第4回口頭弁論報告

投稿日: 2017/10/21 6:13:49

肌寒い秋雨の降る10月13日、東京地裁103号法廷で第4回口頭弁論が開かれた。

この口頭弁論に先立ち、飯田勝泰さん(全国労働安全衛生センター)、本村真さん(全国一般全国協北九州合同労働組合(ユニオン北九州))を先頭にあらかぶさんを支える会のメンバー5名が、東京地裁民事部に署名提出をおこなった。「公正な判決を求める署名」第1次として、3107筆が提出された。

裁判の傍聴者は約80人で、今回は抽選がおこなわれず、抽選に並んだ人は全員が入廷した。

前回第3回口頭弁論で原告側は、あらかぶさんの労働現場での違法な線量管理や放射線防護の不備などを指摘した。また、100mSv以下の被曝では白血病にはならないとする被告東電・九電に対して、低線量被曝による白血病の有意な増加を報告した近年の8つの研究論文を示して反論した。

そして今回の第4回口頭弁論で原告側は、白血病の労災認定基準が年5mSvとなった歴史的経緯や、労災認定が損害賠償の有力な判断基準になるという原賠法改訂時の政府の見解を説明し、被告に賠償を求めた(第3準備書面)。また、福島第一原発の現場のように四方八方から放射線の照射を受ける場合はガラスバッジの計測は31%も過小評価になるという研究結果を示すとともに、他にも記録された線量が過小評価されている可能性を指摘し、約20mSvというあらかぶさんの記録線量に固執する被告に反論した(第4,5準備書面)。

一方、東電と九電は、双方から準備書面(2)を提出し、主に線量管理の方法や作業手順などを説明して、被曝線量や作業内容に問題はなかったと主張した。

これに対して、裁判長は、「東電準備書面の証拠が不足している。入退域等についての証拠が出されていない」、「九電準備書面も証拠が足りない。例えば、なぜガラスバッジは胸に装着するのか明らかにする証拠を提出すること」などとして、被告2社に対して厳しく求めた。さらに、「被告は、原告の立証が足りないのか、他の発症原因を争うのか、区別して主張するように。裁判所は基礎的なことがわからないので、さらに証拠を出すように」として、東電・九電の立証不足を指摘した。

口頭弁論終了後、参加者らは参議院議員会館に移動して、報告集会をおこなった。

まず5人の弁護士に改めて自己紹介をいただき、弁護団から口頭弁論の主張の概略を解説していただいた。次に、今回の第3準備書面に関連して、吉田由布子さん(「チェルノブイリ被害調査・救援」女性ネットワーク)に「白血病などの労災認定基準と原子力損害賠償」と題して講演いただいた。

あらかぶ裁判では、書面準備作業の中で毎回私たちも知らなかった重要な発見があり、そのたびに、原発労働者が不当に権利を侵害され被害を放置されてきたことを痛感している。吉田さんの講演からは、労災認定基準や原賠法の改定がなされた1980年前後は、専門家・学者も国も原発で働く労働者の健康を憂慮し、国・社会が労働者の被害を取りこぼさぬよう配慮し制度設計を行っていたことが分かった。原発産業の拡大と利益至上主義の中で見失われてしまったこの姿勢は、原発事故を目の当たりにした今こそ取り戻さなければならないと痛感されられた。

この報告集会は、最後に支える会北九州の本村さんのあいさつで閉会した。参加者は約70人だった。

準備書面の概要

今回の口頭弁論では原告側が第3〜第5準備書面と甲22〜58号証の証拠を提出。第3準備書面を海渡弁護士、第4準備書面を大河弁護士、第5準備書面を川上弁護士がそれぞれ口頭で内容の説明をおこなった。

【第3準備書面:白血病などの労災認定基準と判断は原子力損害賠償における因果関係の判断の重要な裏付けとなる】

白血病などの労災認定基準の判断は、原子力損害賠償における因果関係の判断の重要な裏付けとなる。労災認定基準を定めた通達策定の経緯と損害賠償との関係、原子力損害賠償法の制定と累次の改正経緯、国会における政府答弁について述べた。

基発810号通達(1977年)、通達制定後の労災認定事例と被曝線量、昭和54年原子力損害賠償法の改正と従業員被曝の損害の包含を決めた際の立法趣旨、歴史的変遷を示した上で、白血病は放射線と関係の深い特定疾患であり、5ミリシーベルトを超える被曝をしたものについては、因果関係を推定するとした認定基準には合理性がある。「労災の認定基準というものが原賠法の賠償においても事実上有力な判断的材料にもなる」との昭和54年衆・参科学技術振興対策特別委員会での国会答弁を証拠として提出した。

原告の白血病発症は原告の被曝労働に起因する高度の蓋然性があり、その損害賠償請求を認めることが正義にかなう判断である。裁判所には、重大な原発事故を引き起こし、広範な環境汚染を引き起こした東京電力の正義に反する主張を許さず、原告の法的な救済を図る司法判断が求められている。

【第4準備書面:原告の労働環境は放射線によって深刻に汚染されていた】

原告の労働環境は放射線によって深刻に汚染されており、原告は記録されている以上の被ばくをしていた可能性があることを述べた。

福島第一原発4号機カバーリング工事では、約5か月半もの長期にわたって,極めて高線量な現場(1時間の滞在で最大2m㏜もの被曝量)で工事に従事していたことから,同期間中の原告の被曝量「10.7m㏜」をはるかに上回る被曝をしていると考えられる。

福島第一原発の雑固体設備建屋他設置工事、福島第一原発3号機原子炉建屋カバーリング工事では、 原告は,凄まじい高線量(例えば地上ですら1時間滞在するだけで5m㏜もの被曝量になるなど。)の労働環境で約7か月超にもわたって工事に従事してきたことに照らすと,元請の鹿島建設株式会社が同期間中の原告の被曝量として記録する「4.98m㏜」は極めて過小であると考えられる。

