時代を乗り越える日本語組版

2012/04/11 17:28 に Osamu Ogasahara が投稿   [ 2012/04/11 21:18 に更新しました ]

W3C技術ノート「日本語組版処理の要件」が紙の本となって届けられた。これは事実上、「JIS X 4051(日本語文書の組版方法)」(JISの組版)という規格文書の続編というかサブセットのようなもので、内容的にはあまり矛盾が無いように継承されている。そのことは2010/11/15の記事『連綿と続く縦組みの糸』でも書いたのだが、前者が作られた時代背景と後者の時代背景を考え合わせると、面白いと思うことがいろいろある。両者とも製品に先行して規格がまとめられて使われた稀な例なのである。

JISの組版とはいってもJISが勝手に決めたものではなく、当時の課題を当事者が集まって整理したものである。その頃の文字組版ルールは活版と和文タイプと手動写植と電算写植で異なっていた部分があった。同じ写植メーカーでも手動写植と電算写植でルールが一致せず、当時の組版の教科書でもあった写研の「組みNOW」(twitterとは関係ない)は手動写植ベースであったために次第に販売されなくなり、しかもそれに代わる電算写植時代の組版の本は無いという状態だった。
つまりアナログからデジタルへ時代が変わる時においては、電算写植が各社各様で、同じ富士通のコンピュータを使っていても大日本印刷と凸版印刷では組版用語が異なるとか、持っている外字が異なるとかで、それでも出版社は全集物を大日本と凸版に分割して発注していたのである。そこで当時の現場の第一線の人がメーカー・ユーザー双方から集まって標準化に協力した。これはもう電算写植の時代は早晩終わって、DTPというオープンシステム(結果的にはオープンではなかったが)の時代を迎えるであろうと考える組版エンジニアがそれぞれの会社に居たからである。私はアメリカのDTPの会社やStoneHandと付き合いもあったので彼らに日本語組版を理解してもらわなければと思って参加していた。

この規格はデジタル時代にはすんなり受け入れられて、アナログ時代の印刷物の組版のバラツキは相当治まったと思う。当時は印刷物500点調査というようなことも行なってチェックをしていたが、印刷物を作る上で組版が問題であることはなくなり、こういった調査もやめてしまった。不思議なことにJISの組版の時の幹事をしていた小野澤賢三さんとは机を並べて仕事をするようになり、紙とデジタルメディアと両方で情報発信する方法というのがテーマで、今度はSGMLとかHTMLと組版のことを取り扱っていた。これは一見何でもないようであるが、縦書き印刷用の原稿をWebにはそのまま持っていけないとか、Webの原稿を縦書きには持っていけないという障害があった。結論はデジタルメディアでも縦書きが欲しいということだった。

その時に小林龍生さんとWebの縦書きの話をしていて、W3CをターゲットにJISの組版のWeb版を提案するためのグループを始めた。縦書きを含む組版をWebでも、といってもどの程度のことを実現すべきかは人によって想いが異なるのだが、あまり紙の文化の踏襲にこだわるのではなく、基本的なところを踏まえたならばWeb縦書き原稿を後で紙の縦書き組版に持っていけるようになる、というくらいがだいたいの合意点であったように思う。これはW3Cに提案して今度はW3C内での技術ノートになったのだが、それは英文でなければならなかったので、日本語版も同時並行で作業がされ、WebからPDFでダウンロードされて参照された。

そうこうする内にEPUBが出てきたので、技術ノートをベースにさらにサブセットのような組版要件の提案がされてEPUB3に取り入れられた。したがって出版の際にEPUB3を先に刊行してから紙の組版に持っていくことは、今後容易になるはずである。現にこの技術ノート自体が先にWebやPDFの電子ファイルで配布されたものが、後でアンテナハウスのフォーマッタ AH Formatter V6.0 で組まれて紙の本になったのである。今後は出版全体からするとデジタルファーストになって、選択的に紙の出版に継承されるという筋書きが、日本でもほぼ形を成しつつある。

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