慢性腎疾患とIRISガイドライン

慢性の腎疾患は早期発見が困難で、慣例的な血液検査で異常値がでた時はすでにその2/3の機能が失われていると言われています。また多くの場合、悪化した腎臓の機能を戻すことはできません。そのためわずかな異常でも腎臓病が疑われる場合は早期に治療を開始することが推奨されています。

これにより病気の進行を遅らせ、出来るだけ長期にわたり普通の生活が送れるよう生活の質の向上を目指します。特に高齢の猫では慢性腎疾患が非常に多く、明らかな症状が見られないまま病気が進行する例も多く見られますので定期的な健康診断により腎臓病の発症をいち早く診断することが望まれます。

現在では国際腎臓病研究会 (International Renal Interest Society) のガイドラインをもとに病気の進行度をステージで分類し治療するやり方が一般的です。一方これらはあくまでもガイドラインですので、画一的な治療を行うのではなくこれらをもとに個々の症状・検査値の異常・ライフスタイル・投薬の可・不可・投薬の種類や頻度を考慮しながら治療方針を話し合っていくことが大切です。

腎疾患が疑われる症状の例

  • 体重減少・嘔吐の頻度が増加・多飲多尿・脱水症状・食欲不振・口臭

  • 心雑音の有無(猫では慢性腎疾患に起因する心雑音が頻発します)

  • 貧血・高血圧による網膜症状

血液検査

IRISガイドラインでは特にクレアチニンとSDMAをもとに腎臓病をステージ分類します。そのほかにリン・カリウム・ナトリウム・カルシウムなども重要な項目となります。

IRISによるステージ分類

尿検査・血圧測定

上記のステージ分類の他に尿検査によるタンパク尿の有無や血圧測定による高血圧の有無を見極め、必要に応じて治療を検討します。

画像検査

上記検査のほかにレントゲンや超音波検査により腎臓の大きさ・形・左右対称制・血流の状態・腫瘤など異常な変化の有無を見ます。また必要に応じて造影剤による検査や組織検査も検討されます。

ステージ分類による治療の例

ステージ1

  • 現在投薬中の薬で腎臓に影響のある薬は投与量・頻度・投薬を見直します

  • 腎臓以外の循環器や下部尿路疾患(膀胱炎など)の有無を確認します

  • 十分な水分補給ができるように新鮮な水を常に準備します

  • 定期的にクレアチニン・SDMAを計測しモニタリングします

  • 腎疾患を誘因する別の病気や腎疾患によって起こる合併症の有無を確認します

  • タンパク尿や高血圧がある場合は合わせて治療します

  • 血液中のリンを一定濃度以下 (< 4.6mg/dL)に維持するよう試みます

  • 必要に応じて腎臓病用食の使用を検討します

ステージ2(上記に加えて行う)

  • 血液中のカリウム等の電解質に異常値がある場合は補正します

  • 腎臓病用食を積極的に導入します

ステージ3(上記に加えて行う)

  • 血液中のリンを < 5.0 mg/dL に維持するよう試みます

  • 体の酸性化(アシドーシス)を補正します

  • 貧血・嘔吐・食欲不振があれば症状の改善を試みます

  • 点滴による脱水症状の緩和をおこないます

  • 犬ではカルシトリオールの投薬も検討します

ステージ4(上記に加えて行う)

  • 血液中のリンを < 6.0 mg/dL に維持するよう試みます

  • 皮下点滴の増量によるアシドーシスの補正や脱水症状の緩和をします

  • 重度食欲不信や食欲廃絶では流動食の使用も検討します