【第5準備書面:外部被ばくの計測についての問題】

高い空間線量から原告は記録線量より相当多く被曝していた可能性が高い。仮に記録された線量を基準とするにしても、計測上の問題があり実際の被曝線量は記録より多い可能性が高い。

①個人線量計測定値の方向依存性

四方八方から飛んでくる状況では、人体による吸収などにより、個人線量計は被ばく線量の69%しか測定していない。原告の外部被ばく線量19.78mSvのうち、福島第一・第二原発構内における被ばく線量15.68mSvの1.45倍は22.72mSv。玄海原発での被ばく4.1mSvと合わせると、被ばく線量は少なくとも26.82mSvとなる。

②原告の線量計の装着場所の問題

原告は、電離規則に違反して、上半身胴体しか覆っていない鉛ベストの下に線量計を付けさせられるなどしており、露出していた下半身、上肢は遮蔽されずに被ばくしていた。鉛ベストの遮蔽率は25%で、記録された確定値10.7mSvを基準とすると14.3mSvになる。暫定値13.07mSvを基準とすると17.43mSvとなる。前項記載の福島第一・第二原発構内での被曝線量22.72mSvは、32.48mSvとなる。玄海原発での被曝と合わせると、36.58mSvとなる。

③勤務準備時間が計測されていない

いわき市の宿泊先からJビレッジまでの移動の間、線量計に記録されない被ばくをしていたので、実際に被ばくしていた線量の値は、この移動の分、記録よりも多いことになる。

④「コントロールバッジ」の扱いについて

被ばく線量の算定に当たり、「コントロールバッジ」で空間線量を測定し、これを被ばく線量から差し引いている。しかし、事故当時の空間線量は人為的にまき散らされた放射能により汚染されたものであるため、事故前における空間線量を用いるべきである。

⑤暫定値と確定値について

平成24年10月4日~平成25年3月30日(元請竹中工務店)の被曝線量の確定値10.7mSvとされ、暫定値13.07mSvより約20%低く、8割程度に改められている。

⑥半面マスクの危険性

原告は、雑固体設備建屋他設置工事中は半面マスクで作業していた。2017年6月6日、JAEA大洗研究開発センターにおいて、作業員5名が被ばくする事故があった。半面マスクを着用していたにも関わらず、プルトニウムなどのα核種24Bqの鼻腔汚染が確認された。半面マスクでは浮遊する放射性物質の侵入を完全に防ぐことはできず、眼球は直接放射性物質に晒される。

⑦8月12日と8月19日の事象について

平成25年8月12日と19日、3号機オペフロ上のガレキ撤去が原因と推定されるダストの大量飛散が起り、空間線量が急激に上昇するという事象があった。雑個体設備建屋設置工事中半面マスクで作業していたことから、WBCで測定できないα線、β線放出核種を吸引し内部被曝をした蓋然性が高い。

⑧原告が3号機の海側でも作業していた

原告は3号機カバーリング工事で建屋の海側でも当該作業に従事していた。3号機の海側は約5000μ㏜/hもの高線量にさらされていた場所であり、カバーリング作業時にも大量の線量を浴びていた。

【東電準備書面】

東電の準備書面では、法令に基づく一般論、被ばく線量管理制度、放射線管理区域内への入退域手続き、被ばく放射線量測定についての一般的な説明が述べられている。今回は法令や管理制度の概要を明らかにするもので、原告の被ばく線量に対する反論は別途おこなうとされている。

【九電準備書面】

九電の準備書面では、原告の玄海原発における被ばく線量が、4.1ミリシーベルトを上回ることはないと主張している。

まず、放射線管理区域、線量限度、線量測定、線量記録、放射線防護、放射線教育、健康診断について、関係法令を示しながら一般的な規則を説明。続いて、玄海原発4号機定期点検工事での原告の作業内容が具体的に示されている。原告は、原子炉容器出入り口台溶接部保全工事(1日間)、余熱除去ラインの配管取り替え作業で溶接作業などをおこなった。

管理区域への入退域について、放射線管理教育テキストを示しながら、具体的に述べている。APDとガラスバッジの装着方法、装備の装着方法などは、放射線教育を遵守している。A~Dまでの放射線管理教育を受けた原告の作業について、まったく問題はなかったと述べている。

51日間の作業は、配管等の運搬、グリーンハウスの組立・解体、カットランドの解体作業であった。グリーンハウスの解体作業での装備は、半面マスクおよび汚染区域用作業服で、カットランドをサンダーで切断する作業の装備は、全面マスクおよび汚染区域用作業服であった。カットランドの解体作業をグリーンハウス外で、常時半面マスクでおこなったという原告の主張はそもそもありえず、事実と異なる。

内部被ばくについては、原告本人のホールボディカウンタ測定結果が証拠として示され、2012年1月17日145cpm、3月22日265cpmで、いずれも800cpmを下回っており、有意な内部被ばくはなかった。胸部にAPDを装着して計測すると、全身への被ばく線量が計測できると考えられる。ガラスバッジ等が装着されていない大半の部位では被ばく線量が異なるという原告の主張は独自の理論だ。

原発の運転時・定期点検時の放射性物質は、コバルト60のようなγ核種が大半である。α、β核種を摂取したとすれば、それ以上にγ核種も摂取しているはずで、γ核種しか計測できないホールボディカウンタでも検出されるはずだ。原告は有意な内部被ばくを受けておらず、α、β核種の摂取はほぼゼロと考えられる。

原告の第1、第2準備書面の要旨はこちら

原告の第3、第4、第5準備書面の要旨はこちら

被告九州電力の第2準備書面の要旨はこちら