんです』。そして、『でも自分まで泣いたら妻がよけいつらくなると思い、ぐっと涙をこらえました』と。一方、妻はこう打ち明け ました。『言葉なんていらなかった。ただ泣かせてほしかった』」(松本さん)

 当然、こんなケースばかりではない。共通の目的ができたことでより絆が強まる場合もあるだろう。だがいずれにせよ、産むことの代償は夫婦どちらに とってもけっして小さくない。経済的負担に精神的エネルギー。通院のため、キャリアをあきらめる女性もいるし、肉親、友人の心ない言葉に傷つき、仲たがい してしまう人もいる。

3.11で増えた「それでも産みたい夫婦」

 そんな時代に襲った、今回の大震災。インターネットの掲示板などには、「景気の不透明感や放射能の影響が不安で、子作りに踏み切れない」といった書き込みが目立った。

 その一方、明るい兆しもある。

 「当NPOでは不妊治療に関する相談窓口を設けているのですが、3.11以降、なぜか若い人からの問い合わせが急に増えたんです。震災という危機に直面し、あらためて新しい生命を生み出すことの尊さに気付いた方が多いのでしょう」(松本さん)

 もちろん、不妊治療がすべていばらの道というわけではない。医師の指導のもと子作りをおこなう「タイミング療法」により、うまく妊娠するケースも多数ある。人によっては卵管に造影剤を通す検査などをしただけで妊娠しやすい身体になり、難なく子どもを授かる場合も。

 だがそれでもやはり、不妊治療にチャレンジする際には、「きちんとした知識が不可欠」と松本さんは言う。

 卵巣機能のピーク年齢が27歳であること。不妊カップルの2組に1組が男性不妊を抱えていること。男性の場合は産婦人科だけでなく、泌尿器科でも 不妊治療できること――。正しい知識をあらかじめ持っておくことで、不妊治療への取り組み方、タイミングも変わってくるはずだ。早ければ早いほど成功率は 高くなる。ちなみに男性不妊の検査は痛みをともなうわけではなく、治療によって克服することは可能だそう。

 そして、もうひとつ知っておかなければならないのは、「不妊治療は万能ではない」という現実である。

 治療技術が発達し、高齢でも子どもを産むことが可能になっている。「だからきっと自分も」と期待する人は少なくない。とはいえ、3.11でも思い知らされたようにしょせんは“人間の分際”なのだ。「最終的には神様に任せよう、という覚悟が大切では」と松本さんは言う。

 わが子の笑顔に出会うことは何ものにも代えがたい最高の喜びだ。だが、不妊治療に踏み切った夫婦を待ち受けるのは、必ずしもバラ色の未来とは限ら ない。前向きに治療に取り組むとともに、あきらめた場合の「出口」についても夫婦で話し合っておく必要があるのではないか。子どもを持たない人生について も想定しておくのだ。現代は「高齢でも産める時代」であると同時に、「何かと産みづらい時代」でもあるのだから――。

 医療は発達しても、社会情勢は子作り、子育てに厳しい日本社会。さて、子どもがすっかり「贅沢品」となってしまった現代、あなたは不妊治療についてどう考えますか?

2011.06.17 ダイヤモンドオンライン

「嫁なき時代」に激増する“介護失業” 独り身息子たちが悲鳴を上げる「親の老後問題」

2011/07/14 23:30 に 小林哲也 が投稿

 仮にあなたが独身で、親と同居しているビジネスパーソンだとしよう。いつものようにめまぐるしい1日が終わり、疲れて帰宅してみると、なんと玄関には倒れている親の姿が――。

 さて、親に万が一のことがあったとき、あなたは仕事を取りますか、それとも介護を取りますか。

 というわけで、今回のテーマは「シングル介護」。今、介護の担い手は、従来の主婦層からビジネスパーソンへと急速に変わりつつある。「“嫁”なき 時代」における介護の厳しすぎる実情を、NPO法人介護者サポートネットワークセンター・アラジンの事務局長中島由利子さんに伺った。

<今回のお題>
「親が倒れたら、仕事と介護どちらを取る?」中島由利子さんの話

親の介護で退職する人が激増中!
直面する「同時多発介護」の恐怖

 親の介護で仕事を辞める人はどのくらいいるのだろう。少し前にさかのぼるが、総務省の就業構造基本調査によると、2006年10月~翌年9月まで に介護で離職、転職した人は約14万4800人。「寿退職」の17万8000人に迫る数だ。男性でも増えており、約2万5600人と、その9年前の約2倍 に急増している。

 なぜ今、介護失業者が増えているのだろうか。

 もちろん、高齢化の影響は大きい。厚生労働省の介護保険事業状況報告によると、今年1月の要介護認定者数は502万人。2000年4月の調査スタート時に比べおよそ300万人増えた。

NPO介護者サポートネットワークセンター・アラジンで は、毎週木曜  AM10:30~PM3:00に、介護の悩み相談【心のオアシス電話】をオープンしている。Tel 03-5368-0747 また、シングル男性介護者 の集い、シングル女性介護者の集いも開催。詳細はHPを参照。

 一方、介護する側にも変化が起きている。

 NPO法人介護者サポートネットワークセンター・アラジンの事務局長中島由利子さんは次のように明かす。

 「昔は介護といえば嫁の仕事だったのですが、今は娘や息子が担い手になっていることが多い。それも独身の人が目立ちます。とくにもともと親と同居していたというケースが圧倒的ですね」

 高齢の親を独力で支えなければならないビジネスパーソンが次々に職場を去っていく。このまま晩婚化、非婚化が進めば、介護退職者は今後さらに増えるにちがいない。

 実際、親元で暮らす未婚者は増加傾向にある。2005年の国勢調査によると配偶者のいない子どもと高齢者の世帯の数は20.6%。5世帯に1世帯の割合だ。とくに埼玉、千葉、東京、神奈川、大阪など、職場に通える大都市近郊で多い。

