[1] Slopes of fibered surfaces with a finite cyclic automorphism, Michigan Math. J. 66 (2017) 125--154.
修論の一部。修士一年の冬に今野先生の本「代数曲線束の地誌学」を読んでいたら、そこに書いてあった二重被覆ファイバー曲面のスロープ不等式まわりの話は二重被覆を(原始的な)巡回n次被覆に変えても同様の議論が回ることに気づいた。そのことをセミナーで話したら、先生から論文にしましょうということで論文になった。結果は「2」を「n」にして同様の議論を回しただけの単純な結果であり、かなり特殊なクラスのファイバー曲面(代数曲線束)であるが、種数や被覆次数nを色々動かしてスロープの下限を観察すると、色々なファイバー曲面の(予想されているものも含む)スロープ下限などが垣間見れて面白い。ここで扱った曲面上の曲線に関するテクニカルな技術は、後々全然違う文脈でも使えた。この論文は何故か思ったより引用されている。
[2] Fibers of cyclic covering fibrations of a ruled surface, Tohoku Math. J. (2) 71 (2019) 327--358.
[1]の続編。ほぼ同時に出来たはず。[1]で扱った線織面の巡回被覆で得られるファイバー曲面の退化ファイバーを分類するアルゴリズムを与えて、簡単な場合にそれを分類した。特に種数3の超楕円曲線束の退化ファイバーの分類リストを与えた。やることは分岐因子の形を全て分類することだが、その記述の仕方として特異点図式(singularity diagram)というヤング図形のようなものを並べたデータを採用した。この記述方法で分類できるというのは(気付けば当たり前ではあるが)地味に面白い観察であると思う。ちなみに堀川先生は種数2代数曲線束の退化ファイバーを相対標準写像による二重被覆からどう復元されるのかも含めて分類されているが、今回の種数3の超楕円曲線束に関してはそのレベルの分類には至っていない。この論文はほとんど引用されていない(退化ファイバーの分類というのはあまり興味を持たれないようだ)。
[3] Upper bounds on the slope of certain fibered surfaces, J. Math. Soc. Japan 75 no.2 (2023) 417--467.
[1]ではスロープの上限についても少し扱ったが、この問題を大方満足いくまでやったもの。博論の一部。計算が複雑で大量の記号を導入することになった。誰が読むんだこんな計算という仕上がり。一般にファイバー曲面のスロープ上限は12であり、上限の12を取ることと全てのファイバーが非特異である(ただし複素構造は非自明に変形される)ことは同値である。基本的に大抵のファイバー曲面のクラスではスロープが12を取り得るため、スロープ上限は問題にはならない。一方、Xiaoによって超楕円曲線束のスロープ上限は12より真に小さいことが知られていた。この論文では新たに、双楕円曲線束(双楕円曲線=楕円曲線の二重被覆)のスロープの上限も12より真に小さいことを示した。小平先生が具体的に構成されたスロープ12のファイバー曲面の例は種数2以上の曲線の直積の巡回被覆であることを考えると、これは少し面白いのではと思う。系として、双楕円曲線のモジュライ空間は正次元の固有部分多様体を含まないことが分かる。出版にはかなりの年数がかかった。
[4] Slope equality of plane curve fibrations and its application to Durfee's conjecture, Asian J. Math. 26 no.1 (2022) 119--136.
一般ファイバーが平面曲線であるファイバー曲面(平面曲線束)のスロープ(不)等式を示した。その応用として、2次元超曲面特異点に対するダーフィー型の不等式を示した。D1の頃にやったはず。最初はスロープ不等式だけを考えていたが、それが出来た後に足利先生とお話ししたところ、ダーフィー予想と関係があるだろうと仰られ、その場でダーフィー予想についてお話していただいた。そこで色々考えた結果、2次元超曲面特異点に関してダーフィーの弱予想が証明できた。当初は2本の論文に分けていたが、エディターにくっつけろと言われたので一本にした。ちなみにダーフィー予想はこのとき初めて知った訳ではなく、昔の研究集会の報告集を読んでいると足利先生の巡回商特異点に関するダーフィー予想の記事があって、それを眺めていたので知ってはいた。ただ、自分がそれに関わるとは思ってもみなかった。
[5] Strange examples of local signatures for fibered surfaces of small genus, arXiv:1704.08805.
[4]と同時期にやったと思う。内容は自明な観察であり、出版するつもりはない。半安定なファイバー曲面のスロープ不等式はモジュライ写像を通して安定曲線のモジュライ上の因子の話と対応付けられるが、そうすると非安定なファイバー曲面については半安定還元を通じて半安定の場合に帰着させたくなる。しかし何故かスロープ不等式に関してはこの方法ではうまくいかない。この辺りの話はとても面白く、私の数学研究の中心的なテーマである。半安定還元に伴う大域的な不変量のずれは退化ファイバーに局在化でき(TanのChern不変量)、それは退化ファイバーの位相不変量になる。それを用いて、曲線のモジュライ上の与えられた有効因子Dに対して、D一般な(一般ファイバーがDに属さない)ファイバー曲面の局所符号数が定義でき、Dを色々変えると色んな局所符号数が定義出来る。当たり前のことではあるが、トポロジーの観点で局所符号数を考えている人にとっては不思議なことなのかと思いとりあえず書いてみた。局所符号数が定義出来れば堀川指数も定義出来るが、本当にやりたいことは堀川指数の非負性を示すことである。これは後ほどモース化予想の仮定の下示すことが出来た。
[6] Slope equality of non-hyperelliptic Eisenbud-Harris special fibrations of genus 4, Glasg. Math. J. 65 no.2 (2023) 284--287.
一般ファイバーがトリゴナルペンシルを唯一つ持つ種数4のファイバー曲面のスロープ等式を証明した。これは元々高橋先生によって補助的な仮定の下示されていたが、その補助的な仮定を取り除いた。スロープ不等式だけなら今野先生の本にも証明が書いてあるし、やったことはその証明をもっと精密に見て堀川指数を定義するだけである。arXiv版では、修論で扱った線織面の三重被覆で得られる種数4ファイバー曲面の堀川指数との比較なども書いたが、レフェリーからマニアックだと言われたため出版された論文では削除した。僕が書いた論文の中で最も短く簡単な論文であるが、スロープ等式が成り立つということは主張しておく価値があると思う。
[7] Durfee-type inequality for complete intersection surface singularities, Duke Math. J. 170 (2021) 1--21.
[4]の結果を平面曲線から射影空間内の完全交叉曲線に一般化して、2次元完全交叉特異点に対するダーフィーの弱予想を解決した。[4]の一年後くらいにやったと思う。2次元特異点の論文という感じにしたが、スロープ不等式的には地味に面白いのは、次数を固定して超曲面の枚数を増やしていくと、スロープ下限は8に収束する。一般ファイバーがモジュライの中で一般なファイバー曲面のスロープ下限は6に近づくだろうと(おそらく多くの専門家に)思われているが、Gang Xiaoは8に近づくのではと言っていたらしいので、もしかすると8の線もあるかもしれない。ちなみにこの話は曲線のモジュライの有効因子に関するスロープ予想と関係がある。