鳥類の遺伝的多様性の調査研究、ならびに有用遺伝資源の発掘とその応用

1)ニホンウズラ家禽集団における遺伝的多様性と遺伝的構成に関する研究

現在世界中に存在する多様な家畜・家禽の中で、ニホンウズラ(Coturnix japonica)は唯一日本で家畜化された動物です。ニホンウズラは孵化後6週令で産卵を開始し、孵化日数は17日であるため、1年間に5 ~ 6世代の交代が可能であり、実験動物として非常に優れた生物学的特性をもちます。ニワトリと同様に多くの突然変異形質が発見されており、遺伝様式が知られているものだけでも70を超えます。さらに、最近、東京農業大学生物資源ゲノム解析センターとの共同研究でニホンウズラのゲノム配列が解読されたことから、研究用のリソースとして、そしてニワトリ研究のパイロットアニマルとしてのウズラの価値がさらに高くなってきました。しかし、ウズラにおいては、これまでに十分な遺伝的調査が行なわれていないため、既存のウズラ系統の遺伝的な特性や遺伝的な均質度についての情報はありませんでした。

そこで、私たちは世界に先駆けて、ニホンウズラのゲノム配列情報に基づいて1 ‒ 28番染色体とZ染色体をカバーする100を超えるマイクロサテライト(MSDNAマーカーを開発し、コマーシャルラインを含む11系統についてタイピングを行いました。その結果、名古屋大学が保有するウズラリソースのLWCAMRPQuvRWNETKPL系統で低いヘテロ接合率(0.081 ‒ 0.162)が得られ、疾患モデル系を除くAMRPTKPL系統がニホンウズラの標準系統となり得ることを明らかにしました(図1)。さらに、各系統間の遺伝的類縁関係を調べた結果、系統間で遺伝的な分化が生じており、ウズラでも遺伝的背景が異なる多様な系統が存在することが判明しました。この結果は、名古屋大学のウズラリソースが実験動物として非常に利用価値が高いことを示しています。


図1.ニホンウズラ11系統の128番染色体とZ染色体のヘテロ接合率と各系統の遺伝的構造の比較.A. 縦のバーは染色体ごとのMSマーカーのヘテロ接合率を示す.数値は系統ごとの平均ヘテロ接合率を示す.赤い四角で囲んだ系統は名古屋大学の系統を示す.B. Structure解析は、各系統の遺伝的な類似度を示す.すべての系統で色が異なることから、系統ごとに遺伝的組成が異なることがわかる.

 

1)ニホンウズラ家禽集団における遺伝的類縁関係に関する研究

ニホンウズラはニワトリに並ぶ優良な家禽として、世界各地で卵産生用、食肉用に使用されています。ニワトリと比べて体サイズは小さく、飼育スペースや飼料をあまり必要とせず、病気に強いなどの特徴があります。また、成熟期間が短いこともあり、実験動物としての価値が高く、生命科学の研究分野でも広く利用されています。しかし、世界的に見てもニホンウズラの家禽集団の遺伝的背景については良く知られていないため、最近、家禽集団の遺伝的特性の解析が行われるようになってきました。たとえば、農家で維持している集団の遺伝的多様性の解析や(Emrani et al., 2011Ahmad et al., 2014)、商業的形質(卵サイズや体重量;Narinc et al., 2013, 2014)に関わる遺伝的要因の研究などが行われつつあります。一方で、ヨーロッパに家禽として導入されたニホンウズラと在来種のヨーロッパウズラ(Coturnix coturnix, Common quail)との交雑による遺伝的汚染が問題視されています。

今後、家禽のニホンウズラの遺伝学的解析が世界各地で盛んに行われるようになると予想されます。我々は、ニホンウズラのドラフトゲノム配列をもとに開発した100個のマイクロサテライトマーカーから、特に多型が多く見られた50個のマイクロサテライトマーカーを開発しました(Tadano et al., 2014)。そして、研究用に使用されている数多くのニホンウズラの実験系統、ならびに日本における商業用ニホンウズラや、海外の食肉用ニホンウズラ等の遺伝的特性についての解析研究を進めています。

