FIP (猫伝染性腹膜炎)について
FIP (猫伝染性腹膜炎)について
既に3年になろうとするコロナウィルスの世界的感染は我々にとっても多くの動物にとっても大惨事となりましたが、コロナ禍ならではの数少ない恩恵の一つがFIPの治療に光が見えたことではないでしょうか。
FIPに関する一般情報は広く知られているところですので割愛しますが簡単には
• 発見されたのは1963年、原因・病態の詳細は60年近く経過した現在でも不明
• 現時点では効果的なワクチン・予防措置はなし
• 低病原性の腸炎型コロナウィルスが体内で変異し高病原性FIPウィルスになることで発病する説が広く受け入れられている
• 検査はコロナウィルス抗体価検査・一般血液検査・画像診断・PCR検査などが用いられるがいずれの検査でも確定診断はできないのでこれらの検査結果と実際の症状を総合的に判断。
• 唯一の確定診断方法は感染臓器のサンプルを採取し、病理検査で組織内のウィルス抗原を検出するが、ハイリスクのためあまり現実的な方法ではない。
• 現在は複数の蛍光抗体染色による新しい検査などが研究されてる。
GS-441524
Gilead Sciences (特許保有者)が開発した抗ウィルス薬で同社はのちにGS-5734レムデシビルを開発
GS-441524は中国で生産されるようになり、各国の農水省や医薬品局から認定されていない非認可薬として2020年ころからブラックマーケットで取引されるようになりました。
非常に高い薬効がクチコミで評判になりましたが模倣品や偽薬などが高額で販売されるようになり注意喚起がなされていました。
GS-441524は非認可薬であることから投与実験・安全性試験がされることなくまた多くの場合獣医師の介入なく使用されており、実際の薬効については全て不明でしたがこの度GS-441524の使用者393例から集めた統計がまとまり発表されました。
FIPが強く疑われる猫に対する投与では下記のようになっています。
• 生存:96.7%、死亡3.3%と高い生存率を示しています。
• 完全回復54%、回復後の経過観察中43.3%、再発2.7%
• 使用開始後1週間以内に体調の改善が見られたケース88.2%
• 日常と変わらない様子まで回復するに要する平均期間3.85週
• 投与開始時の平均用量6.7mg/kg 1日1回皮下注射、投与期間84日
• 平均コスト50-60万円程度
• 一般的な副作用は注射部位の痛みや腫れ
ただし本統計は実際に使用した人からの情報を集計したもので通常の医薬品投与実験ではありません。また診断が困難な病気であることからFIPではないケースも含まれる可能性があります。
FIPの治療と予防について
GS-441524の開発や使用によりこれまで100%治療不可能だった病気が治療できるようになったことで新たなスタート地点に立ったことは間違いありませんが、今後は更なる治療法の確立に向けさまざまな問題提起がされていきます。
• 更なるウィルスの変異に対する効果は?
• ウィルスによる薬物耐性は?
• 投与後の長期的な体の変化は?副作用は?
• 長期的な予防効果は?再発防止は?
• 治療中のモニタリングの方法は?
• 経口投与薬との併用は?
• コロナワクチンの使用はFIPに有効か?
GS-441524自体が認可薬になるかどうかは現時点では未定ですが、既に人体用に認可されているレムデシビルや経口投与薬による治療例も報告されています。欧米ではまだコロナウィルス薬の動物への使用は許可されていませんが一部の国では動物への使用が始まっています。今後コロナウィルスの動物への使用が一般的になればブラックマーケットに依存せず有効な治療が可能になると思われ期待が高まっています。