 「学卒後もなお親と同居し、基礎的生活条件を親に依存している未婚者」が「パラサイト・シングル」と呼ばれ始めたのは1997年頃だ。おかげで若 者バッシングの風潮が煽られる結果となってしまったが、当時、なかなか職に恵まれず、自活できるだけの収入がない未婚者は相当数いたはずである。正社員に なれなかったため、結婚しづらくなってしまった人もいた。「若者不遇の時代」「世代間格差の時代」の始まりが、ちょうどこの頃だったのかもしれない。

 だが、それから10年余りが経ち、親も子もともに年をとった。子どもは職場でそれなりの責任を持つ年齢に達しているが、親の方は心身ともに弱くなってくる時期だ。

 怖いのは、両親が相次いで倒れる「同時多発介護」である。

 高齢化した親は、連れ合いが倒れたことで心労や疲労が重なると、自分も寝込んだり、認知症を発症してしまったり、ということがよくある。そうなれば身近な息子、娘がダブル介護せざるを得なくなる。

 就職氷河期で職探しに苦しんだロスジェネ世代は、今度は「介護失業」の危機に瀕しているのだ。

介護で結婚が遠のく――
「恩返し介護」中の息子たちの悲鳴

 もちろんこうした事情は別居している子どもも同じだが、親に家事などの面倒を見てもらっていた場合、心身の負担はいっぺんに増えることになる。

 パートナーのいない同居シングルの場合、母親が主婦役を引き受けてくれたことで、仕事に専念できていた面もあるだろう。ところが親が倒れれば、突然「仕事」「介護」「家事」の3つが同時に降りかかってくる。

 また、同居シングルは愚痴を言えるパートナーがいないことから、精神的に孤立しやすい。とくに男性は、周囲にも介護していることをひた隠しにしていたりする。「介護しているなどと知られたらキャリアに響く」と考える人も少なくないからだ。

 その一方、介護しているために結婚がしづらくなってしまうというジレンマも生じている。

 「もう一つの問題は、親子間で密着しすぎる『カプセル状態』に陥りやすいことですね」と中島さん。

 「親子は嫁姑などに比べて精神的に近い存在。娘の場合はなおのこと、『お母さんは私がいなきゃダメだから……』などと思いこみがちです。看病する ことに自分の存在意義を見出してしまうんですね。『施設に預けたら』『デイサービスを使ってもっと楽に介護をしたら』などと周りが助言しても、そばを離れ るわけにはいかない、と耳を貸そうとしません。挙句、心身ともに疲れ果ててしまうのです」

 母親と一心同体化してしまう「一卵性親子」の娘は、子どもの頃から母親の期待に応えようと頑張ってきた。このため、母親が要介護状態になっても「いい娘」を演じ続け、過剰に頑張ってしまうのだそうだ。

 一方、息子にありがちなのが「恩返し介護」。生意気盛りの反抗期の頃も、受験や就職で心配をかけたときも、つねに温かい愛情を注いでくれた親。その親に今度は自分がお返しをしてあげたい、とじつに熱心に世話をする息子が多い。

 「もちろん素晴らしいことなのですが、知らないうちにストレスを溜めこんでいることも。高齢者虐待事件の加害者のトップは実の息子ですが、聞くと『ふだんは優しい息子さんだった』ということが多いそうです」

「介護失業」で
生活保護受給者になる人々も

 そして、シングル介護の最大の壁が「仕事との両立」である。

 ほかに家族がいればいいのだが、2人暮らしの場合、仕事に出ている間、親が日中独居になってしまう。といって、そうそう気軽に介護休暇を取れないのが実情のようだ。

 育児・介護休業法では、対象家族1人につき、要介護状態に至ったごとに1回、最大93日間の休暇が取得できることになっている。また、昨年から施行された改正法により、1人の要介護者につき年に5日(2人の場合は10日)の短期休暇も取れるようになった。

 だが、実際に介護休暇を活用する人はほんのわずか。労働政策研究・研究機構の調査によると、取得者率はじつに1.5%だ。「そもそも職場に介護休業制度がなかった」「ほかに介護休暇を取った人がいなかったので、情報がなかった」などの理由が目立っている。

 休暇を取ること自体への不安も大きい。第一に経済的な不安。休業期間中の賃金・賞与の取り扱いは、労使の自由な取り決めにゆだねられているため、 完全に無給状態になってしまうこともありうる。その場合は、休業する前の賃金月額の最大40%が介護休業給付金として支給されるが、社会保険料の免除はな い。

 しかたなく年次休暇や病欠でなんとかやりくりしようとする人が多いが、それも限度がある。

 「そもそも、93日間休んだところでどうにもならない」という声も。脳溢血で倒れた場合は3ヵ月ほどで回復するケースもあるが、認知症やその他の 病気ではその間に事態が収まるどころか悪化することもありうる。「最終的に介護休暇を取ったとしても、親の状態はよくならないので、職場に復帰しにくく なってしまうようです」(中島さん)

 最悪、仕事を失えば退職金を食いつぶしながら介護することになる。それも底をつけば、親の年金で生活することに――。中島さんによると、中には生 活保護を受けながら介護を続けるケースも見られるそうだ。そうこうするうち、アルコールに依存する人、うつに陥ってしまう人もいる。

 世間ではまだまだ「親の介護は嫁の仕事」が大前提。そんな“嫁”が希少な存在となりつつある今、「シングル介護」をする人々は働くに働けない状態だ。だがこのままでは、そう遠くない将来、企業は相当数の貴重な人材を失ってしまうことになる。

「ただ今介護中」
カミングアウトして応援団を作れ!

