vol.14 403architecture [dajiba]

15/03/28

「都市で建築をつくる」


渥美の床 ©kentahasegawa

403architecture [dajiba] 「都市で建築をつくる」 レビュー
執筆者:岩崎裕樹ソルト建築設計事務所 所員

2015328日に403architectureの辻さんと橋本さんを福岡に招いてARCH(K)INDY vol.14が開催された(もうひとりのメンバーである彌田さんは急遽来られなくなった)。レクチャーでは「都市で建築をつくる」というテーマで「マテリアルの流動」「すべてはコンテクスト」「パラレルな可能性」の三つのキーワードでこれまでの作品を整理しつつ、浜松での活動を紹介していただいた。

■403architecture
403architectureは昨年、新建築賞を受賞している。403architectureに対する評価としては、①町医者的建築家として具体的な地域や都市に深くコミットし、②材料の流れをデザイン対象にしたマテリアルフローを提唱し、③産業化された建築とは違った建築の組み立て方を実践していること、だろうか。これまで建築家の作品になりづらいと考えられてきた小規模の部分的な改修に物理的に近い距離の範囲内で数多く取り組み、マテリアルフローでつなげることで、都市を巻き込んだデザインとなっている。都市からは物理的なスケールの隔たりのある「部分的な改修」から、都市や社会にアプローチする設計活動は新鮮で、建築単体から都市まで繋がったフィールドでの活動に広がりを感じさせる。

■昨今の建築界の潮流
震災以降、と単純に区切っていいものか分からないが、完成系としての建築作品ではなく、建築をつくる行為そのものに焦点をあてた活動が注目を集めている。それらの活動は、住民参加型の設計活動や、または空き家リノベーションなど様々な形をとっているが、いずれも、建築単体として従来の作品的価値や評価基準では計れないような現代的な問題(公共施設の過剰、地方衰退、被災地復興、空き家問題等)に鋭く反応した活動だ。403arhitectureの建築活動もそういった側面がある。
この変化は建築が変わったというよりも、建築をめぐる背景が変わったのだと思う。403の活動にしても、彼らが手がけた建築群を見ていくとそれが浜松のプレゼンテーションになっている、というように、建築は社会からの要請に応えてつくられるだけでなく、建築をつくる行為が関係性や社会をつくるようになった。
このときに建築はどのような変化があるのかについて考えてみたい。つまり、建築が立ち上がる環境が変わるとしたら、建築それ自体はどのように変わるのか、403architectureを通して考えてみたい。

■建築のクオリティについて
アーキンディ当日にでた質問に、「建築のクオリティをどう考えるか?」というものがあった。
この質問に対して403architectureの辻さんは、クオリティには演繹的な質(概念的、言語的、計画的、抽象的)と帰納的な質(即物的、非言語的、現場的、具体的)の二種類があり、その二つの関係性を近づけることが重要であるという。
この二つの質は建築を作る上でどちらも必要な質だ。辻さんは両方の質を近づけるにあたって、現場と事務所の物理的な距離が近いこと、生活と仕事がシームレスであることが活かされているという。
通常の建築設計では、演繹的に設計がスタートし具体的に細部を詰めていく中で帰納的にフィードバックが行われる。403architectureの場合は、扱う材料、建築の組み立て方、そしてその建築の使われ方までが、現場的な判断から発生している。もっと言えば、プロジェクト自体が、浜松での生活という現場の関係性から生まれている。いわば超帰納的なのだ。
その上で、403architectureの建築を実際にみて興味深かったのは、その設計作業で扱っている対象だ。通常の設計(演繹的な設計)であれば断面や平面の構成を扱うが、403architectureが設計で扱うものは(部分的な改修が多いためか)かなり限定的だ。
建築設計の作業として扱うものが変われば、それによって生まれるものも変わるはずだ。403architectureの場合、通常の平立断で検討する抽象的な建築構成の代わりに、「材料の調達」「材料の加工方法」「配置」を扱っている。これらの現場的な作業を用いて設計した403 architectureの建築はどういう特徴があるのだろうか。

