クレステッドゲッコー (オウカンミカドヤモリ)

2ヶ月程度の間に徐々に元気や食欲が減少、一方で腹部が膨らんでいるとのことで来院されました。レントゲンでは腹部に大きな塊が右半身の大部分を占めて腸などの臓器を左側に押しやっており、右側の肺も圧迫されていることがわかりますが、この段階では内部臓器のどの部分が大きくなっているかはわかりません。

総排泄口から少量の造影剤を注入すると大腸が白く造影されますが、大きな塊を避けて左方向に流れているので、塊は大腸ではないことがわかります。また超音波で大きな塊の中はほぼ液体であることがわかり、卵巣・卵管・膿瘍・嚢胞・血腫などが考えられました。


これ以降の検査や治療にはある程度のリスクが伴いますが、飼い主様の同意をいただきまずは鎮静をかけて中の液体を吸引して見ることにしました。鎮静下で中の液体を吸引すると茶色い液体が6mlほど採取できました。また採取後のレントゲンでは右半分を占めていた塊も小さくなり肺もはっきりと見えるようになりました。

液体を検査すると成分は炎症を伴う体液でした。また鎮静中に超音波で周囲を観察すると複数の卵胞と思われるやはり液体の含む構造物が見られます。これまでの情報からおそらく卵巣または卵管に体液を含む嚢胞が形成されたと予想されます。この時点では一度退院して経過観察することになり、腹部の圧迫がなくなったことで食欲も出て元気になりました。ただ10日ほどするとまた腹部が膨らみ、同じ場所に液体が溜まってきたようでした。飼い主様も非常に悩まれましたが、試験開腹手術を行うことになりました。


腹部右側の卵巣と思われる部分は複数の卵胞を含みつつ全体が癒着して一つの塊となり、黒く変色しています。また左側の卵巣にも発達した複数の卵胞が見られ、一部が黒く変色し始めています。今回の手術では左右の卵巣に流れる血管を熱でシーリングして止血しながら切断する機械を使って出血量を最小限に摘出しました。最後に内臓をチェックし、他に出血や異常がないことを確認して縫合しました。手術後の回復は早く、すぐに食欲も出てくれました。

抜糸時はかなり元気に動き回るようになっていたため、短時間の麻酔を行い抜糸をしました。今回は一連の検査や治療中に大きな合併症もなくスムーズに回復してくれました。クレステッドは警戒するとすぐに尻尾を落とし2度と生えてくることはありませんが、今回は最後まで尻尾を失わずに完治した比較的稀なケースだと思います。