 高齢化や晩婚化・非婚化が進む今の日本。一人っ子も多い。前述したように、近い将来、「シングル介護」はごく当たり前の現象になるだろう。だが、その現実に社会はまだ対応することができずにいるようだ。

 では、親にもしものことがあれば、私たちはどうすればいいのだろう。

 思い出されるのが、今回の震災で被災地が発信した「SOS」。病院の屋上に取り残された職員たちが上空を飛ぶヘリコプターにメッセージを送り、尊 い人命が救われた。SNSを使って救援物資を募った医師もいた。自分から救いを求めれば道は開ける。シングル介護では周囲に介護していることを言えず、孤 立してしまう息子や娘が多いが、積極的に地域や職場に助けを求めるべきだ、と中島さんは話す。「介護していることを周りにどんどんカミングアウトすることで、気持ちも楽になるし、いい情報も入ってくる。ケアマネージャー以外にも地域に相談相手を見つけておくといいでしょう。

 地域の貴重な情報資源が 、経験豊かな“おばちゃん”。居酒屋や定食屋で働く年配女性などを見つけ、話し相手になってもらっては。姑の介護経験などがある場合は、いい情報をたくさ ん持っているはず。あるいは、地域包括支援センター、社会福祉協議会、民生委員などに相談を持ちかけるのも手です」(中島さん)

 同じように介護をしている人と話し合うのもいい。NPO法人介護者サポートネットワークセンター・アラジンでは、シングル介護をしている人々が集 うサロンを開いている。また、自治体で開催する介護セミナーや介護教室に出かけたりすると、「介護仲間」との出会いがあるはずだ。「つらいのは自分だけ じゃないんだ」「そんな介護の方法があったのか」など発見も多いはず。

 「ちょっと勇気がいるかもしれませんが、職場の同僚や上司にも話をしてはどうでしょう。メーカーに勤務していたある男性は、思い切って介護してい ることをみんなに明かし、『これからは5時に退社するけれど許してほしい』と持ちかけたそうです。介護疲れからミスが続発しており、このままでは周囲に迷 惑をかけてしまう――と思い悩んだうえでの決断でした。今、男性は在宅勤務をしながら介護をしています」

 腹を割って話せば、理解してくれる人はいるはずだ。オープンにすることで、介護休暇も少しは取りやすくなるだろう。その場合、いきなり3ヵ月休む のではなく、細切れに取る方法もある。親が倒れた当初は少し長めに休ませてもらって対策を練り、その後は状況に応じて少しずつ取得していく、などだ。

 「親の介護は自分の仕事と思い込んでいる人が多いが、そうではない。息子や娘の仕事は介護のマネジメントをすることだ」と中島さんは話す。他人任 せにするのは無責任だ、などと考えずにどんどんプロの手を借りよう。地域包括支援センター、ヘルパー、デイサービス、ショートステイ、あるいは民間や NPOの配食サービス、そして施設。息子、娘はとかく介護に前のめりになりがちだが、どこかで「自分は自分」と冷静に事態を見つめる必要があるのではない か。

 親を捨てて仕事を取れば悔いが残るだろう。かといって、仕事を捨てて親を取れば自分が立ち直れなくなってしまう。では、どう両者のバランスを取り、どんなスタンスで介護ライフに臨むのか。それは自分次第だ。

 さて、親が倒れた時、あなたはどうしますか?

2011.07.01 ダイヤモンドオンライン

リーマンショック後のボーナスが語る“不気味な真実” 「日本人“総低年収化”の時代」がやって来る!

2011/07/14 23:27 に 小林哲也 が投稿   [ 2011/07/14 23:29 に更新しました ]

 待ちに待った夏のボーナスが出た。使い道について、あれこれ楽しく思いを巡らせている人も多いことだろう。だが、その一方で「もともとボーナスなんかないし…」「制度はあるけど、出なかったし…」という人もいる。

 じわじわと広がっているように見える「ボーナス格差」。だが、その裏ではもっと不気味な現象が進行しているようだ。さて、その現象とは――?賃金・人事コンサルタントで北見式賃金研究所の代表を務める北見昌朗さんに話を聞いてみた。

今回のお題 
「今後、ボーナスがアテにできない世の中になったら……耐える?攻める?」

新人にも6月から支給!
削減傾向とはいえ、厚遇な公務員のボーナス

北見昌朗(きたみまさお)さん
北見式賃金研究所所長。給与コンサルタント。社会保険労務士。経済記者を経て、平成7年に独立。モットーは「社員あっての会社 会社あっての社長 社長あっての社員!」。「消えた年収」(文藝春秋)など著書多数。名古屋市出身

 「信じられない。ボーナスも出ない会社に勤めているなんて……」。

 山崎愛美さん(仮名・31歳)は最近付き合い始めた彼氏と、かなりうまく行っていた。結婚も真剣に考えていたらしい。ところが、つい先日彼に「ボーナスいくら出た?」と聞いたところ、「今年は出なかったよ」という返事が――。

 母親にそのことを話すと「そんな人と付き合うのはやめなさい、結婚してボーナスが出なかったらマンションだって買えないじゃないの!」と交際を反対されたという。

 経団連の発表を見る限りは、2011年夏のボーナスはおおむね「太っ腹傾向」のようだ。大手企業120社の今夏の平均妥結額は79万3457円。前年を上回る結果となった。震災の影響がもろに出るのは今年冬からの見通し、というのが大方の見方だ。

 その一方で、雀の涙しかもらえない人や、まったく支給されなかった、という人も。筆者などもフリーランスなので、バーゲンにも行けない悲惨な有様である。

 会社によって大きな差がつきやすいボーナスだが、一方で官民の格差もある。

 北見さんはこんな話をしてくれた。

 「会社ではボーナスを『賞与』と呼びますけど、公務員の間では『期末・勤勉手当』と呼ばれる。会社員の場合と違い、彼らのボーナスは給与の一部としてしっかり保証されています。

 また、公務員の場合、4月に入ったばかりの新人でも6月にはばっちりボーナスが支給されます。これに対し、大企業の新人は入社年の夏のボーナスはゼロで、冬から出る。一方、中小企業の場合は夏、冬ともに出ません。翌年夏から支給されます」

 なにしろ中小企業の経営実態は依然苦しい。東京商工リサーチの調べでは、今年5月、6月の企業倒産件数は2ヵ月連続で前年を上回った。「ボーナスどころじゃない」という会社も相当あることだろう。その実態は、経団連の統計には一切反映されていない。

 さらに言えば、「そもそもボーナスをもらえない」という非正規労働者の割合も多い。厚生労働省の平成21年若年者雇用実態調査によると、全労働者 に占める若年労働者(15~34歳)の割合は32.9%。このうち21.1%が正社員で、非正社員はその半数以上の11.7%に及んでいる。

