フェレット副腎皮質機能亢進症の新治療

現行の治療

フェレットの副腎皮質機能亢進症の治療は大きく分けて外科手術による副腎摘出と内科療法があります。内科療法としてはリュープロレリン(製品名:リュープリン)・メラトニン・フルタミド・アナストロゾール・フィナステリドなど様々な薬品が使用されますが現在日本では比較的安定的な効果をもたらすリュープロレリンがメインで使われることが多いようです。

リュープロレリンは人体薬の性腺刺激ホルモン放出ホルモン作動薬(GnRH agonist)というグループの薬品で、人体では性腺刺激ホルモンである黄体形成ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を抑制する効果があり子宮内膜症・子宮筋腫・前立腺癌など性ホルモン関連疾患の治療に用いられます。フェレットの副腎皮質機能亢進症の治療では病状や容量により1-2ヶ月に1度の注射として投与されます。

デスロレリン・インプラント

(製品名:Suprelorin® F, Virbac Animal Health)

デスロレリンはリュープロレリンと同様の性腺刺激ホルモン放出ホルモン作動薬(GnRH agonist)に分類される薬剤です。インプラントは皮下に埋め込まれた円筒状の特殊容器(2x12mm)から有効成分が一定の割合で放出され継続的な効果を維持する投薬方法で長期にわたる投薬に適しています。Suprelorin® (デスロレリン・インプラント) は日本では未認可ですが、米国ではフェレット副腎皮質機能亢進症の治療薬として認可されています。また欧州ではフェレットの他に雄犬の内科的去勢処置剤としても10年ほど前から使用されています。

デスロレリン・インプラントのメリット

一番のメリットは効果期間が長いことで、報告されている効果期間は最短で8ヶ月から最長で30ヶ月という報告もあります。効果期間は個体によりばらつきがあるため通常は1年毎に新しいインプラントを行います。これにより通院の負担やリュープロレリンと比較してコストの削減が見込まれます。また本病の治療に対して認可されているため効果と安全性に優れています。特に高齢や合併症により外科手術が適さないケースではそれに変わる第一選択薬として用いることができます。

フェレットにおける主なデスロレリンの投与目的

1. 副腎皮質機能亢進症の治療薬として

フェレットの副腎皮質機能亢進症において高い効果が見込まれます。

2. 内科的避妊・去勢処置および高エストロゲン血症の予防として

メスのフェレットは発情期に交尾をしないと高エストロゲン血症を発症し重篤な貧血になり死亡してしまいます。そのため北米から輸入されるフェレットは出荷前に避妊手術をされています。デスロレリンは長期間安定的に避妊・去勢手術に代わり発情と高エストロゲン血症を予防することができます。またオスでも攻撃的な行動を抑制し、強い体臭を減弱させるなど去勢手術と同様の効果を得ることができます。

3. 副腎皮質機能亢進症の発症予防として

副腎皮質機能亢進症は避妊・去勢手術済みの個体に非常に多く発症し、避妊・去勢手術と密接な関係があることがわかっています。これにより手術済みの個体に副腎皮質機能亢進症の予防として用いられることがあります。

安全性と副作用

安全性は比較的高く、欧米での使用経験の中で重篤な副作用はほとんど報告されていません。副作用としてはインプラント後一時的に性腺刺激ホルモンの放出が増加するため症状の悪化が見られることがありますが通常1−2週間以内に収束しその後改善に向かいます。そのほかに比較的まれな副作用として装着部位の腫れ・一過性の痛み・肉芽腫が見られることがあります。

インプラントに際し注意すること

· 本剤はリュープロレリンと同様、病態によっては薬剤に対して耐性をもち、効果減弱や期間の減少が見られることがあります。

そのため全てのケースで1年間の効果を保証するものではありません。

· 副腎皮質機能亢進症の原因が悪性腫瘍によるものでは病状の悪化に伴い投薬に対する反応が減弱することが知られています。

· 本病ではリュープロレリンおよびデスロレリンのいずれも十分な効果が見られないケースも報告されています。

· Suprelorin® は日本では未認可薬剤です。


参考

· Johnson-Delaney CA, edi,2017, Ferret Medicine and Surgery, CRC Press, New York

· Quesenberry KE & Carpenter (Ed.), Ferrets, Rabbits and Rodents--Clinical Medicine and Surgery. St. Louis, Missouri.

· Lennox AM,20017, Strategies for Treatment and Prevention of Adrenocortical Disease in Ferrets, Pacific Veterinary Conference 2017, proceedings

· Schoemaker NJ, Pabon M, Moorman-Roest J. Deslorelin implants as an alternative for surgical castration in ferrets. In: Proceedings of the Association of Exotic Mammal Veterinarians; 2010.

· Wagner RA, Finkler MR, Fecteau KA, Trigg TE. The treatment of adrenal cortical disease in ferrets with 4.7-mg Deslorelin Acetate implants. J Exotic Pet Med. 2009;18(2):1460152.

· Prohaczik A, Kulcsar M, Trigg T, Driancourt MA, et al. Comparison of four treatments to suppress ovarian activity in ferrets (Mustela putorius furo). Vet Rec. 2010;166(3):74–78.

· Simone-Frielicher S. Adrenal gland disease in ferrets. Vet Clin North Am Exot Anim Pract. 2008;11(1):125–137.

· Lennox AM, Wagner R. Comparison of 4.7 mg Deslorelin implants and surgery for the treatment of adrenocortical disease in ferrets. J Exotic Pet Med. 2012;21(4);332–335.