委嘱作曲家に訊く part1

竹内聡氏独占インタビュー


 

 

 

竹内 聡(作曲家)
Satoru Takeuchi, composer

1976年東京生まれ。現在、茨城在住。東京音楽大学作曲科卒業、2005年、同大学大学院修士課程修了。これまで作曲を野田暉行、坪能克裕、糀場富美子、西村朗、細川俊夫に、指揮を汐沢安彦に、ピアノを串戸悦子の各氏に師事する。
2005年、武生国際作曲ワークショップに招待作曲家として参加。そのワークショップにおいて、第5回武生国際作曲賞を受賞。2006年、ダルムシュタット夏期国際現代音楽講習会に、交換作曲家として参加。現在、東京音楽大学にて、ティーチングアシスタントを務める。


 

インタビュー:2008年2月8日

聞き手:壺井一歩

  

 

壺井
このたびはロカの第3回定期演奏会に新曲を書いていただけることになりありがとうございます。いまから大変楽しみにしております。

竹内
はい。こちらこそ声をかけて頂いて、本当に光栄です。何といっても室内オケですからね。僕も楽しみです。
 
壺井
ところで、タイトルなんですけども。「…film→」この意味するところを少し教えていただけますでしょうか。

竹内
いやー、その質問を恐れていました。意味不明なタイトルで申し訳ないです。というか、自分でも意味不明。。。実を申しますと、尊敬してやまないU田さんから「早くタイトルを…」とメールがバンバン来て、必死に考えてパッと浮かんだのが「…film→」だったのです。
 
壺井
あっ、フィルムって読んでいいんですね。
 
竹内
はい。今回は、タイトルを考える際にあたって、何か特定の意味を持たせるのではなく、タイトルを見て漠然としたイメージが湧くように留意してあれこれ悩んでみました。
 
壺井
というと…?
 
竹内
見た人に「このタイトルの意味は?」と考えて頂こうかと。なので、皆さんに自由に想像して頂けるのが一番です。
 
壺井
なるほど。
 
竹内
filmという言葉を見ると大多数の方が「膜」とか「写真のフィルム」とか「映画」などを連想されますよね。
 
壺井
そうですね…僕も映画ですけど、filmというとちょっと古めの…なんかこう、ノイズですね、パチパチいってるやつ、そんなのを連想します。

竹内
それは面白いですね。タイトルから壺井さんのように自由な発想を働かせて聞いていただければ、楽しめると思います。期待に応えられるようがんばります。

壺井
ありがとうございます。何か、今回の作品にコンセプトのようなものはあるのですか?

竹内
そうですね。まあ、タイトルが意味不明といっても何にも考えていないわけではなく、ある程度曲のコンセプトとの兼ね合いを考えてはいます。今回の作品には、カーテンみたいな…何らかの膜の向こう側が透けて見えてくるという視覚的なイメージが最初にありました。

壺井
とすると、その膜の向こう側が「…」で、手前側が「→」ということでしょうか?

竹内
いえいえ、そう言うわけではないのですが、フィルムが回転してスライドショーのように投影される。そういう感じを出したくて無理やり「…」と「→」を入れました。今回、ダンスをテーマにと最初に言われていたので、そのことも踏まえています。

壺井
ダンスのフィルムということでしょうか?

竹内
その点については聞いてからのお楽しみということで。

壺井
ますます楽しみになってきました。
では次に「作曲っていったいどうやってするのですか」という、まあ我々作曲家がいろんな人からよく聞かれる質問をあえてここでしたいのですけど。というのも作曲家は皆それぞれ曲の書き方、音楽の生み出し方は違っていますから、僕なんかはすごく気になるんですね。気になるけどあんまり聞かない(笑)、なんかはずかしいから。でもいまはインタビューなのでどうどうと聞きます。
えー、普段の作曲をするときの手順、手続き、あるいはなんか降りてくるんだぜ、とか、まあこんなふうに作曲するというのを出来るだけ具体的に教えて下さい。

竹内
確かに、そういった事を聞くのは恥ずかしいですね。答えるのはもっと恥ずかしい…。
 
壺井
まあ、そこを何とか。例えば音楽が降りて来るとか、霊感みたいなものがありますか?
 