表1.50個のマイクロサテライトマーカーを用いて算出した、ニホンウズラ集団の遺伝的多様性

系統名個体数平均アリル数ヘテロ接合度(観察値)ヘテロ接合度(期待値)FIS
LWC402.280.350.33-0.02
AMRP401.720.240.230.00
Quv402.420.230.250.22
RWNE401.660.220.21-0.02
TKP401.360.130.11-0.17
WE402.780.380.40.09
AWE402.520.370.360.05
ジャンボ系(D)(オランダ産肉用ウズラ)122.260.340.340.02
ジャンボ系(W)(オランダ産肉用ウズラ)162.380.330.350.07
L系213.060.340.370.17
フランス系(フランス産肉用ウズラ)142.460.410.4-0.01
エストニア系(エストニア産肉用ウズラ)61.40.220.18-0.21
ヤセイ系(野生ニホンウズラ由来閉鎖系集団)404.080.520.560.09
日本産商業用ニホンウズラ575.340.50.560.12


図2.50個のマイクロサテライトマーカーを用いて構築したニホンウズラ集団のネットワーク(Tadano et al., 2014を改変)



商業用ニホンウズラや、ハンガリー・ブラジルの肉用ウズラを加えてSTRUCTURE解析という、各ウズラ集団のクラスタリング解析を行ったところ

(AWEに由来する集団、BAMRP、Crb-TKP、Dその他のウズラ(NIES-L、日本の商業用ウズラ、肉用ウズラ、野生ウズラ)

の4グループにクラスタリングされました(図3)。

図3.STRUCTUREによるクラスタリング解析(Nunome et al., 2017を改変)




さらにミトコンドリアDNAの中でも最も多型的といわれるD-loop領域のうち280 bpのDNA配列を調べたところ、家禽ニホンウズラからは6種類の配列(ハプロタイプ)が見つかりました。
そのうち、多くの実験用系統で見つかったJqD1は、データベース上の登録配列と照合したところ、ヨーロッパの家禽ニホンウズラの多くがもつハプロタイプと全く同じ配列でした。
この結果は、世界のほぼ全ての家禽ニホンウズラは、最近、日本から輸出された商業用ウズラを基礎にしているという文献情報と一致しました。

表2.家禽ニホンウズラのD-loop領域にみられた配列の種類(ハプロタイプ) (Nunome et al., 2017 を改変)
 ハプロタイプ 左記のハプロタイプを保持する系統 相同なデータベースの配列 相同性   (%) 挿入・欠失サイト (%)
 JqD1 LWC, WE, AWE, rb-TKP, NIES-L, JD, JW, NIES-Br, NIES-Hn, W, 商業用ウズラ(日本), 野生ニホンウズラ (本州、旅順)DQ087957, KF410830 →ヨーロッパの家禽ウズラに優占的にみられたタイプ 278/278 (100.0) 0/278 (0.0)
 JqD2 WE, AWE, AMRP, W, 商業用ウズラ(日本), 野生ニホンウズラ(対馬、旅順) KF410834 278/278 (100.0) 0/278 (0.0)
 JqD3 Quv, RWN, WE, Estonia, NIES-Fr, 商業用ウズラ KF410834 275/278 (99.0) 0/278 (0.0)
 JqD4 commercial (1個体) KF410830 277/278 (99.6) 0/278 (0.0)
 JqD5 RWN (2個体)、W(2個体) KF410834 276/278 (99.3) 0/278 (0.0)
 JqD6 商業用ウズラ(日本) (1個体) KF410834 276/278 (99.3) 0/278 (0.0)
 JqW1 野生ニホンウズラ(本州) KF410834 277/279 (99.3) 1/279 (0.3)
 JqW2 野生ニホンウズラ(本州) KF410834 277/278 (99.6) 0/278 (0.0)
 JqW3 野生ニホンウズラ(対馬) KF410834 276/278 (99.3) 0/278 (0.0)


図4.D-loop配列の系統関係(Nunome et al., 2017を改変).大きく二つのグループに分岐した。
日本およびヨーロッパの家禽ニホンウズラのほとんどはGroup 1のJqD1(F1W1、H1)のタイプを保持している。