■「渥美の床」の表面
もう少し具体的に403architectureの建築をみてみたい。
403architectureのプロジェクトのいくつかは独特な表面をもっている。最も顕著なのが「渥美の床」だ。
「渥美の床」は解体した既存の天井材(材料の選定)を、厚みを揃えた木片ピースにして床に敷き詰めて床をつくった(配置)プロジェクトだ。木片の厚みのばらつきによって微妙な段差ができたため、最後に床全体をグラインダでヤスリがけしてなめらかにしている。段差をそのままなめるようにヤスリがけしているため、床が極薄の三次曲面となっている。平衡感覚を揺さぶるほどではなく、足の裏からのみ伝わってくるなめらかな曲面は新鮮な心地よさがある。実際にこの床を体験したアーキンディ実行委員会のメンバーは、思わず座り込んで靴下を脱いでしまったほどだ。施工精度的なクオリティが高いわけではなく、むしろ、その精度の荒さによって心地よさが生まれている。
このように渥美の床はその表面が特徴的だが、あるいはその他のプロジェクトにおいてもテンションをかけた梱包材の絶妙な反発力の座面(ポップアップ茶室)や、天井材として光を拡散する農業用メッシュ、眼鏡屋の什器を兼ねた仕上げ材の段ボールも同様に表面が特徴的だ。
いずれも通常は仕上げ材として使われないような材料(木片、梱包材、段ボール、農業用メッシュ)のトリッキーな配置と扱い方によって、心地のよい表面が生まれている。(もちろん全ての403architectureの建築がそうではなく、一部の作品には荒い施工精度がつくる見たことのない種類の表面が見て取れる、ということだ。)
通常の演繹的な建築設計では、この心地よい表面は生まれない。演繹的な設計では抽象的な建築構成や視覚的な美しさを扱いがちで、それらを実現するためには施工精度の荒さは排除すべきだと考えられるからだ。403 architectureの建築は彼ら自身による自主施工であるものが多いため、専門的な建築施工が担保していた納まりや施工精度のような質の高さとは種類の違う質の高さがあるように思う。

■身体的な快楽
この心地よい表面について、西沢大良の「立体と身体」※1を参照したい。
この「立体と身体」は、これは、インテリアの表面から受ける生理的身体的快楽と思想の関係について書かれた文章だ。この「立体と身体」の論旨は、どんな思想をもってしても生理的身体的快楽には抵抗できず、「身体の表面に働きかけることで、身体の中身(思想)を変えてしまう」という。(例として、柳田国男による指摘が挙げられている。柳田によれば、日本人が纏う衣服の素材が室町期に麻から木綿に代わった結果、木綿の肌触りが日本人の身体感覚を変えてしまい、文学や美学や思想を変えたという。※2)
この快楽と思想の関係も大変興味深いが、ここで参照したい重要な指摘は、伝統的な日本建築のインテリアは視覚的な快楽ではなく身体的快楽を追求してきたという点で、西洋建築とは大きな違いがあるということだ。日本建築は、柔らかい素材や華奢な部材を用いることで、触り心地のよいインテリアを洗練させてきたが、西洋建築は視覚的な快楽を追求してきたため、その表面はごつごつしたものが多い。そのため、幾何学などの視覚的な西洋の建築理論をあてはめるのではなく、日本建築を身体的快楽の種類で分類したほうが理解しやすいのだという。
403 architectureの建築が身体的快楽の表面をもっているとしたら、それは伝統的な日本建築のカテゴリに属すことになる。近代化以降の産業化された建築の内部空間は、身体的な快楽を受ける表面は(伝統日本由来の表面以外では)ほとんど存在しない。壁は汚れにくく耐久性のある仕上げ材が好まれ手に触れて心地よいものではなくなり、床のフローリングの上をスリッパを履いて生活することで足の裏の感覚は必要とされなくなる。しかし、403architectureの建築では、現代の素材を扱った上で身体的な快楽がうまれている。