 会社によって差が生じるのはある意味しかたがないが、これまでのような公務員の優遇ぶりや、正社員と非正規社員の待遇の違いはフェアとは言えないだろう。

 公務員、大企業社員、中小企業社員、そして非正規社員――ボーナスをめぐる待遇差は、どんどん開いているのではないだろうか。そんな「ボーナス格差社会」で負け組になれば、冒頭の彼のように恋人に逃げられてしまうことだってありうる。

20年間で30兆円の給料が消えた!
「低年収社会」に突入した日本

 ところが北見さんに聞いてみたところ、意外にもこんな答えが返ってきた。

 「ボーナスや年収の変化を見る限り、日本はけっして格差社会になったわけではないんですよ」

 いったいどういうことなのか。

 北見さんは有志のネットワークを通じ、毎年、じつに数万人分もの給与明細を集めている。これをもとに独自の給与統計を作成しているそうだ。その名も「ズバリ!実在賃金」。東京や大阪、愛知など、全国の都市のデータを網羅している。

 統計を分析する際は、平均値ではなく、「分布」や、すべてのデータを並べたときど真ん中に来る「中央値」を見るという。高額な給与を得ている人がいると、平均値は上の方へ引っ張られ、正確な実態を映し出さなくなるからだ。

 この統計を使い、ボーナスの分布をリーマンショックの前と後で比較したところ、なんとも不気味な事実が浮かび上がってきたという。「愛知版のデータを見てみてください。夏と冬のボーナスの合計を見ると、リーマンショック前は年間300万円もらっていた管理職が10%以上いた。ところがリーマン後は2%にまで下がっていますよね。

 一方、60万円未満という人は、以前は7%だったのが14%と倍増。90万円未満も12%だったのが、18%に増えた。つまり、高額なボーナスをもらっていた人のシェアが落ちて、より少額の人がガーンと増えているってことなんですよ」

 ボーナス格差が開いたわけではなく、全体的に支給額が下がっているというのだ。ちょっと意外な話だが、年収全体ではどうなのだろう?

 北見さんが、年代や階層ごとにリーマンショック前後の年収を比べたところ、グラフはみな同じ傾向を示していた。どれも年収の低い層が増え、高い層が減っていたのだ。

 たとえば30代一般男子の年収を見ると600万円未満の人は28%から19%に減った。かたや400万円未満の人は15%から29%に跳ね上がっている。愛知県で働く30代の一般男性社員は、3人に1人が年収300万円台以下になってしまったのだ。

 「低年収層が増え、高年収層が減ったということは、全体が低年収化しているということ。つまり日本は格差社会になったのではない。リーマンショックをきっかけに『低年収社会』に突入したのです」。

 さらに、働く人びと全体の給与合計の推移を追うと、とんでもないことがわかった。

 1998年、働く人々全体の給与は222兆円だった。それが2009年には192兆円にまで落ち込んでいたのだ。この10年余りの間に日本人は30兆円もの給与を失ったことになる。30兆円と言えば、経済破綻した当時のギリシアのGDPと同じ規模だ。

50代になっても年収500万円に届かず…
社会保障制度の前提崩れる

 ショッキングなのは50代一般男性社員の年収中央値だ。

 「530万3000円から480万7000円とおよそ51万円減っている。ついこの間まで、大都市圏に勤務する50代男性は、一般社員であっても年収500万円はなんとか確保できていた。ところがリーマンショック以後は、ついにその水準を切ってしまったんですよ」

 50代といえば子どもの教育費もかさみ、一家の大黒柱として負担がずっしりと重くなる頃だ。そんな世代の年収が500万円を切る……。考えただけでもしんどそうだが、問題は家計のやりくりだけにとどまらない。

 北見さんの見方はこうだ。

 日本の社会保障制度は「有業者の夫と専業主婦の妻と2人の子ども」という標準モデル世帯を前提に成り立っている。夫の年収として想定されているのが500万円だ。

 しかし、財源となるべき人々の収入は、想定した金額を下回るようになってしまった。今後、現行の社会保障制度を維持するのはますます難しくなるだ ろう。ちなみに、愛知のみならず、東京や大阪でも50代一般職男性の年収中央値は500万円を切っているそうだ。その他の地方都市ではすでに400万円未 満というところも増えている。

インド人労働者が1.1億人増える!?
「割高」な日本人と膨れ上がるアジアの労働人口

 消えた年収と賞与はいったいどこへ行ってしまったのか?北見さんは「中国が富を吸い取った」と考えている。

 知っての通り失われた10年の間に、企業は生産拠点を人件費の安い中国へ移した。安い人件費で作った安価なメイドインチャイナ製品は、大量に日本 に流れ込んだ。おかげで企業の売上が減り、給料も下がる、という現象が生じている。この「中国発デフレスパイラル」のおかげで、日本人の収入は急速に減っ てしまったのだ。

 さらに襲ったリーマンショックで国内市場の冷え込みはより深刻化する。日本国内の事業を縮小し、アジアに人、モノ、金を注ぎ込む企業が続出した。 こうして30兆円もの日本人の給料があとかたもなく消えていったのである。すべての発端はグローバル化と、そして日本人の人件費の高さだったといってい い。

 ところで、ボーナスはそもそもどうして生まれたのだろう?北見さんは次のように説明する。

 「戦前の職工たちは、盆と正月休みのときに家への土産費用として餅代と称する小遣いをもらった。これがボーナスの原型です。戦後、職工の正社員化 がおこなわれ、日当は月給に、餅代はボーナスになりました。会社側からすれば、賞与を出すことはある意味で都合がよかった。給与は業績が悪くても簡単に減 給できないが、その分、賞与で調整できるからです」

 とはいえ、年2回支給することが決まっている賞与制度は日本独特のものという。海外では、増益の際に支給される特別手当などが一般的だ。

 かたや人材のグローバル化は急激に進んでいる。ILOの発表によれば、今後10年の間にインド人の労働人口は1.1億人増大するそうだ。「安い人 件費で戦う外国人」vs.「何かとお金のかかる日本人」。世界全体から見れば、ボーナスの存在自体が「日本人の割高感」につながっているのかもしれない。

 私たちにとって、結婚資金や住宅ローンの返済、教育費用などに充てる大切な資金だったボーナス。それは会社から社員に向けた「あなたの未来の幸せを約束しますよ」というメッセージだったのだろう。

 しかし、今やかつてのように一生、高額のボーナスをもらえるとは限らない時代だ。「未来の幸せがもれなくついてくる仕事」は望めなくなった。

 日本人は今後、会社に頼らず、未来の幸せを自分でつかむべきなのだろうか?