竹内
降りて来る、って言いたいですけど、あんまり降りてくれません(泣)。ぐちゃぐちゃ書き直して形にするタイプです。
 
壺井
僕ももちろん降りてきたりはしないんですけど(笑)。一応聞いてみました。
 
竹内
僕は前まで、白い紙に全体のイメージをメモしたり、株価のグラフみたいなのを書いたりしていました。ここで盛り上がる、とか。でも、そういうやり方は僕にとっては良くなかったですね。
 
壺井
あ、僕はそのやり方ですね。その通りにはならないことははじめからわかってるんだけど、手順として必要、みたいな。
 
竹内
そうですか。今は、料理で言えば材料を集めるみたいに、良いと思えるパーツを作る事から始めるようにしています。なるべく最初の段階から音符にしておく方が良いですね。
 
壺井
モチーフみたいなものですか?
 
竹内
モチーフとは少し性質が違うかな~。うまく説明できないのですが、例えるなら地層に似ています。
 
壺井
地層?恐竜の化石とか(笑)。
 
竹内
いやいや、そういう事ではないです(笑)。地層って横から見るイメージがあると思いますが、敢えて上から見た場合、何もしないと地面しか見えないですよね。
 
壺井
それは当たり前です。
 
竹内
そこを少し掘ってみる。

壺井
やっぱり恐竜。
 
竹内
あああ、そこ離れて下さい。すると、二層目だけとか、四層目だけとかが部分的に見えますよね。そういうのをやりたい。

壺井
うーんと、よく分からないかな…。
 
竹内
あっ!もう少し分かりやすい例えがありました。ショートケーキを丸ごと上から食べる感じ。
 
壺井
それは贅沢ですね。
 
竹内
確かに贅沢。上から食べたら、急にイチゴとか、メロン?とか、思いがけなく出くわして楽しそうですね。
 
壺井
ステゴサウルスの背びれ型に切ったパイナップルとかね。
 
竹内
そこはもういいですって。話が脱線しかけているので、まとめますと、ケーキのスポンジやイチゴや生クリームにあたる音を作って組み立てて、上から食べかけたのを聞いて頂く。それが理想。あ~説明が下手ですみません。
 
壺井
じゃあ、話を少し変えておまじないみたいなこともなんかありますか。ジンクスというか。
 
竹内
頑張って早起きする!
 
壺井
あー、僕は絶対出来ないやー。
 
竹内
僕も苦手。あっ、それから僕の家には神棚があって、毎朝お願いすると良いかも、って勝手に思いこんでいます。壺井さんはそういうジンクスみたいなものがあるのですか?
 
壺井
パソコンの壁紙をショスタコにする、とかね。結構こわいよ。
 
竹内
それはぜひ見習わせて下さい。

壺井
ウソついたら駄目です(笑)。
ところで、前回ロカの第2回定期では練習中に大変お世話になりまして(笑)。ほんとに窮地を救っていただきました(注:多忙なマエストロ高橋の代振りで練習の一部をお願いした)。指揮者としての活動もされているわけですが、いつ頃から指揮はされているんでしょう。また、指揮をするようになったきっかけとか。
それから僕が最も興味があるのは、指揮をするということが竹内さんの作曲にどんな影響をもたらしているのだろうか、ということなんですけど。あ、逆でもいいや、作曲が指揮に与える影響、みたいな。

竹内
最初に指揮をしたのは、小学校6年生でしたでしょうか。

壺井
小学生? 早熟ですね(笑)。

竹内
いやいや、今のは半分冗談ですけど。勉強し始めたのは大学3年生からです。

壺井
なるほど、で、そのきっかけは?

竹内
もともと興味はありました。大学に副科で様々な楽器のレッスンを受けられるという制度があり、その中に指揮のレッスンもあったのです。

壺井
たしか、そういうのがありましたね。

竹内
ええ。それにちょうどその頃、周りの作曲科の友人も含めて、作品を書いても指揮する人がいないと言う…(泣)一種の人材不足みたいな問題があったので、じゃあ自分でやってみようかと思いました。

壺井
人材不足ですか。

竹内
でも、そのおかげで友人や後輩の作品をたくさん振る機会に恵まれました。大学内ではあったものの本当に勉強になったと感じています。

壺井
指揮することが竹内さんの作曲になにか影響を与えているという事はあるのでしょうか?何か相互作用みたいな事とか。

竹内
うーん、そうですね。指揮をする前に比べると、メリハリのはっきりした曲を好むようにはなりました。その為か以前に比べると、ffとppばっかりでmfとかmpはあまり出てこなくなりました。

壺井
それは何故なのでしょうか?

