Backpacking Memo


ケガの話 ---「ハイキングハンドブック」(新曜社,2013)に書いたことの焼き直し。

実証的研究に基づくと、ケガは、ブーツ/シューズ、フィットネス、健康度、経験年数、ハイキングの期間、バックパックの重さとは何の関係もない。私の個人的仮説では、個人によって好みの危険確率が決まっていて、石橋を叩いても渡らない人とか、危ないことをしないと生きている気がしない人がいる。単純な確率論によれば、危ないことを続ければ、ケガの確率が増える。

経験が豊富でもケガは減らない。--- ニュージーランドのトランパー2,403名を対象にした郵送法による調査。返送者は702名。ケガの頻度は、41~50歳が50歳以上よりも多いという点を除外すると、性別、フィットネスの程度、健康度、経験年数、ハイキングの期間も、関係がない。つまり、経験を積んでもケガは減らない。(Boulware, D.R., et al. 2003 Medical risks of wilderness hiking. American Journal of Medicine, 114, 288-293.)

ブーツ/シューズよるケガの違いはない。--- アンダースンらはATとPCTを805km以上歩いた128名を調査し、ブーツを履いた人に末梢神経系の損傷による感覚異常が多いことを発見した。しかし、統計的に荷物の重さを統制すると、靴の種類と感覚異常の関係は消失した。真の原因は荷物の重さであった。靴の種類、バックパックの重さは、関節や筋肉の傷害との関係は見いだせなかった。( Anderson, L.S. Jr, et. al. 2009 The impact of footwear and packweight on injury and illness among long-distance hikers. Wilderness Environtal Medicine, 20,250-256.)

荷物を軽くしてもケガは減らない。--- ハマンコらは、ロッキー山登山学校で、前向きの縦断的研究を行った。被験者は、2008年から2009年に渡るアウトドア・コースの受講者1,283名で、現実に起こった関節や筋肉の傷害、バックパックの重さ、身体の特徴等のデータの関連性を分析した。バックパックの重さは平均で15kg、9.1kgから38.6kgの範囲であった。受講者26名(2.2\%)に急性の関節や筋肉の傷害が生じた。ケガで多かったのは、膝と足首で、それぞれ45\%、35\%に達した。ケガの原因は身体の使いすぎが48\%、転落が35\%であった。ケガの要因を分析したが、バックパックの重さ、身長、バックパックの重さの体重比、年齢、性別のすべての要因が有意な関係を持たなかった。(Hamonko, M.T.,et. al. 2011 Injuries related to hiking with a pack during National Outdoor Leadership School courses: a risk factor analysis. Wilderness Environmental Medicine, 22,2-6.

日本では警察による事故調査があるだけで、これは科学的要件をみたしていない。日本にはこの分野の研究者不在。