 それとも華やかな結婚式や住宅購入といった、従来の成功や幸せの定義を見直すべきなのだろうか?

「金型の受注が増えてきた…?」
中国人の給与が上がると日本にチャンスが戻る!

 そんな時代に襲った、今回の震災。夏のボーナスには大きな影響が出なかったところも、今冬以降はわからない。ここのままでは「ボーナスゼロ」、あ るいは「1ヵ月分未満」という会社はもっと増えるのではないか――。思わず暗澹としてしまう北見さんの話だったが、最後に少し明るいニュースを教えてくれ た。

 「最近、あちこちの金型工場で、一度なくなった仕事がまた舞い戻りつつあるんですよ。中国の人件費が高くなってきていて、日本の工場に発注するのとそう大差がなくなっているらしい」

 この現象はまもなくあちこちの業界で見られるようになるのではないか、と彼は言う。もちろん、そうなれば今起きている「中国発デフレ」は、「中国発インフレ」に変わるだろう。我々の暮らしはますます厳しくなるに違いない。

 しかし、中国をはじめアジアとの賃金格差が縮まることにより、仕事は再び日本に戻ってくるのではないか――と北見さんは読んでいる。中国が第12次五ヵ年計画で、国民所得の倍増を目指していることを考えれば、それは遠い将来ではない。

 いずれにせよ、今後数年間が一番キツイ上り坂になりそうだ。

 さて今後、「一億総“低所得化”」が進むかもしれないこれからの日本社会。

 あなたなら、中国人やインド人に負けないグローバル人材となって、豊かな将来をつかみますか?それとも、低成長時代にふさわしい、身の丈にあった暮らし方を選びますか?

2011.07.15 ダイヤモンドオンライン

日本の将来

2011/07/13 21:21 に 小林哲也 が投稿   [ 2011/07/13 21:22 に更新しました ]

地震も津波も原発も放射能も怖いけど、日本の将来も結構怖いよ。下記は、過去から将来の日本の年齢別人口の推移&予想グラフです。直近の2009年と2050年の予想値を比較してみました。


まずは、20代と30代の合計人口・・・2009年にくらべて2050年は49%減少。つまり半減します。

f:id:Chikirin:20110323085150j:image



一方、75歳以上の人口は、73%も増加する。しかも数字を見てね。20代と30代を合せても1658万人しかいないのに(上記グラフ)、75歳以上が2373万人(下記)いるんだよ・・・。

f:id:Chikirin:20110323085149j:image



65歳以上人口は29%増なんだけど、人口全体に占める割合は4割に達します。10人に4人が65歳以上の国。

f:id:Chikirin:20110323085148j:image



前回のエントリに書いたけど、地震とは関係なく早急に「生活支援生産性」を高めないと、将来の担い手(今の子ども達)の生活は成り立たないよん、というお話でした。



そんじゃーね。




<年齢別人口データ出所>

・1950, 1960, 1970, 1980, 1990, 2000: 国勢調査

・2009: 2005年の国勢調査に基づく人口推計 by 総務省(2010年の国勢調査の年齢別人数データはもうすぐ発表かも)

・2020, 2030, 2040, 2050: 国立社会保障・人口問題研究所 長期予測 死亡中位、出生中位データ



2011/03/23 Chikirinの日記

日本介護福祉G、高齢者住宅参入へ- 来年度中に3-5棟開設

2011/07/12 23:21 に 小林哲也 が投稿   [ 2011/07/12 23:22 に更新しました ]

 宿泊サービス付きの小規模通所介護事業所「茶話本舗」を展開する日本介護福祉グループはこのほど、サービス付き高齢者向け住宅の運営事業に参入する方針 を固めた。来年度中に関東地方に3-5棟を開設する予定。通所介護事業所に長期間宿泊する高齢者らを中心にニーズがあると判断した。

 住宅の規模は1棟当たり20-30戸程度。主な入居対象者として、通所介護事業所で長期間宿泊する人や特別養護老人ホームの入所待機者、生活保護受給者 らで、医療や介護の必要性が高い人を想定している。このため、入居者の負担については「徹底的に建築のコストを抑制し、介護保険サービスの自己負担分を合 わせても15万円以内に抑えたい」(斉藤正行副社長)考え。

 住宅には介護保険の居宅サービスも併設する方針。新たに手掛ける訪問介護事 業所とのセットを基本に、通所介護を加えたタイプや、さらに訪問看護とクリニックを併設するタイプも検討している。訪問介護サービスについては、現行の訪 問介護を採用するか、24時間体制で訪問介護と訪問看護を一体的に提供する新サービス「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」を採用するかは、「検討中」 (同)だという。

 将来的な開設計画について斉藤副社長は「茶話本舗の事業所15か所に、高齢者住宅1棟の割合での展開を目指す」としている。
2011/07/13 医療介護ニュース

“所得制限”は晩婚晩産・共働き世帯に負のメッセージ 「子ども手当」見直しがもたらす少子化問題の深刻 ――東レ経営研究所 渥美由喜

2011/07/06 16:46 に 小林哲也 が投稿   [ 2011/07/06 16:49 に更新しました ]