竹内
ひとつ考えられるのは、指揮のレッスンでは最初にモーツアルトの交響曲から始めて、ベートーベンの英雄とかを習ったのですが、レッスンを通してこれらの作品の持つ良さに遅ればせながら気づかせられたのです。やはり構成が非常に明確でメリハリがはっきりしている。と僕は思うわけで対照の妙がもつ力強さに非常に惹かれました。

壺井
なるほど。

竹内
でも、一番影響する事と言えば、あまり難しく書かない事ですかね。自分で振れないと困るから(笑)。

壺井
でも本当にこないだは助かりました。僕もU田も指揮はぜんぜんだから。

竹内
それにしても、前回の練習は本当にスリリングで楽しかったです。練習指揮って言うのでしょうか。そういう事をやったことがなかったので最初はかなり戸惑ってしまったと思います。個人的にはU田さんの笑みが一番怖かった。。。なんで笑っていたのですかね?

壺井
いやいや、そんなことより僕はU田が練習中に竹内さんのことを呼び捨てにするからね、よっぽど「ですます使えよ」って言おうかと。

竹内
いえいえ、偉大なる先輩ですから、それは。あー、でも(事情により省略)。突然「伊佐治先生の曲を初見でやれ」って言われたり。でもあれは素晴らしい体験になりました。

壺井
そうだ、指揮をするきっかけは、なんてお聞きする前に聞くべきことが…作曲をするようになったきっかけとかです(笑)。「委嘱作曲家に訊く」っていうタイトルのインタビューなのに。こっちが先でした。
 
竹内
作曲を始めたきっかけですか…。真面目な話、ハッキリとしたきっかけがないんですよ。たぶんそこが一番いけない(泣)。ほとんどの人は、○○を聞いて作曲に目覚める!!みたいなのがありますよね。僕にはそういう正当な理由がないので良いのかな?っていう気にはなります。でも、小さい頃からピアノでに向かって、好き勝手にでたらめな感じで弾くのは大好きでした。今は、ピアノをあまり使わないで作曲しています。

壺井
ピアノを使わないという人は結構いますよね。

竹内
僕の場合は、ただピアノが作曲する部屋にないからという理由。2階に机があるのですが、ピアノは1階の倉庫みたいな所に置いてある。だから、音を確かめるために階段を上ったり降りたりしなければならなくて。早く模様替えしたい。

壺井
ええとですね、今回ロカの委嘱をほんとに快くお引き受けいただけましたので、まあ印象最悪ってことはないだろうという前提のもとにずうずうしい質問をねじ込みます。ロカについて。すいません。先に謝っときます。

竹内
まず何よりも室内オケとういのが魅力的です。各パートの人数が限られているからこそ、機能的に動けるという利点がありますよね。このくらいのサイズのオケの為にいつか書けたら良いなと思っていましたから。前々から狙っていましたよ(笑)。

壺井
本当ですか?

竹内
ええ、本当です。きっと他にも首を長くして待っている作曲家がたくさんいると思いますよ。
それから、第2回のコンサートを聴かせて頂きましたが、この人数で演奏しているとは思えない豊かな響きがして驚かされました。もっと乾いた感じで聞こえてくるのかと想像していたので、色々な響きに挑戦できるアンサンブルだと感じました。
それに、作曲家と演奏家が一体となって取り組んでいるところも素晴らしいですね。こういう活動をこれからも継続して欲しいと思います。壺井さんを始め企画運営する方々は大変な事もあるとは思いますが。

壺井
では、今後の予定についてお聞かせください。決まってないけど、俺の未来予定には入ってるぜ、ってはなし込みでも結構です。ふふふ。
 
竹内
今後の予定ですか。あんまり予定ないのですが(泣)、3月に地元でチャリティーコンサートをやります。その後、6月にロカの演奏会。来年の2月から3月にかけてミュージカルの音楽監督補を担当させて頂けることになっています。
まずは、「…film→」に全力投球です。

壺井
ありがとうございました。6月28日が俄然楽しみになってきました。