コク

コク(こく、こく味、濃く、酷)は、5つの基本味のどれかにのみ関わるものというよりは、それぞれの味の「濃さ」、あるいは「濃度感」、「充実感」につながる感覚だといえるでしょう。英語ではしばしばbodyと表現され、"rich body"で「コクがある」ことを意味します。また、このことから"richness"(=豊かさ)で、コクそのものを意味する場合もあります。しかし、ただ「濃度が濃い」だけでは、単に濃いだけで単調な味になってしまい、コクは生まれません。
コクに関する考え方は多様であり、複数の考え方が混在しています。ただ一つ共通して言えるのは、「コクがある」ということは、十分な濃度感を与え、「おいしい」と感じさせる味であるということでしょう。

コクの要因とその解釈については、以下のようなものがあります。
  1. わずかな苦味や渋みなどの「雑味」が、甘味やうま味に混じることで味を複雑にして、「奥行き」「広がり」を増すことが、コクとして感じられる。
  2. 同等の味の強さを持つ味物質でも、その持続性が異なる場合があり、その「味の強さ×持続時間」に応じてコクの強さは変わる。
  3. 食品に油を加えたり、とろみを与えたりすることでコクを強めることが出来る
  4. 食品に含まれる微粒子や脂質などが、無意識下で感知される微細なテクスチャーとして働くことでコクを生じる。
  5. 「継続性・充実感・厚み」を兼ね備えたうま味物質が存在し、これが「こく味物質」としてコクの元となる。
1は古くから経験的に知られていた現象です。例えば、単なる塩化ナトリウムだけの食塩よりも、にがりを含んだものの方が、味が複雑で「こくがある」味だと表現されます。また、カレーの隠し味にインスタントコーヒーを入れることで味に深みを出すということなどもこれにあたると言っていいでしょう。また2で述べたように、一般には後味が長く残る味ほど、コクが強いと感じられる傾向にあるようです。3も経験的に知られていることで、コクを出す簡便な方法として応用されています。

4の例としては、コーヒーのコク、"body"について、食品工業的な分野で用いられてきた、比較的古い考え方があります。コーヒー中に含まれるコロイド23などの微粒子の量と、ヒトが感じるコクの強さは、比較的よい相関を示すことが知られています。このため微粒子量がコクを測るための「ものさし」として使われ、コーヒーの品質を評価するための指標として用いられました。このことから一つの考え方として、これらの微粒子が与える「舌触り」、言い換えると触感が、味の三要素の一つである「テクスチャー」として作用することでコーヒーのコクにつながるという考えが提唱されました。ただし、微粒子の量とコクの強さの関係はあくまで「相関関係」であって、「因果関係」があるかどうか、すなわり「微粒子がコクの実体であるかどうか」ははっきりしていません。また、すでに別の「テクスチャー」を持っているはずの、コーヒー以外の食品でもコクの有無が生じることを合わせて考えると、微粒子がコクの実体であり、その量だけでコクの強さが決まるという仮説には疑問が残るでしょう。

5の例としては、食品工業の分野において「こく味調味料」などとして用いられてきた考えがあります。食品工業分野では「こく味」を「継続性 (continuity) があり、充実感 (mouthfulness) があり、厚み (thickness) をもった、うま味」と定義し27、食品に「こく味」を与える「こく味調味料」や「こく味付与剤」なども開発されました。これらの主成分としては、酵母エキスやメイラード反応生成物など、アミノ酸と糖から生成される複雑な混合物が用いられています。メイラード反応生成物はコーヒーの焙煎過程でも生じますから、これがこく味を生むという考え方には興味深いものはあります。しかし、この「こく味」とはうま味の延長線上にある味として考えられているものであるため、そのままの形でコーヒーなどの苦味や、あるいは甘味におけるコクにまで、同じ考え方の適用範囲を広げて解釈することには無理があるかもしれません。

また最近、伏木24はコクについて、その複雑性を考えた上で以下のような説を提唱しています。
  • 甘味、うま味、脂質の味がコクのコア(核)として、第一層を形成し、これに香りやテクスチャー(第二層)、食べる人側の要因(第三層)が加わった「多層構造」がコクの正体である。
以上のように、コクには味の複雑性や持続性、あるいはテクスチャーなどの食感も含めて、非常に多様な要素が関係していると考えられます。さまざまな食品について「コク」が語られますが、それらの味わいや、コクの元となる要因についてはさまざまで、おそらく単独ではなく複数が合わさって、コクの形成に関与していると考えられています。

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