民主党政権が鳴り物入りで開始した「子ども手当」は、東日本大震災の復興財源確保のため、本 格的な制度の見直しが検討されている。廃止・制限などにより不足している復興財源を補うことはできるが、回復傾向にある合計特殊出生率に冷水を浴びせかね ず、一層深刻さを増す少子化問題や財政構造が厳しい社会保障問題を解決困難にする恐れもある。では今後、財源確保が厳しくなるなか、少子化対策はどのよう に行われるべきか。内閣府「少子化社会対策推進会議」委員も務める東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長・渥美由喜氏に、少子化問 題解消のために政府が行うべき施策、そして企業や個人に求められる対策を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)

日本の子育て支援はOECD加盟39ヵ国38位
「子ども手当」再考前に年金給付の見直しを

――東日本大震災の復興資金の捻出先の1つとして「子ども手当」が挙げられ、同制度の見直しが急務となっている。支給額の減額や所得制限、廃止などが囁かれる中、このタイミングでの同制度見直しをどう捉えているか。

あつみ・なおき/東レ経営研究所 ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長。1968年生まれ。専門は人口問題、社会保障、労働雇用。内閣府の「少子化社会対策推進会議」委員も務める。著書に、『少子化克服への最終処方箋』(共著)、『イクメンで行こう!』等がある。

 現在、日本の人口ピラミッドは、逆三角形で不安定な状態である。それを何とか安定させようとするのが、子ども・子育て支援の意義である。しかし、 「子ども手当」などで子育て支援に関する財政支出を先進国並みにする動きが高まっていた最中、震災によって社会保障制度改革の“足腰”の部分が見直される のはタイミング的に最悪だ。

 もちろん震災対応は必須であり、子ども手当がその財源とされやすいのは理解できる。ただその前に、我が国の社会保障給付のなかで非常に手厚い高齢 者手当である年金制度にメスが入れられるべきである。実際、日本の高齢者給付に関する支出額(GDP比)は8.8%(OECD平均6.0%)で、OECD 加盟39ヵ国中7位と上位だ。子ども手当に所得制限をかける案も出ているが、年金こそ所得制限をかけるべきであるし、支給開始年齢もさらに引き上げるべき ではないだろうか。にもかかわらず、現在はあまり整合的ではない議論がなされているように感じる。

――「子ども手当」「高校無償化」などを大々的に打ち出した民主党政権によって、子育て支援は改善されたといえるだろうか。

 民主党が掲げた「子育て・教育を社会全体で支える」という理念は正しい。今まで、年齢制限・所得制限がある児童手当の受給世帯以外は、子育てへの サポートが何もない感覚が強かった。このことからも、これら施策で子育て支援環境は改善されたといえるだろう。しかし、方向性はよかったとはいえ、もう少 し賢いやり方があったのではないか。

 現状の子ども手当のような現金給付では、「子どもに給付」という名のもとに、親が自らの娯楽のために消費をする可能性もある。だからこそ、私は子 ども関連の支出に使途を限定するバウチャーの方が政策効果は高いと論じていたが、結局は雲散霧消してしまった。方向性は正しかっただけに、非常に残念であ る。

 また、制度の中身だけではなく、日本の子育て支援における社会保障給付の水準が依然として低いことは大きな問題である。我が国の子育てと教育への 公的支出は、2007年時点で4.4%と、OECD加盟39ヵ国中38位だった(GDP比、家族給付と初等・中等・高等教育への支出を合計。OECD平均 は6.9%)。昨年から子ども手当が支給されてきたが、実際には当初の半額支給(1万3000円)でいずれにせよ十分ではなく、震災の影響でさらに後退す れば圧倒的にその水準は低くなる。

 確かに、小泉政権時代に猪口邦子氏が担当相として少子化対策を行って以来、自公政権も民主党政権も子ども・子育てにウエイトを置く方向にあって環 境も改善しつつあり、出生率も2005年に1.26を記録して以降、改善傾向にあるのは事実だ。ただ、出生率が人口機会水準である2.07を上回らなけれ ば、人口は基本的に減り続けていく。2.07の出生率を維持するには、毎年10~15兆円の公的支出が必要だと私は考えている。子育て支援の絶対水準は、 未だに十分ではないことを忘れてはならない。

「所得制限」は晩婚晩産の共働き夫婦に
“応援しない”というメッセージを送りかねない

――「子ども手当」の見直しの1つである、所得制限の導入についてどう考えるか。

 子ども手当は子どもを社会的に支援するものだが、「親に必要性があるか・ないか」で所得制限を入れれば、“親手当”となってしまい、本来の理念とはかけ離れることになる。

 しかも、晩婚晩産で結果的に高所得になっている女性や共働きの人たちは、子ども手当によって、初めて自分たちが子育てをしながら仕事をがんばるこ とを認めてもらえたと感じていた。しかし所得制限によって弾かれてしまえば、子育てしながら仕事をがんばることを社会的に全く応援してもらえないことにな る。そのことに彼らは、すごくがっかりしているし、ネガティブに捉えている。

 また、先ほども述べたように出生率が改善しているのは、現在、若いときに産みそこなった晩婚晩産の人たちが“産み戻し”をしているためである。そういう人たちに、「産んでも応援しない」というメッセージを送ることになるため、基本的に所得制限は入れるべきではない。

 子どもは、親の所得水準を選んで生まれてきているわけではないし、高所得で余裕があるなら支給しないという考え方は一面的だ。子育てしながら働く のは本当に大変なこと。今、首都圏を中心に待機児童が多いが、所得水準が高いと後回しになりがちだ。そうなると認可外の保育園に入れざるを得ず、認可の保 育園よりかなり高額の金銭負担を強いられる。そうしたことからも、高所得なら支援が不要というのは明らかに誤っている。高所得層で専業主婦世帯ならば、も らう意義はないかもしれないが、共働き世帯ならば、きちんと支給されるべきだろう。

社会保障制度の議論は
「適正人口」から逆算して考えるべき

――社会保障と税の一体改革の議論が行われるなか、消費税増税の議論も高まっている。政府・与党はその議論を先送りしている感があるが、本来、どのように改革が行われるべきか。