D-loop9個のハプロタイプは、二つのグループDloop-Group1Dloop-Group2)に分かれました。

Group1JqD1JqD4、そしてヨーロッパの家禽ウズラのハプロタイプのグループ、Group2JqD2JqD3JqD5JqD6、そして野生ウズラの3種類のハプロタイプでした。

Group1JqD1H1)タイプが中心で、その他のタイプ(JqD4F4F8など)はそれぞれ一個体から見つかったものでした。ヨーロッパ諸国やブラジル(NIES-Br)のウズラが同じハプロタイプを持つという結果は興味深いもので、JqD1を持つウズラが世界各地に行き渡ってからそれほど時間がたっていないことを意味しています。つまりGroup1は最近世界に広まったグループであり、第二次世界大戦に日本から輸出されたウズラの子孫であると考えられました。

Group2JqD2を中心としたグループでした。JqD2 JqD3 などGroup2のタイプは、古くから維持されている集団(WEやAMRP)が保持していたタイプでした。野生ウズラから見つかったW1-W3のタイプ、モンゴルの野生ウズラのタイプH63Group2に属しました。このことから、Group2Group1よりも古い時代の家禽ウズラ集団であると考えられました。

家禽ニホンウズラの歴史と遺伝的グループ

家禽ウズラの歴史

11世紀~12世紀ころ、日本(中国という説もある)で家禽化が始まる
②江戸時代以降は愛玩用として育成(声や羽の色)
19世紀末~20世紀初旬、愛玩用から作出された卵・肉用(米国には狩猟用でも)ウズラが世界に輸出
④第2次世界大戦で(世界的に)ほぼ絶滅
⑤生き残った商業(卵)用ウズラ数羽と野生のウズラから商業用集団は再興し、再び日本から世界に輸出

 ミトコンドリアDNAGroup1は上記の歴史⑤を、Group2は②+③を表していると考えられます。

また、マイクロサテライトDNAの(A)WEほか+(B)AMRPは、歴史②と③のグループであると考えられます。(A)のWEのもととなったCEという系統は、日本の商業用ウズラと米国の実験用ウズラを交配させて得られた系統です。この米国から導入した実験用ウズラが、歴史③のウズラに由来すると考えています。また(B)のAMRPは“パンダ”と呼ばれる、白地に黒い斑点を持つ羽装色のウズラ系統です。1918年の文献に、この“パンダ”羽装のウズラに関する記述があることから、AMRPは②のウズラに由来すると考えられます。そして、マイクロサテライトDNAの(D)のグループは、⑤の戦後のウズラに由来すると考えられます。

本研究の結果から、家禽ウズラには遺伝的に異なる二つのグループがあることが明らかとなりました。
それは戦前と戦後、二つの異なる時代に作られた家禽ウズラに由来するグループだと考えています。
今後は、ミトコンドリアゲノムの全塩基配列とゲノムワイドなSNP解析を行い、家禽ウズラの遺伝的多様性と育成の歴史との関係を追っていきたいと考えています。


文献

1) Kawahara-Miki R, Sano S, Nunome M, Shimmura T, Kuwayama T, Takahashi S, Kawashima T, Matsuda Y, Yoshimura T, Kono T (2013). Next-generation sequencing reveals genomic features in the Japanese quail. Genomics 101: 345353.

2) Tadano R, Nunome M, Mizutani M, Kawahara-Miki R, Fujiwara A, Takahashi S, Kawashima T, Nirasawa K, Ono T, Kono T, Matsuda Y (2014) Microsatellite polymorphism discovery in Japanese quail provides insights into genetic diversity and population differentiation. Animal Genetics 45:881-884.

3) Nunome M, Nakano M, Tadano R, Kawahara-Miki R, Kono T, Takahashi S, et al. (2017) Genetic Divergence in Domestic Japanese Quail Inferred from Mitochondrial DNA D-Loop and Microsatellite Markers. PLoS ONE 12(1): e0169978. doi:10.1371/journal.pone.0169978

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