東洋経済2021 1/4号記事への補足

記事は主に以下の私の論文に基づきました:

この論文は国際査読誌Regional Science and Urban Economicsに掲載されました。


また、記事内で言及したアメリカとドイツの研究は、以下の4つの論文を筆者が総括しました:


記事内では、「最低賃金が望ましいかどうかは、家賃の反応をみればわかる」という考え方を紹介しましたが、これと近いロジックで「最低賃金が望ましいかどうかは、最低賃金の上がったエリアに人が引っ越してくるかどうか見るとわかる」というものもあります。米国での代表的な研究として、以下の3つの論文を挙げておきます:

ただし、この引っ越しアプローチは現在のところ若干結果が安定せず、家賃アプローチで求めた最低賃金の望ましさとは逆の結果が出てしまう場合もあるという問題点があります。これについては(筆者によるものも含め)いくつかの議論はあるものの、なぜそうなるのかは明確には解明されておらず未解決の状態になっています。


最後に脱線して、筆者の別の最低賃金に関する研究を宣伝しておきます。日本では最低賃金を決める際に、「中央政府が各都道府県に最低賃金引き上げ額の目安を提示→各都道府県が調整を加えて引き上げ額を確定する」というのが事実上のプロセスになっています。しかし、諸外国を見ると地方政府が直接決めることができたり、中央政府が全国一律の最低賃金を決めたり、色々なパターンがあります。ではどうやって(地域別)最低賃金を決めるのが望ましいのかについての近年の理論的考察として

があります。この文献に基づく私のあくまで暫定的な結論ですが、中央政府がある程度きちんと各都道府県の情勢を把握できている場合であれば日本の仕組みは理論的にも優れたパフォーマンスを持っているのではないかと思っています。逆に、中央政府が各都道府県の実情に疎い場合は、各都道府県にもっと自主的な最低賃金の設定を許す方が良い可能性があります。