 まず一番大切な概念は、日本の社会システムを維持するための「適正人口」の水準を明らかにすることである。今のままでは、100年後に日本の人口 は3分の1になってしまう。そうすれば、年金・介護・医療制度など、現状の社会保障制度は維持できない。だからこそ私は、「8000万人~1億人」を適正 人口とし、現在の1億2000万人の人口がその水準で下げ止まるような施策を打たなければならないと考えている。

 適正人口を維持するために、出生率をどの水準まで上げ、そのために子どもを産みたいのに産めないという人のギャップをどう埋めるのか。そういう議論や戦略が抜け落ちたまま、社会保障制度や税制を論じても無意味だ。

 現在の社会保障制度をめぐる議論を見ていると、給付抑制にかなり甘い部分がある。給付と負担の理論は、給付抑制を先に議論し、その後にそれでも賄いきれない部分をどう負担するか考えるべきである。

 直近の税制の将来推計は、「給付抑制しなくてもよい」という見通しを立てるために甘い数値が出されている。しかし本来は、きちんとした数字で、給 付抑制をドラスティックに行ってもこれだけ拠出を増やさないと賄えない、だから消費税をこれだけ上げるという順を追った議論をしていくべきだ。場当たり的 で、長期的な視点に立たないままでは、近く増税をしても十数年後さらに増税することになってしまうだろう。

1人3役「職業人」「親」「地域人」を
少子化対策は個人の果たす役割も大きい

――子育てしやすい環境をつくるため、社会全体や企業はどう変わるべきだろうか。

 現在の日本では、子どもたちが社会全体で育てられているかというと、そうとは言い切れない。ただ、タイガーマスク運動や被災地の子どもに向けた支 援や社会的な関心を見ていると、日本社会のお互い様という意識、思いやりはまだ失われておらず、子どもを育てる社会を取り戻しつつあるように思う。

 しかし、被災地の子どもたちの支援は今だけはなく、成人するまで求められる。また、支援が必要なのは被災地の子どもや施設に入っている子どもたちだけではない。こうした意識を一過性に留めず、永続的なものにして社会的に支援することが必要だと思う。

 また、この震災を機に、企業が被災地へのボランティア休暇を認める動きは、大きな変化だ。これまで論じられてきたワークライフバランスは、社内の 従業員の生活支援に留まっていたが、被災地など社外の生活支援にも目が移った。こうした「内向きのワークライフバランス」から「外向きのワークライフバラ ンス」への変化はよい機運で、これを永続的にしていくことが企業にとっても重要だろう。

――実際に男性が仕事をしながら子育てをするには、今後どのようなことがポイントとなるか。

 現在、私自身は5歳と1歳の子どもの子育て中で、父の介護もある。ただ、そうした“制約”がありながら働く男性はこれから増えていくはずだ。震災による夏の節電は典型だが、制約を前提としていかに仕事を業務時間内に終わらせるかに取り組まざるを得ない。

 今回の節電は、制約を当たり前にするという意味では、ワークライフバランスには追い風だと考えている。なかには長期休暇や平日休暇になる業種、業 界もある。そうすれば、今まで以上に、子育てをやらざるを得なくなる。うまくこの夏の節電対応を自分の家庭に使う時間に結びつけていくことが重要だろう。

 もちろんこの意見に対して、批判もあるかもしれない。震災によって仕事がなくなり、ワークライフバランスなんて言っていられない、業界によっては 一層忙しくなるところもあるだろう。しかし実際、不夜城のように深夜まで煌々と明かりが点いているオフィスは今、住民から非常に厳しい視線にさらされてい る。「社会的な責任に対して鈍感な企業だ」と、実際に住民が当局に密告しているケースもあるという。そうした意味で、“ワーク・ワーク”の企業はリスクが 高まる可能性がある。

 ワークライフバランスが正しい・正しくないではなく、やらざるをえないのであれば、仕事の成果が上がるようなやり方にすべきで、ライフの時間は 「仕事をしない時間」ではなく、「家族とコミュニケーションをとる時間」にすることも必要だ。働くのは家族の支援があってこそ。家族に背を向けて孤立すれ ば、いい仕事はできない。ピンチをチャンスに結びつける、子育て中の男性にとって震災は、それぞれの人生に大きなインパクトを与えるのではないだろうか。 結婚件数も増えている一方で、離婚件数も増えているという現実もある。夏場に向けて、もう一度家族の絆を取り戻すチャンスにしていただきたい。

――子育て支援に向けられる財政が縮小するなかで、出生率を上昇させる方法はあるか。

 個人が「1人3役」、つまり「職業人」、「親」、「地域人」という役割を果たしていくべきだと考えている。地域人の部分のウエイトが高まっていくと、子どもはもう少し生まれるかなと思う。

 先進国は多額の財政支出をしなければ少子化に歯止めがかからないが、途上国は財政支出などなくても子どもがたくさん生まれている。それは、地域全 体で子どもを育てる環境があるからだ。現在の日本は親が育てることが前提になっており、2人以上の子どもの教育費が負担できないから産み控えしている人が 多いのだとすれば、それはあるべき姿ではない。産むまでは親の責任だが、育てるのは社会全体で、と切り替えるのが1つの少子化対策だと思う。

 私自身は、18年前から週末に地元の公園で子どもたちと遊ぶ「子ども会」を主催してきた。高度経済成長期以降、男性が会社人間となり、地域人とし てのウエイトが低くなっている。そのため、定年後の男性は地域社会に居場所がなく、惨めな日々を送る人も少なくない。ただ、これも日本社会の長い歴史のな かで見れば、一時期のあだ花で、地域で自分たちの役割を見つける人が増えるようにすべきであり、この震災を機にそうなりつつあるのではないか。

 首都圏でも帰宅難民になった人が多かったが、私自身も周囲にもママ友たちが子どもを迎えに行ってくれたことで助けられた人たちが沢山いる。この震 災で、地域のネットワークはすごく重要だと気づいた人は多い。地域人としての役割を果たすことは、自分たちにとって保険でもある。その“投資”に時間をか ける人が増えていってほしいと思う。