身体的な快楽は伝統的な日本建築のインテリアにみられたものだが、現代日本の問題に向き合って活動する上でうまれたものであることは興味深い。
403architectureの建築の一番の面白さは、そういった身体的な快楽を現代の材料と簡易な施工によって再現したことだ。つまり、どこでも手に入れることができる材料と誰でも真似できる簡単な施工方法であるため、昨今のDIYブームとも相性がよく伝播しやすい。(「渥美の床」の手法は既に床を施工するワークショップで再現されている。)
現代の産業化された建築を構成する様々な材料に少し手を入れるだけで身体感覚としては劇的に変わってしまう。普段私たちの身の回りにある建築材料が変わらなくても、つまり視覚的な風景が変わらなくても、建築の表面から私たちの身体が受ける感覚は変わってしまうかもしれない。

※1「立体と身体」/新建築200511月臨時増刊/西沢大良
※2「明治大正史・世相編」/講談社学術文庫/1931年初版/柳田国男



執筆者プロフィール:
岩崎裕樹(いわさきゆうき)
1990福岡県生まれ/2013九州大学芸術工学部環境設計学科卒/2013-2014マツダグミ/2014-2015ソルト建築設計事務所

コーディネーター:
板野 純(いたのじゅん) ナガハマデザインスタジオ
川上隆之(かわかみたかゆき) ナガハマデザインスタジオ

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第14回目のゲストは、建築家の彌田徹 氏 辻琢磨 氏 橋本健史 氏(403architecture [dajiba])をお迎えします。
 
©kentahasegawa
 
2011年から静岡県浜松市を拠点に活動を始め、2014年には「富塚の天井」にて第30 回吉岡賞受賞された建築家です。
今最も注目される次世代建築家グループです。
 
「都市で建築をつくる」
 
と題し、レクチャーを頂きます。
対話を通じて、深い建築談義を楽しみましょう!  →予習ページへリンク

日時 3/28(土)19:00~体力が続く限り (開場18:00)
場所 清星幼稚園 こひつじひろば (福岡市南区三宅1-17-12)
ゲスト 彌田徹 氏 辻琢磨 氏 橋本健史 氏(403architecture [dajiba])
テーマ 「都市で建築をつくる」
参加費 2000円 ※フリードリンク・食事付
    福岡県建築士会会員・学生1000円
主催 ARCH(K)INDY実行委員会
共催 (公社)福岡県建築士会

是非皆様、お誘い合わせの上、ご参加ください。

参加ご希望の方は、準備の都合上、3/25(水)までに、FAX又はMAILにてご連絡ください。
なお参加希望者が多数予想されますので、定員80名となり次第締め切らせていただきます。
FAX:092-555-8094
MAIL: arch.k.indy@gmail.com
問合せ 092-511-3430(atelier cube内:担当 松山)

【ゲストプロフィール】
403architecture [dajiba] http://www.403architecture.com/
 
彌田徹 / Toru Yada
やだ・とおる1985 年 大分県生まれ
2008 年 横浜国立大学建設学科建築学コース卒業
2011 年 筑波大学大学院芸術専攻貝島研究室修了
2011 年 403architecture [dajiba] 設立
2014 年 名城大学非常勤講師
 
辻琢磨 / Takuma Tsuji
つじ・たくま1986 年 静岡県生まれ
2008 年 横浜国立大学建設学科建築学コース卒業
2010 年 横浜国立大学大学院建築都市スクール
Y-GSA 修了
2010 年 Urban Nouveau*
2011 年 メディアプロジェクト・アンテナ企画運営
2011 年 403architecture [dajiba] 設立
2013 年 横浜国立大学非常勤教員
2014 年 名城大学非常勤講師
 
橋本健史 / Takeshi Hashimoto
はしもと・たけし1984 年 兵庫県生まれ
2005 年 国立明石工業高等専門学校建築学科卒業
2008 年 横浜国立大学建設学科建築学コース卒業
2010 年 横浜国立大学大学院建築都市スクール
Y-GSA 修了
2011 年 403architecture [dajiba] 設立
2014 年 名城大学非常勤講師
 
富塚の天井
©kentahasegawa
 

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清原昌洋,
2015/03/03 20:18
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