2011年7月7日 ダイヤモンドオンライン

防災袋「わが家仕様」

2011/05/23 20:04 に 小林哲也 が投稿   [ 2011/05/23 20:04 に更新しました ]

 東日本大震災の直後に生活必需品などを入れた「防災リュック」を作ったものの、その後、リュックは部屋の片隅に押しやられたまま……という家庭も多いのでは。だが、災害は、いつやって来るか分からない。もう一度、中身を再点検してみてはどうか。

 中身も、幼児や高齢者がいる家庭では追加の品も必要という。それぞれの「我が家」にピッタリの防災リュックの作り方のポイントを教わった。

 防災リュックは非常時に家族の健康と安全を守るためのものだが、どんなものが必要になるのか。大ぶりの表を見てほしい。災害危機管理アドバイザーの和田隆昌さんが勧める標準的な防災リュックの中身だ。

 ポイントは、逃げる時に背負って走れる重さにとどめること。そのためには毛布の代わりに保温シートを入れたり、食べ物もチョコレートなど高カロリーで、かさばらないものを選ぶと良いそうだ。

乳幼児がいる場合…ミルク、おむつに靴用カイロ

 乳幼児のいる家庭の場合、何を付け足すべきかを危機管理教育研究所の国崎信江代表に聞いてみると、「ミルクや離乳食、紙おむつなどは、最低でも1週間分は用意しておくと、余裕をもって行動できる」という。

 忘れがちなのは、哺乳瓶などを消毒する錠剤や、抱っこヒモ、離乳食用のスプーンだ。抱っこヒモは、避難所で子どもが泣いた時にあやしたり、親が ちょっと目を離したすきの子どものケガなどを防ぐためにも重宝するという。普通の使い捨てカイロに比べ、温度が高くなる靴用使い捨てカイロも役に立つ。レ トルトの離乳食を、このカイロで挟んで軽くタオルを巻くと、約1時間で離乳食を温められる。

 赤ちゃんは成長が早く、服のサイズも離乳食の内容も変わるため、国崎さんは「乳幼児のいる家庭は防災リュックの中身を月に一度は確認して、こまめに更新するとよい」と助言する。

高齢者がいる場合…薬は1週間分、孫の写真も

 高齢者がいる場合、持病があれば、薬を忘れてはならない。国崎さんは「病院で1週間分の薬を処方してもらい、薬が切れる3日前に病院に行ってまた1週間分処方してもらうと、3日分が余計にたまる。こうして1週間分をストックする方法もある」と言う。

 老眼鏡や補聴器などがないと生活に支障が出るほか、入れ歯ケースを入れ忘れると、口の中を清潔に保てずに健康を損なう恐れもあるという。食料は高齢者が食べ慣れた、のみ込みやすいものを用意しよう。

 備蓄用に5年程度の長期保存が可能な羊羹(ようかん)も発売されており、和菓子が好きな高齢者には向いている。また、孫の写真も被災して弱った心を元気づけてくれる。

 国崎さんは、高齢者の場合、身軽に逃げられるように、防災リュックは親しい人に持ってもらうようアドバイスしている。(経済部 竹内和佳子)

(2011年5月23日  読売新聞)

節電の夏、扇風機で

2011/05/10 19:39 に 小林哲也 が投稿   [ 2011/05/10 19:44 に更新しました ]

消費電力が少ない扇風機は、エアコンと併用すると節電効果が期待できる(東京・有楽町のビックカメラ有楽町店本館で)

 東日本大震災の影響で節電への意識が高まる中、エアコンと比べて消費電力の少ない扇風機に注目が集まっている。効率的な使い方について調べてみた。(経済部 浜田賢一)

エアコンと昼は併用、夜リレー 冷気循環させ、体感温度下げる

 家電量販店ビックカメラ有楽町店本館(東京)は、震災による節電の風潮に対応して、例年よりも約1か月早い4月上旬に扇風機売り場を開設した。売れ行きは上々だという。

 と言っても、真夏日や猛暑日が続く7~8月は、扇風機だけで過ごすのはさすがに厳しい。有効なのがエアコンとの併用だ。

 エアコンの設定温度を1度上げると消費電力を10%程度減らせる。一方、扇風機の消費電力はエアコンの数十分の1なので、扇風機を使うことで、エアコンの設定温度を上げたり、使用時間を減らしたりすれば、節電効果は得られる。

 例えば扇風機で、エアコンの冷気を直接体に当てれば、体感温度が下がり、エアコンの設定温度が高めでも涼しく過ごせる。足元にたまりやすいエアコンの冷気を、扇風機で循環させ、まんべんなく部屋を冷やすことで、冷やしすぎを防ぐメリットもある。

 寝苦しい真夏の夜にもエアコンと扇風機の併用が有効だ。扇風機は従来、一定時間後に運転が止まる「切りタイマー」が主流だったが、最近では、一定時間後に自動的に運転を始める「入りタイマー」も付いている機種が増えた。

 この「入りタイマー」を使えば、エアコンが切れる時間に扇風機が動く設定にしたり、起床時間の数時間前に扇風機が動きだすようにしたりできる。

 その際、強い風に設定したからといって涼しさが増すわけではない。強い風に長時間当たり続けると逆に体がだるくなってしまう場合もある。弱めの風にしよう。最近は、温度と湿度をセンサーで感知して、風量を自動調節する扇風機も出てきており、熱帯夜には重宝しそうだ。

新機種続々、性能向上

 最近の扇風機は、大きく「進化」している。まず、モーターの改良で、最近の機種は省エネ性能や静音性が従来とは格段に向上した。例えば、家電メー カーのバルミューダが4月に発売した「GreenFan2」は、電力消費の少ない自社開発のモーターを使い、最も風量が弱いモードでの消費電力は約3ワッ トと、家庭用ファクスの待機電力並みだ。

 そのほか、センサーで温度や湿度を感知したり、上下に首を振ったり、羽根の回転を利用しないで送風したりと、様々な機種が売り出されている。

 機種ごとに特徴が際立っているため、どんな使い方をするか、想定した上で選ぶのがよいだろう。

2011年5月11日  読売新聞

1-10 of 100